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「救急車体験記」#3

2018.6.24

親指にできた黒い結び目を見て、最近の「縫う」ってこれなのか、と思った。
縫うと言ったら波縫いみたいに一本でチクチク縫っていくのかと思っていた。

これが一針と数えるのかな、と思っていると、2つめにさしかかった。再び目をそらして時計を見る。

「また少し刺しますからね、痛かったらすぐ言ってくださいね」

今度はぷす、という感覚があった。それから皮膚が引っ張られるような感覚があった。

「…っ…」
声にならない声を出すと、「痛かったですか?」とすぐ反応があった。
痛いわけではないが、明らかに「ぷす」という針が通った感覚があったので、
「何か…引っ張られている感じがします」
と答えた。

そんな会話の間に、2つめの結び目が完成した。痛くても縫合は進んだのかもしれない。
これで完成らしい。

「これで押さえると血が止まります」
指の腹をしばらくの間ぐっと押さえ、手を離すと再び指から血が膨れ出した。
2か所から血が膨れていたのが、1か所だけになった気がする。

お医者さんがもう一度指の腹を押さえ、再び手を離すと、血は出てこなくなった。
この状態で看護師さんがガーゼを巻き、テープで固定してくれた。

「お風呂に入ってもらって大丈夫です。
あと、抜糸なんですけど、ここでもいいですが家の近所でもどこでもできます。もし他の病院で予約取られるなら紹介状を書きますが…」

外科。実家。山奥。
家の近所の病院がすぐ思いつかない。
すみません、もう一度ここに来ます。この病院でお願いします。

平日は17時までということで、木曜の朝一を予約。
看護師さんが「大袈裟ですけど」と言いながら包帯を巻いてくれた。
これ大袈裟なんですか。それほどでもないんですね。
確かに先生も、「切れてるだけなので縫わなくてもいけるかもしれませんが…」と言っていた。

「包帯は明日はずしてもらって良いです。薬局で防水テープなどが売られているので、水に濡れないようにしてください」
「ものすごく原始的にポリ袋を手にかぶせても良いですか」
「大丈夫です」

ここで、患部に当てたガーゼをどうするのか聞き忘れた。
必要に応じて会社の最寄りの外科へ行こう。

0時15分。
先ほど何かの書類を書いていた男性が、部屋の外へ案内してくれた。そしてすぐ隣の部屋に案内してくれた。
部屋のドアを開けながら、「住所、神戸やってんね」と聞かれた。

はいそうです。いえ、私も神戸なんでね。あ、そうですか。でも山の方はちょっとよく分からなくて。
都会の方に住んでいる人らしい。

その男性は出納担当らしく、もうお支払いができないので預かり金を頂かないといけないんです、と言った。
財布から諭吉さんを取り出して渡す。もし諭吉さんがいなかったらどうなっていたのだろう。

男性が証書を作成しに行っている間、久しぶりに携帯を見ると知人からメッセージが届いていた。

「手首切ったって本当ですか?!」

こうなると怪我の趣旨が変わってくる。
懇親会のメンバーと同じ会社繋がりで、早くも情報が届いたらしい。
指を切ってからまだほとんど時間が経っていないにもかかわらず、すぐ安否を気遣ってくれたことに感動した。
しかし同時に、この誤解を一刻も早く解かねばならない。
あの、手首ではないです。

続く。

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