誹謗中傷されたときの対処法とは?#安心創作勉強会 イベントレポート
インターネットでの誹謗中傷や炎上といったトラブルが社会課題になっている昨今。クリエイターが安心して創作に集中できるよう、「誹謗中傷されたときの対処法」をテーマに、炎上したときの初期対応や削除依頼・開示請求についてのイベントを開催しました。
ご登壇いただいたのは、書籍『サイト別 ネット中傷·炎上対応マニュアル』の執筆や、テレビドラマ「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」の法律監修を手掛ける弁護士・清水陽平先生です。
※本記事は、2024年8月27日に開催された無料オンライン勉強会「万が一に備える!誹謗中傷されたときの対処法」の一部を抜粋したイベントレポートです。
炎上した際の「3つの対応方針」は静観・謝罪・反論
——昨今は何が原因で炎上するか、予測がつかない時代になってきました。もし炎上してしまったとき、最初に考えるべきことは何でしょうか。
清水陽平先生(以下、清水) まずは「何が問題視されて炎上しているのか」を確認する必要があります。大まかに分けて2つのパターンがあり、「法的に問題がある場合」、「法的には問題ないが社会的に不適切な場合」のいずれかで炎上しているケースが大半です。この区別をきちんとしたうえで、3つの対応方針があります。
①静観する
②謝罪する
③反論する
このうち「主観的には炎上しているけれども、客観的にみたら大したことのない」ケースは、静観するといいでしょう。謝罪や反論を行うかどうか、迷ったときのひとつの目安は「まとめサイトができているかどうか」です。まとめサイトができる炎上は、話題性があり、今後も同じような投稿が増える可能性があります。その場合は、謝罪もしくは反論の対応を取る必要性が出てくると感じます。
しかし、謝罪するのは、自分に非がある場合のみに限るべきです。何が問題だったのかを的確に把握して「誰に対して、何の謝罪なのか」をきちんと出していくことが大切だと思います。
以下に謝罪をするときに使ってはいけない「4つのワード」があるので、参考にしてみてください。
——3つ目の手段である「反論する」は、どのようなときにとるべきですか。
清水 たとえば、デマが拡散されているケースです。反論するときは、事実関係を淡々と説明するような、あくまで「事実関係が間違っていますよ」ということを前提にして行うといいでしょう。稀に「法的には問題がないから自分は悪くない」と、反論をしている方を見かけますが、可能な限り避けたほうがいいと思います。
誹謗中傷で取れる2つの法的対応とは?
——誹謗中傷に対して法的にどのような対応ができるのか、教えてください。
清水 基本的には「ネットから情報を削除する」と「発信している相手を特定する」の2つになります。ここでは、より対応が難しいとされている「相手の特定」について詳しくお話しします。
たとえばデマを流されて、法的に損害賠償請求や刑事告訴をしたいと考えても、発信者がどこの誰かわからないことが大半です。訴えるためにも、相手を特定しなければなりません。
本来、刑事告訴は氏名不詳者に対しても可能ですが、警察から「相手を特定してから持ってきてください」と言われるケースがよく見受けられます。特定には「発信者情報開示請求」という手続きを行います。
特定までには、約4〜8ヶ月は必要だと考えておくといいでしょう。本当に早いケースでは2ヶ月ほどで特定できる場合もありますが、サイトによって対応スピードが異なるので一概に何ヶ月と断言しづらいのが実情です。
——どのような誹謗中傷の場合、法的な対応をとることが可能なのでしょうか。
清水 実は誹謗中傷という言葉は、法的には定義付けされていません。不快なことをまとめて「誹謗中傷」と言うこともありますが、すべてが法的対応ができるわけではないのです。
具体的に、どういうものが削除や開示請求の対象になるのか。それは、個人のプライバシー権や名誉権、肖像権、著作権などの権利が侵害されている場合ですが、この権利を侵害されたかどうかを判断するのは、かなり複雑です。単に、「ラーメンを食べたけど不味かった」というのは事実関係を評価して意見したり、論評したりすることで、基本的には自由であるべきですよね。
人格否定やある人に対する執拗な攻撃などは、意見論評の域を越えるので、権利侵害にあたると考えられます。ただ、この権利侵害にあたる具体的な基準はないので、言葉自体の強さや文脈などさまざまな要素を組み合わせて検討することになります。
投稿削除を求める際に必要な「送信防止処置依頼書」とは?
