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バレンタインデーあなたこなた
雑感あなたこなた
【バレンタインデーあなたこなた】
父と母が若い頃から、バレンタインデーのチョコはドラマを呼ぶものだったそうだ。
80年代から今でも“バレンタイン”をテーマにした曲というのはラブコメ調の明るい歌詞と相場が決まっている。
だが。学生時代にチョコを貰った数を声高に告げる生徒を見て“ガキのまんまだな”と思うほど“青春”に対しても冷めた女子高生だったので、バレンタインデーは“ファミレスや喫茶店のチョコメニューが増える”だけのイベントという認識で生きている。
季節が少し進んで卒業ソングではあるが。どちらかと言うと、
“卒業式で泣かないと 冷たい人だと言われそう”
とサビで言い捨てるドライな女生徒を歌った卒業ソングに共感を覚える人間で、むしろ、早く働けるようになってデパートに自分の好きなチョコを買いに行くか“ショコラショー”を喫茶店で飲んでみたいと思った(本で読んで、当時は横浜や東京でも出している店は少なく憧れがあったのだ)。
とはいえ。
チョコレート自体は好きなので、いわばおこぼれを頂いている状態なのだから一概に“苦手なイベント”と言うわけではない。
どうやら家族含む私の周囲も誰かしらに渡しているらしい。
あげる人、というのは恋人や家族、友人に限らず自分のためでもいいのである。
2月14日にチョコレートショップ(この近辺なら『シルスマリア』だろうか)でお茶を啜るのもいい。
バレンタインデーというのが元々『ちょっとしたお祭り』である以上チョコをあげる大事な人というのは何も想い人でなくとも良いワケなので、ここ数年は、これみよがしに肩を組んで歩いているカップルたちが街からある程度姿を消した2月後半にお茶しに行っている次第である。
また、最近はヨーロピアン・アンティークを思わせる素敵なパッケージのチョコが新しく増えたように思う。
メリー、という名前のチョコレート販売店は大手スーパーなどでも取り扱いは多いので名前を聞いたことのある人も多いだろう。
最近になって、青山通りに新業態の『ルル メリー』という可愛らしいお店がオープンしたのだ。
元々メリーのチョコは贈りものの際にお世話になっていたが、ここに来て“東京土産”の新たなダークホースがメリーチョコから現れたのに驚いた次第である。
それまでも、“プレゼントでは間違いない”ショップではあったのだが。
ドラジェや(糖衣でくるんだお菓子のこと)ガナッシュ、ドライフルーツやお花をチョコで固めたものなど可愛らしいものが多い。
もうひとつ、この素敵なチョコレートショップはパッケージデザインにも力を入れていて精緻なタッチで描かれた一輪の薔薇、というこのショップのシンボルに始まり、トランプが描かれた檸檬色のドラジェ缶、菫の描かれた箱にティグレ(焼き菓子)に緻密なデッサンのようなモノトーンの白鳥や風景画の描かれた箱に入ったガトーショコラ……など、素敵なものだった。
BEAMSやFrancfrancなど、アパレルや雑貨店ともコラボしていて、そちらでもアンティークで素敵なデザインのお洋服やショルダーバッグ、ルームスプレー(少し明治大正の香水瓶を想起した)やお皿など、
「素敵すぎる!!!」
と感嘆の声をあげたものだった。
Francfrancコラボの方は明治大正の少女小説に出しても違和感のない素敵なデザインなのもあいまって和室に置いてもサマになるのでは、と思った(最近は、和室を生かしてお洒落な部屋を作っている人も見かけるし)。
BEAMSコラボは2回ありどちらも即完売だった。
今回このエッセイでバレンタインチョコの話を書こうと思ったのは、つい先月インスタで、たまたま見かけた“乙女のための”素敵なチョコレートに射抜かれたが故でもある。
また、この地に住んでいるのもありこの時期に県外の方にお会いする機会があると“横浜“のお土産というのも重宝される。
カフェ巡りエッセイの方でも紹介した“えのきてい”の看板商品・チェリーサンドは、この時期クッキーとクリームの部分にココアが練りこまれた“チェリーサンドショコラ”という可愛らしいお菓子が発売されるのと“パティスリー パブロフ”も、今年は“クグロフ型パンケーキ”というバレンタイン限定の焼き菓子を出している。
このお店は最近、新横浜駅にも出店したそうで新幹線での旅先で人と逢うときに重宝しそうである。
“自分のために”買うチョコレートは憧れのブランドで、ということも多いだろう。
私はまだ10年早いとは思うが。
いつかヨーロピアン・アンティークなパッケージも素敵なデメルのお菓子を購入できる大人になれればと思う(ネコさまが描かれたパッケージもある)。
今年のバレンタインでは“すみれソースのタブレット”なるチョコレートがある。
現在は日本で販売されていないが、デメルはザッハトルテ以外にも『スミレの砂糖漬け』という美しい洋菓子がある。
この前のカフェ巡りエッセイにて、ヘレンドのティーセットについて触れたが、ヘレンドとデメルはその昔オーストリアを統治していたハプスブルク家(マリー・アントワネットもこの家の出身である)の“王室御用達”だったのだ。
最後の皇女であるエリザベートは特に菫の花を愛していたそうで、ヘレンドの“すみれ”の名を冠した茶器は2018年(かなり最近である)に彼女に捧げられたものだそうだ。
また先程話した菫の砂糖漬けも彼女が愛したお菓子で、彼女の親戚であるアントワネットも菫の香を好んでいたそうだ。
私もチョコレートは好きなのでいずれ一度はザッハトルテを食してみたいと思う。
その時の紅茶はやはりニナスだろうか。
アントワネットが好んでいたのはクグロフなどの伝統菓子だが、もしかしたらデメルのチョコレートも婚家へ向かう馬車に忍ばせていたかもしれないのだから……。
執筆 むぎすけ様
挿絵 シエラ様
投稿 笹木スカーレット柊顯
©DIGITAL butter/EUREKA project