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トリップ #毎日ネタ出し37日目

【タイトル】

トリップ

【あらすじ】

「俺が彼女を救うんだ」

そう思うようになったのは、あの事件がきっかけだった。

私は都内に勤務するサラリーマン。40歳を過ぎたのだが、未だに平社員。後輩たちにもどんどん追い抜かれ、会社では煙たがれている。どうにも仕事が遅いらしく、最近では10も歳が離れた後輩から説教までされる始末。

しかし、それでいい。私は何も感じない。このままヘラヘラして過ごしても金は振り込まれる。私は会社のサンドバックだ。皆のストレスのはけ口として役に立つのなら、そんな楽な仕事はない。

そんなことを考えながら、今日も会社へと向かうために駅のホームに立っていた。そんな私の目の前に、1人の女性が現れる。一目見ただけで、彼女が周りの人間とは違う存在なんだと理解した。長くて綺麗な黒髪、ハッキリとした目鼻立ち、スラッとした体形。その全てが他の誰とも違い、オーラを放っていた。

「こんな女性、はじめて見たな」

思わずそうつぶやいてしまうほど、魅力的な女性だ。でも、自分とは住む世界が違う。どうせお金持ちの彼氏でもいるんだ。彼女を拝めただけでも幸せだと思おう。私は卑屈になりながら、ため息をつき下を向いた。

そして、ふと前を見ると、何と彼女は線路からホームに向かって歩いていくのだ。

「な、何を考えているだ? まさか線路に飛び込むつもりか?」

私は急いで彼女の腕を掴み、彼女を線路から遠ざけた。

「ど、どうしたんですか? あんまり変なこと考えちゃダメですよ」

とっさのことで、彼女も気が動転していたのか、私の掛け声にも反応せずその場から去っていった。

「あんなキレイな人でも自殺なんて考えるんだ。……何とか守ってあげたいな」

そして、翌日も彼女のことを見かけた。私は、また線路に飛び込まないか心配になり、彼女の後ろにコッソリと近づく。昨日のこともあり、あんまり近づくといけないと思い、少し距離をとることにした。

しかし、それが間違いだった。

電車が近づいてきたとき、彼女は線路へと飛び込んでしまったのだ。一瞬の出来事に、私はどうすることも出来なかった。そして、その場にひざから崩れ落ちる。

「……何で、何で彼女を止められなかったんだ。彼女が自殺を考えていることを俺は知っていたのに……」

激しい後悔が私を襲い、その場でうずくまった。そんな私のもとに、1人の少年が声をかけてきた。

「おじさん。彼女を救いたいの?」

「だ、誰だい、君は?」

「……彼女を救いたいの?」

「あ、ああ! もちろんだとも! でも救えなかったんだ俺は……」

「なら、過去に戻って彼女を救ったら? 僕がおじさんを過去に戻してあげるよ」

私は耳を疑った。この少年はひやかしに来たのか? そう思ったが、私はすがる思いで、

「出来るなら早くやってくれ! そして私を過去に戻してくれ!」

そう叫んだ直後、私は気を失った。そして、目が覚めると、そこは自分の部屋だった。

「……何だったんださっきのは? 夢なのか?」

頭がぼーっとする中、時計をみるともう出社の時間。急いで支度をし、駅へと向かう。しかし、私はそこで驚いた。なぜなら、駅のホームに彼女がいたからだ。

「あ、あの少年が言っていたことは本当なんだ。俺は過去に戻ってきたんだ。……もう二度と彼女を死なせない」

そう決意した私は、彼女に近づき声をかける。

「あの、いきなりすいません。ここにいては危険です。今すぐここから離れましょう」

彼女は驚いた表情を見せた。それはしょうがない。だっていきなりそんなことを言われたら、誰だって驚く。

しかし、彼女は一瞬の隙を見て、私の前からいなくなった。そして、またしても線路へと飛び込んでしまったのだ。

「な、何でだ。何で俺は動けなった……。またしても彼女を救えなかったじゃないか!」

そう絶望している私の元に、またあの少年が姿を現した。

「大丈夫。僕がおじさんを過去に戻してあげるよ」

そして、私は再び気を失い、目が覚めると自分の部屋にいた。

「……そうか。これはもう使命なんだ。彼女を救う。それが俺に与えられた使命だ」

そして、私は決意する。

「俺が彼女を救うんだ」

end


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