なにが著作権にあたるの? クリエイターが知っておきたい著作権の基本
ネットで発信をするときに抱きがちな疑問や不安を少しでも減らして、後押ししていくためのシリーズ、「安心創作勉強会」がスタートしました。
第1弾となる今回のテーマは「クリエイターが知っておきたい著作権」。弁護士でもあり、独立クリエイター/アーティストのバックオフィス関連企業 しろしinc.のCEO・山田邦明さんに解説していただきました。
登壇者
しろしinc. CEO&弁護士 山田 邦明さん
著作権ってなんかモヤモヤする
すごく「あいまい」なんです
「著作権について、調べたり聞いてみたりするけど、イマイチよくわからない……」という方はいませんか? 実際、「今まで平気だったからこんな風にやってるけど……」と不安なままで進んでいることが多いのです。
みなさんの頭の中で、著作権的にOKなものとNGなものが「白と黒」にはっきり別れてしまっていませんか?
私に届く質問も「コレはYESかNOか?」と明確な答えを求めるものが多いのですが、実際は下の画像のように、
すごく、「あいまい」なところがいっぱいあります。
もっというと、こう。
ほとんど、「あいまい」です。
世の中に正解・不正解がないって言われますが、それは法律の分野でもそう。人間が創ったり使ったりする以上曖昧な部分というものは必ずあります。
この「あいまい」の認識をもつことによって、「いま自分たちはグレーのところにいるんだな」という風に思えるのが大事なことです。
また、さらにいうと、これは「法律」だけのこと。ここに、「空気、慣習、雰囲気、倫理」などを含めると、
もはや、ぜんぶ「あいまい」。
あいまいだからこそ、「すべての創作が何かしらダメと言われている(ように感じる)」というのが、みなさんが感じる「著作権のモヤモヤ」の原因なのだと思います。
法的にダメなものは、全部ダメ?
このように、とても「あいまい」な著作権ですが、「とはいっても、法律的にNGなものは、絶対にダメでしょ?」と思うかたも多いでしょう。
例えば、同人誌。今や日本が誇るべき一大カルチャーとなっていますが、これは、著作権的には、著作者が許諾しなければ違反している「二次創作」です。でも、「文化だし、盛り上がってるし、自分の作品をこんな風に取り上げてくれて嬉しいし……」と黙認されている状態。
要するに同人誌は、
著作者が許諾しなければ上の図の「ダメなところ」にあたりますが、OKとされているのです。このように、法律的にはNGでも、実際にはOKとされているものがたくさんあります。
法律的にOKなものは、絶対にOK?
逆に「でも、法律的にOKだったら、絶対にOKでしょ?」という話もありますね。
少しなつかしい話ですが「五輪エンブレム」問題。あれは「法律的にはOKだった」という人も多いなかで、「パクった」「パクられた」という話になりました。
いったいどうしたらいいのでしょう?
ハッキリ答えがあるものではないので難しいのですが、少なくとも「今、自分の創作は法律上のどこにあたるのか」ということを把握した上で行動したほうがよいでしょう。
たとえば、先ほどの「五輪エンブレム」の話はとてもわかりやすい例です。
・「法律的にOKである」ということを理解していれば、批判がきても「法律的にもOKだと確認した上で創作している」と説明できる。
・「法律的にダメかもしれない」と思っていたら、批判に対して強気に説明できなくなる。
・「あいまい」な状況にあるとしたならば、自分はどうすればよいのかを考えることができる。
この整理が非常に大切です。自分は「法律的にはどこの立場にいるのか」という整理をするのはすごく意味があることなのです。
著作物って?
まずは、“そもそも著作権にあたるのかどうか”というところから考えてみましょう。
・「著作物にあたらない」場合→その作品を使う限りにおいて、著作権の話は必要ない。
・「著作物にあたる」場合→基本的には「利用には許諾を受けるか、利用してはいけない」というルール。ただし、例外的に利用できる場合があり、その場合は条件を満たすかどうかを確認してからの利用となる。
このように、「自分が利用したいコレは“著作物”なんだっけ?」というところから整理していくことがよいと思います。
著作物にあたるか?