——では誹謗中傷として、SNS投稿などを削除したいと考えた場合はどうすればいいのでしょうか。
清水 削除の方法は、それぞれ裁判する場合・しない場合があり、手法まで分けると8つほどあります。
清水 今回は「サイト運営者に削除要請する場合」を考えてみましょう。
掲示板やまとめサイト、ブログなどの多くは相談窓口となるWEBフォームや対応メールアドレスを用意しているので、そこに連絡するのがひとつの手です。
一方で窓口を設けていない会社には、「送信防止処置依頼書」という投稿削除を要求するための書面を作成します。
まとめサイトなどで運営者の住所がわからないケースもありますが、この場合はレンタルサーバーなどの運営会社に対して、依頼書を送ることになります。
ただ、送信防止処置依頼書はあくまで削除の依頼であって、強制力があるものではありません。さらに依頼できるのも国内の運営会社のみです。国外の場合はWEBフォームで削除依頼するほうがいいでしょう。実際に送付する依頼書は、下記のようなものです。
——送信防止措置依頼を記入するうえで重要なことはありますか。
清水 自分の名前や掲載された場所、情報などを記入するのですが、重要なのは権利侵害された理由です。「名誉毀損なのは、投稿を読めばわかるでしょ」と簡潔に書かれる方もいますが、受け取った側は事実関係を把握していない中で読むので、いきなり「この書き込みは問題だから削除するべきだ」と言われても、何が問題なのかわかりづらいんです。そのため、投稿内容が「なぜ自分に向けた内容だとわかるのか、どの点が問題なのか」を明記してほしいんです。
加えて、投稿内容に公益性がない場合は、削除してもらいやすくなります。事実無根で、嫌がらせ目的であることを裏付ける証拠を添付すればいいでしょう。
送信防止措置依頼書を受け取った会社は、発信者に意見照会することになっています。発信者から7日以内に反論がなければ削除していいルールですが、必ずしも投稿が削除されるわけではありません。また意見照会をするときに、削除依頼の内容が発信者にも共有されるので、注意が必要です。相手に「こういう削除依頼が来た」と、炎上ネタを与えてしまう危険性もあります。
——発信者を特定する方法についてはいかがでしょうか。
清水 発信者を特定する場合にも4つほどルートがあるのですが、いずれの場合でも書き込んだ本人に「あなたの情報を公開していいか」という意見照会が行われることになります。
大抵の場合、自分の情報を開示するのは拒否しますよね。そのため、最初から裁判で開示請求することが基本となります。
SNSサービスによって異なる対応
——さまざまなSNSサービスがありますが、投稿の削除や開示請求などの対応に違いはありますか。
清水 まず最も相談が多いのがX(旧Twitter)です。WEBフォームから削除請求もできますが、対応は厳しい印象です。削除や開示請求は、裁判手続きを経てから対応されるケースがほとんど。ただ、著作権侵害やなりすましの場合は、かなりの確率で対応してくれます。権利侵害の有無は慎重に判断されるため、対応には時間を要するでしょう。
次にGoogleです。各種サービスごとにWEBフォームから削除請求が可能で、比較的充実しています。しかし、Xと同様で(フォームを用意していても)裁判手続きを取ってから、対応してくれるケースが多いと感じます。特に開示請求は、裁判手続きが必須というイメージです。
続いて、Amazon。Amazonの場合、商品に対するレビューで主観的な感想が書かれていることが多く、証拠提示が難しいケースをよく見かけます。ですが、削除については目黒にあるAmazon合同会社に送付すると対応してくれる傾向です。ショッピングサイトなので、一般的に発信者の氏名や住所もAmazon側が保有しており、誹謗中傷を受けて開示請求したい場合でも手続きがしやすいと言えます。
Meta(FacebookやInstagram)も、WEBフォーム自体は用意がありますが、やはり開示請求は裁判手続きが必要です。著作権侵害の対応は、比較的迅速に対応してくれます。
