赤い花
割引あり
あの日のことは、よく覚えていない。
たくさんの人から励ましの言葉をもらったが、白黒の中はまるで異世界のようで全く耳に入ってこなかった。
冷たく降る雨を茫然と見つめていた。
「あぁ雨は嫌だな…。」と思っていると私の気持ちとは正反対に膝の上ではしゃぐ声が響き渡る。
その楽しげな声を何となく聞きながら、ただただこれからのことと、もし君が戻ってきてくれたらこの世界もまた鮮やかに染めてくれるのだろうか、と考えていた。
この子の名前は咲(さき)。
まだ1歳半で母親の死を理解出来ていないようで「ママは〜?」とよく私に聞いてくる。
その度に「ママはお空にいるんだよ。」と教えてやる。
咲の顔立ちは春花(はるか)に良く似ていて、その顔で笑いかけられると胸が締め付けられるようだった。
春花がいなくなってから3ヶ月、仕事に育児に家事と目の回るような日々を過ごしていた。
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