法律によると、「著作物」とは、
……こういうのって、本当に読みにくいですよね。これは、以下の4つの要件として考えられます。
「①~④に当たらない」=「著作物から外せる」ということになるのです。
こうして「著作物にあたるもの」と「あたらないもの」を最初に区別できると、
・「これは時刻表の羅列だから、このまま使っても著作権の話は出てこないな」
・「これは単なるアイデアなので使っても著作権の話は出てこないけれど、”パクった/パクられた”という話は出てくるかもしれない。でもそれは、法律の“外”の話だよね」
といったような判断できるのです。
例外にあたるか?
「著作物にあたる」となっても(上の図の1~4にあてはまっても)、「例外」の場合には利用してOKというルールになっています。
今回は、例外のなかから、「引用」について考えてみたいと思います。
条文では、
こちらも長くて読み解きにくいので、同じようにまとめてみると、以下の4つになります。
注目すべきは③公正な慣行 と ④正当な範囲 。
公正な慣行ってなんでしょう?
正当な範囲ってなんでしょう?
条文から見て、はっきりはわからないけれど、「色々判断して”公正な慣行”と”正当な範囲”だったらいいんだ」ということまではわかります。
わかるのですが、やっぱり「あいまい」ですよね。
じつは、弁護士や専門家も含め、この程度の理解で「実際はどう処理されたのか」という判例をみたり、「実際にこういう慣行があるという説明がつくから、おそらく大丈夫だろう」という回答になるのです。
たとえば、noteの記事上で引用する場合は、以下のようにすると問題ないだろうと考えます。
実際、このようにして問題になったケースはとても少ないのですが、これで全部許されるかというと、必ずしもそうではないのです。自分は“正当な範囲”の中で行っていると思っていても、人によっては“正当な範囲”を超えていると思うかもしれません。そういった人に対して「自分はこういう風に考えていると説明しよう」「その人が考える“正当な範囲内”に直そう」と決めていくことがすごく大事なことなのです。
「創作」のうえに「新たな創作」がうまれる
ここまでは「利用する側」のクリエイター視点で話をしてきましたが、「利用される側」のクリエイターさんも、当然、すごくたくさんいます。
「勝手に使われた」「パクりじゃないのか」「納得の行かない形で利用された」と歯がゆい思いをされた方もたくさんいると思います。
だからといって「黙って耐えろ」ということではまったくなく、適切な権利はきちんと主張するべきです。
しかし1点忘れずにいてほしいのが、「いろんな創作の上に新しい創作が生まれてきている」ということ。
どんなクリエイターさんも、最初はマネして創作を磨いてきたという背景があると思います。マネされたことを感情的にSNSで晒すことで、新しい作品を潰すことになるかもしれない。我慢しましょう、というわけではないのですが、意識の片隅に置くことで、新しいクリエイターさんたち、まだよくわかっていないクリエイターさんたちといい関係が築けるのではないかと思っています。
クリエイターからの質問に答えます
質問①:無名クリエイターである自分なんかが作ったものでも、著作権を主張することができますか?
山田さんの回答:完全に、できます!
この質問の根本のところに「自分“なんか”がクリエイターと名乗っていいのか?」という、謙虚な気持ちが見えてくるのですが、もちろん、主張できます。あなたが作ったものは素晴らしい「創作」です。どんな人の創作物にもちゃんと「著作権」が発生するものだということを、伝えていきたいです。
質問②:自分の写真やイラストを無断転載されないためにはどうすればいいですか?また、見つけた時の対処法は?