——国内のサービスはいかがでしょうか。
清水 情報開示は基本的に裁判手続きが必要ですが、削除については、比較的柔軟に対応してくれるケースが多いです。ただ、どのくらい対応が厳しいかはサイトによるところが大きく一概には言いにくいところです。
まとめサイトにおいての削除は、比較的対応してくれますね。まとめサイトはアフィリエイトなどの収益目的で運営されていることが多いため、トラブルを回避する観点から、迅速に削除しようと心がけているのではないでしょうか。
発信者特定後に「損害賠償請求」「刑事告訴」が可能に
——運営会社に対応を求めて、発信者を特定できた場合はどうなるのでしょうか。
清水 特定できたあとは、損害賠償請求をすることができます。基本的には、慰謝料・調査費用・弁護士費用・謝罪広告(※)などが請求できる項目です。
※謝罪広告……名誉を傷つけられた場合の名誉回復の手段として、被害を与えた側が被害を受けた側に対し、投稿内容が間違っていたなどを公に示すもの
清水 ただ慰謝料額は平均30〜60万円です。時々メディアで「慰謝料何百万円」と報じられることもありますが、極めて特殊なケースだと考えたほうがいいでしょう。
調査費用なども全額請求できるケースが減ってきている印象はあり、慰謝料と合わせても調査費でトントンか少し赤字になってしまうことが珍しくありません。弁護士の立場からすると、全額認めてほしいのですが、最近はなかなか厳しい状況ですね。
——民事的な損害賠償請求に加えて、刑事告訴なども可能なのでしょうか。
清水 はい。考えられる罪名は、名誉毀損罪や侮辱罪、業務妨害罪、信用毀損罪、著作権侵害などがあります。
清水 業務妨害や信用毀損は、行為と妨害の間に明確な因果関係を証明する必要があり、少しハードルが高いので、ネット上の中傷行為では、名誉毀損罪で告訴するほうがいいでしょう。
——今回のお話で、皆さんは炎上の被害に遭ったときの意識や備えができたと思います。一方で、発信するにあたって少しでも前向きになるようなメッセージをいただけますか。
清水 やはりマイナスな発信をすると、炎上しやすいですよね。なので、マイナスなことを発信するのではなく、プラスなことを発信していくといいのではないでしょうか。
プラスな発言は周りの方にもいい影響を与えますし、自分自身もいい気持ちになるんじゃないかなと思います。ぜひ、そういう心持ちで発信していただきたいです。
——全員が気持ちのよい発信ができるといいですね。本日はありがとうございました。
▼イベントのアーカイブ動画は以下からご覧いただけます。
登壇者プロフィール
清水 陽平
弁護士・法律事務所アルシエン 共同代表パートナー
2007年弁護士登録(60期)。2010月11月法律事務所アルシエンを開設。
ネット中傷の削除、投稿者の特定、炎上対応などインターネット分野の法律問題に取り組んでいる。総務省の「発信者情報開示の在り方に関する研究会」(2020年)、「誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループ」(2022年~) の構成員となった。主要著書として、「サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル第4版(弘文堂)」などがあり、マンガ・ドラマ「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」の法律監修を務める。
X: https://x.com/shimizu_alcien
モデレーター・金子智美
note株式会社
2020年よりnote株式会社にてコミュニティ運営などのユーザー向けコミュニケーションに従事。前職はLINE株式会社(現:LINEヤフー)に10年間所属し、ソーシャルメディアを中心としたコミュニケーション全般の戦略・企画を担当。
note: https://note.com/kanetomo/
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