ブランド思い出手帖① BABY, THE STARS SHINE BRIGHT
神宮前で逢いましょう
ブランド思い出手帖①
BABY, THE STARS SHINE BRIGHT
小説の映画「下妻物語」。
深キョン演じる主人公・竜ケ崎桃子が関西に住んでいた頃梅田のセレクトショップで“出会ってしまった”運命のブランドで、その後茨城の下妻に越してから下妻駅から片道3時間以上かけてまで当時代官山にあった本店に毎週通いつめる程あのブランドを“崇拝”(ホントは心酔、でも良かったがあえてこの表現を使いたい)している。
映像化はされていないが。
続編では最終的にBABYの社長である磯部氏からお洋服への愛とデザインのセンスを見込まれて(桃子と、土屋アンナ演じるイチゴは所謂“主人公属性”なのだなぁ…と読んでいて思う)高校を中退してデザイナーとして就職する…という展開を迎える。
横浜ビブレにも、10年以上前からこのブランドのテナントがある。
中3の夏あたりに図書館でこの本を借りて読み、その年の秋ぐらいにビブレへ初めて足を踏み入れた時に「かわいいお洋服屋さんだなぁ」とお店のロゴをみてびっくり、
「これが、桃子がデザインしているお洋服か…!!」
と、余りに突拍子もない事を考えた次第である。
BABYの代表的なデザイナーさんは上原久美子さんという方だが、原作本が発売された時期を考えると仮に桃子がデザインを任されていたら2011年には彼女の作り上げたドレスがBABYの店頭に並んでいても不自然ではない。
今、ロリータショップは3Fに移転して比較的広めの店内で店の奥にはブランドの代表的なパターンである“シュガーブーケ“のカーテンがひかれて人の背丈ほどある大きな鏡や素敵なドレスを纏ったトルソーが意気揚々と競歩で店に来た私を出迎えてくれる。
JKで賑わっているタピオカ屋やらプリクラエリアとは一線を画している。
ともすると他のエリアからは少し浮いてしまう、そこに突然“たたずんでいる”ようで。
店構え含め横浜駅近辺を歩くと、近くに綺麗な建物は多いがどこかさびれた雰囲気がありこの場所をフリルとレースで武装して歩けばこのくらい、空気感にギャップが出て来てしまうのだ。
現在BABYの本店は原宿の明治通り沿いにあり(横浜から行くとどちらかというと代官山の方が近いが…)“ロリータの元祖”と言われている原宿の老舗ブランド・MILKの本店の入っているビルの2階にある。
その2店舗が入っているビル、私にとってはメッカのように思っていて原宿に来たら(いつまでもこの場所が存在し続けてくれますように……)と祈る心持でこのビルを覗いている。
MILKも横浜ビブレにテナントがある時代はあった…が、こちらも本店を初めて見た時はその昔、山手で初老の男性に「どうぞ休憩していってください」と言われてキリスト教の礼拝堂に入らせて頂いた時のしゃんとする心持と少し似た感情に襲われて半泣きになりながら店内を見て回った。
今回はBABYの話なのでこちらに限定させて頂くが(MILKの話もすると恐らくエッセイ2つ分の文章量になるだろう)明治通りからお店に続く入り口の下にはピンクのシェードがあり、そこにブランドのロゴが描かれたガラス張りのドアがあるのだ。
開けて二階へ上る途中にこのブランドのキャラクターであるうさくみゃとくまくみゃの描かれたプラ板がお出迎えしてくれる。
入り口にも、薔薇の花びらで彩られたドレープしたチュールレースのカーテン越しに赤いドレスを纏ったトルソーが背中を見せて窓辺にたたずんでいる。
白い陶器のドアノブにそっと手をかけ(貴婦人の手を触れるようで、かなり緊張した)店内に入ると…まずしばらくその場に立ち尽くしてしまった。
深呼吸をしているのか、うっとりとため息をついているのか…正直自分でも判断できないほどに幾重もの綺麗なドレスで彩られマリー・アントワネットのイニシャル紋章に似た意匠が施された曲線が綺麗な金色のラックが窓辺にある空間を見て、
「このビル、明治通りのシャトーみたい……」
と感嘆した。
(シャトーとは主にフランスの田舎にある貴族所有の建物。都会の喧噪から隔てられたこの場所をあえてこう呼びたい)
先ほど話した下妻物語の原作本、完結編で主人公の桃子はBABYに入社する決意を固めた時に、
「BABYを香水が出せるくらい大きなブランドにしてやりましょう」
や、
「パリコレに出られるくらいのブランドにしましょう」
と社長の磯部氏がケガで搬送された時に宣言していた。
(理由と言うのが…磯部氏がアキバの中古屋でレアなガンプラを手に入れて浮足立った余りスキップしていたらずっこけたという話だ)
これを書いている2024年現在、片方は実現している。
昨年『BABY princess』という素敵なオーデトワレが出たのである。
ロリィタブランドも老舗や大手は香水を出しているところも増えてきたが、BABYのコロンというのはその本を昔読んでいたのもあり、
「しちゃった……実現…」
と、ハチワレさながらびっくりしている次第である。
まだ私はかいだ事がない香水なので通販で箱やボトルを見た印象のコメントにとどめるが“現代を生きるお姫さま”たちに捧げる香りものなのだろう、と一目で分かるボトルだ。
蓋が王冠を模したもので、綺麗なピンクの小瓶にBABYのあれをみただけでときめくロゴ(パブロフの犬に近い)が印字されていて箱には先ほど話したシュガーブーケの模様が施されている。
個人的に王冠の蓋を見た時、今日本では手に入らないヴィヴィアン・ウエストウッドのBoudourという私にとって思い出した。
香水の蓋がブランドの象徴であるオーブを模していたものだった事を連想して令和に発売されたBABYの香水にノスタルジーを感じた。
パリコレに関しては、正直時間の問題じゃないか? と素人ながら思う。
もう既にBABYはフランスのパリに出店していた時期があり、今は公式サイトに記載がないので店舗があるのかは分からないが当時の記事を見る限り現地の人たちにも根強いファンはいたようである。
さらに、今年パリコレにロリィタのお洋服で青木美沙子ちゃんをはじめとするロリィタモデルさんたちがランウェイを歩いた。
恐らくロリィタ、というのは日本のファッションやカルチャーを語る時無視できない存在になりつつあるだろう。
その一端を担っているのは、恐らくBABYのお洋服に魅せられ自分の矜持に忠実に生きている女の子とヤンキーちゃんの友情物語と、妥協を許さず作られたドレスの歴史である。
執筆 むぎすけ様
挿絵 麻菜様
投稿 笹木スカーレット柊顯
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