山田さんの回答:パターンを分けて考えましょう。
1. 誰かに依頼された創作の場合:創作物がどのように使われるかは、「契約」のなかであらかじめそういった話をしておく
「こういうイラストを描いてください」「こういうシーンでしか使いません」といわれて描いたのに、全然違うところで使用されていたというケース。
これを防ぐには、最初の契約の時点で
・この用途でのみ使用する
・それを超えて使う場合は別途料金が発生する/契約を行う
などをあらかじめ言っておくことで事前の対処となります。
2. 契約はなく、SNSなどでシェアしたときに、だれかに無断で使用された場合:この場合は、事前に対応するのは正直難しい
無断転載する際に、コピーライトなどのことを意識してくれる人はあまりいません。無断転載している人の法的なリテラシーは、多くの場合決して高いとは言えないのです。そういう人たちに対して「無断転載しないでください」と書いたとしても一定の抑止力はあったとしても根本的な解決にはなりません。
なので、SNSを利用する際は、無断転載のリスクがあるということを把握しておくことが適切だと思います。(これは「許す/許さない」の話ではありません。許すべきではありません)
事後対応として、「自分の著作物なので無断転載はやめてほしい」という旨をDMなどで送るというのがシンプルな解決策です。言ったことでやめてくれることが多いですが、反発してくる人がいた場合は、専門家に相談しましょう。
1点だけ注意してほしいのは、無断転載されたのを見つけると、ムカつくし、腹立たしいので、どうしても口調がきつくなりがちです。相手への人格否定までになってしまうと、お互いにとってプラスはありません。ひと呼吸おいて、自分が送ろうとしている文章を読み直してみてくださいね。
質問③:イラストや写真のフリー素材サイトを使うときの注意点は?
山田さんの回答:フリー素材のサイトはたくさんあるので一概には言えませんが、基本的にはそのサイトに利用方法などが記載されているので、まずは読みましょう。
近頃では、わかりやすく書いていたりするので「難しそう」「しんどい」と構えずに読みにいくことをおすすめします。理解できない点があったら、サイト運営者に聞いてしまうという手もありますよ!
質問④:自分のSNSなどで、書影やYouTubeのスクショ、マンガの1ページ、映画パンフレット、歌詞などを紹介する際の注意点は?
山田さんの回答:もともと創作があって、それを“誰かに伝えたい”というのが「引用」の根本です。
質問であがっているものを掲載する場合は、「引用」でよいと思います。(引用については、例外にあたるか?をご確認下さい)
質問⑤:「ファンアート」や模写を投稿するときの注意点は?
山田さんの回答:自分の中だけで私的に利用するのはOK/それ以外は法律的にはOUT、と言われている部分の話です。
「ファンアート」と「パクリ」を分けることができるでしょうか。おそらく、できないと思います。抽象的な基準となりますが、「敬意があるか」「(元の)作品を大事にしているか」といったことがファンアートとパクリをわける基準となります。しかも、使った側は「敬意をもって」と思っていても、使われた側はそう思わないケースもあります。
ここで大切なのは、「ファンアートや模写をSNSで投稿することは、著作権者の許諾がなければ著作権法的には違法な行為をしている(著作権を侵害している)ということを知っている」ということ。
知ったうえで、模写やファンアートを著者が嬉しいと感じるかどうかを著者のSNSの投稿などで調べて、投稿すべきかどうかを判断しましょう。
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時間の関係ですべての質問にお答えいただくことはできませんでしたが、「正解」がないテーマなので、たくさんのケースを見て知っていく必要があることと、「経緯」が大事になる場面が多くあるということを知ることができました。
使う側も、使われる側も、作品と相手に敬意を持って創作に取り組んでいただき、誰もが気持ちよく新たな作品をどんどん生み出せる環境を作っていけるといいですね!
何かしら「発信」している方のお役に立てれば幸いです。
このイベントの様子は、山田さんもご自身のnoteにまとめているので、ぜひご覧ください。
noteはこれからも、だれもが安心して創作や発信するための知識や考え方をまなぶ場を提供していきます。
次回は9月1日「第2弾「クリエイターが知っておきたい 仕事受注のきほん」を開催します。
今後もオンライン勉強シリーズ「安心創作勉強会」をお楽しみください!