短編小説『フィラメント』第2話
現代、そのような境遇の人間は「棚」から溢れ出していてワゴンにすら入りきらない。
ましてや露呈し易いインターネットの世界では尚更だ。
SNSや投稿サイトには毎日のように美麗なイラストが投稿され、多くの高評価を得ている。
並大抵以上の才能でも埋もれる光と闇の世界。
「……寂しい」
華の高校生、小桜 由衣は埋もれていた。
投稿サイトで活動を始めて早一年。上位層が高評価七桁を超える戦場で彼女は一桁台を彷徨っている。
自分より後にイラストを描き始めた明らかに実力の劣る新人がもてはやされるたびに「なんでえぇぇぇ!」と勉強机をバンバンと激しく叩く「フリ」をして激怒する。
それは見る目のないネットの愚者たちと、実力不足の自分の不甲斐なさゆえにだった。
幼少期の輝きは何処へやら。彼女は曇った眼で机に固定したタブレットパソコンをぼーっと眺めた。
そこには下描きを終えた作品が電子光を放っている。
今人気のゲームキャラクターたちで、実線を白い瞳で待ちわびているかのように彼女には思えた。
由衣はそれに応えるようにスタライスペンで生命を吹き込んでいく。
彼らは仲間たちとこの濁りきった現実世界を生まれたての赤子の目で見つめていた。
「君たちはそのままで良いよ。わたしが汚れていても、創るものが美しければそれでいいんだ」
由衣はニタリと口元を緩ませ、電子光の向こうへと手を伸ばそうとした。
次の瞬間、彼女の手は硝子板を通り抜け、色彩豊かな世界を掴んだ。
――そうはならない。
由衣の心に過去と現在が重なる。
整理を先送りにして積みあがったままの段ボール箱。埃が舞う室内には水色のカーテンから一筋の斜光が伸びていた。
これが現実。由衣はハアと重いため息を一つ、再びイラスト制作に取りかかる。
手慣れた様子で線画を仕上げ、別のペイントソフトを起動してモノクロを彩っていく。
幾重にもレイヤーを重ね、修正をし、画像を回転させながらチェックを丁寧に進める。
少しずつ完成に近づいていくのが彼女にとっては快感で口元をだらしなく半開きにして作業を進めている。
俗世から切り離されて、自意識の底へと潜っていくこの感触が大好きだった。今だけは嫌なことを忘れられる、と。
わたしはいつかプロになって、絵だけで食べていくんだ――由衣は毎日のようにそう願う。
彼女はあがいていた。いつか輝く、光の種子を求めて。