ヨーロッパ的なるもの:小話14 歩いて10分で3ヶ国に
【歩いて10分で3ヶ国に】
言うまでもなくヨーロッパの特徴は、多くの国々が肩を寄せ合っていることです。ある国に永く滞在していると、日々の暮らしに密接に関係するその国のことにだけ関心が及びがちですが、旅行などで短期間の内に複数の国をまたぐと、その”肩寄せ合い”を実感することがあります。
その最たるものがスイスのバーゼルでしょうか。バーゼルはドイツ、フランス、スイスの3ヶ国が接する場所にある町です。真ん中をライン川が流れ、バーゼルから北に向かって流れていくライン川の中央がドイツとフランスの国境になっています。右岸(東側)がドイツ、左岸(西側)がフランスです。
バーゼル市内でライン川右岸を北へ進むとドイツとの国境に行き当たります。そこには、一応、国境・税関事務所の建物はありますが無人です。人も車も自由に行き来しています。ここを徒歩で超えると、スイスからドイツに入国。2~3分ほども歩くと大きな公園がある交差点に出ます。そこを左にやはり2~3分進むとライン川に橋が架かっています。自転車と歩行者専用で、車は通れません。橋を渡り始めて川の真ん中まで来れば、そこから先はフランス。スイス側から歩き始めて10分ほどでドイツを通り抜け、フランスに到着です。正に3ヶ国が肩を寄せ合っています。橋を渡る前のドイツ側には大きなスーパーマーケットがあるので、近隣のスイス人もフランス人も徒歩や自転車で、日々のおかずを買いに国際ショッピングをしていることでしょう。
その橋の真ん中には、スイス側(南)に向かってプレートがあり、左(東)はドイツ、右(西)はフランスと表記してあります(上の写真)。その地点に立つと目はスイスを見、体の右半分がフランス、左半分がドイツにあることになります。
バーゼルからライン川を北に下って行くと左岸(西、フランス側)にストラスブールがあります。この町はもともと神聖ローマ帝国(ドイツ)の町でしたが、それをフランス王国が取り、普仏戦争でドイツが取り戻し、第一次世界大戦ではフランスが取り戻し、第二次世界大戦中はドイツが再び取戻しをして、最終的に連合国が再び取り戻したと言う歴史を経て、今はフランスです。従ってストラスブールの人々の文化的アイデンティティはフランス的であり、かつドイツ的であるはずです。多くの国が互いに接しているヨーロッパにはこのような地が至る所にあります。国境を接している所は全てが同じような事情でしょう。
ヨーロッパと言うのは、多くの別個の国の集まりでありながら、このような無数の融合地域の集まりでもあるのです。従って、それを象徴する地として、EU議会はストラスブールに設けられています。そこにはためく各国の旗を眺めていると、”ヨーロッパ的なるもの”への想念が頭の中を駆け巡ります。
写真集紹介:
【ヨーロッパ的なるもの:アルバム1 街角と博物館で見るクラシックカー(その1)】
ドイツ、イタリア、英国の博物館や路上で見かけた車の写真集(有料)です。歴史的意味のある車、著者が美しいと感じた車を集めています。