神楽坂で逢いましょう 2024年、カフェ始めとあかぎの栞
神宮前で逢いましょう
番外編
【神楽坂で逢いましょう ~2024年、カフェ始めとあかぎの栞~】
神楽坂。
神社仏閣などの名所が多い土地で、東京大神宮は“縁結び”の場所として知られている。
前からTVでよく聞く地名だったが、ここが日本の東京において“リトルパリ”と呼ばれている事を知ったのはここ最近である。
なるほど、街並みを調べてみるとフランス語の綴りが綺麗な看板や柱から釣り下がるオレンジの花が綺麗なプランター、細い路地と石畳の階段……など、フランス映画で見る色鮮やかな景色と似た風景が写されていた。
何でも1952年、神楽坂にフランス政府公認の語学学校が出来た時にそこの講師やスタッフが住むようになり今は東京都内でフランス人が最も多く住んでいる地域になっているそうだ。
そんな場所だからか、ビストロやカフェも豊富である。
私がとあるカフェの存在を知ったのは(例によって)インスタで、
「フレンチガーリーさん向け! パリ風カフェ」
…というまとめ記事を見ると、毎回名前の挙がるカフェだったからである。
これはカフェ巡りのエッセイに書こうかと思っていたが、せっかくなのでこちらで紹介させて頂く。
“フレンチガーリー”というのは最近10代の女の子の間で流行っているファッションジャンルで、
「フランスのお洒落映画に出てくるような女の子」
をイメージした服装である。
黒く大きなリボンを巻き髪のハーフアップヘアやベレー帽、幅が太いカチューシャで靴モノはバレエシューズやヒールの高すぎないワンストラップシューズ…など、ちゃんと、
「あぁ、60年代のフランス女優が元ネタなのか」
と“令和の若い子が再構成した”フランス風のファッションなのだ。
思えば80年代のオリーブ少女もリセエンヌ(フランスの女学生)に憧れて2000年代にバリバリ働く大人のお姉さんもボーダートップスの首元にスカーフを巻き歩きやすくお洒落なローファーで街を闊歩していたのだ。
あの花の都に対する我々の憧れは普遍のものなのだろう。
ここに来て新解釈のものが来たのは面白いと思うし、もし私がいま10代だったらフレンチガーリーを着ていた事は断言できる。
話を本筋に戻そう。
パリ風カフェの特集記事はよくチェックしていてロリィタを着てお茶する時に参考にさせて頂いている。
気になってはいたが、訪問したのは年が明けて2024年初頭であった。
余りにラグジュアリーなインテリアと神楽坂という高級レストランが集まる立地、何より情報にあった『フランス人のスタッフが働いています』というので、
(簡単な挨拶しかわからないしなぁ…)
と、躊躇していたのだ。
1月某日。
意を決し渋谷から山手線で高田馬場へ向かったあと、東京メトロに乗り換えて神楽坂へ。
道中、東西線の路線図に『浦安』の文字を見たので、
「色々駆使すれば、ここから舞浜行けるのかもしれないのか…」
と取り留めのない事を考えて電車に揺られていた。
もうひとつ、この地には目的があった。
先程の東京大神宮の話の続きで、赤城神社に参拝するべく向かっていた。
“いいご縁”は何も恋人だけでなく単に仕事や勉学、果てはアイドルのコンサートチケットの当選をお願いしに行っても良いらしい。
元々子供の頃から正月には鎌倉の八幡様に初詣しにつれて行ってもらったので神社仏閣というのは(観光として)好きで、
「どうせ近くに行くし、せっかくだから行ってみるか」
と軽い気持ちで鳥居にお辞儀をして入った次第である。
どちらかというと、この先の仕事を考えた時にそっちでご縁があればなぁ…と考えお賽銭を入れる。
恋人の方でいいご縁があったとして、それを続けていくためにはやはり仕事やお金は必要なのは明白だし(そんな打算で考えているうちは、当分巡り合えないって)。
本当は飯田橋まで一駅で行くか徒歩で東京大神宮へもお参りした方が効果はあがるそうだが帰ってから判明した事なので、この時の私は知る由もなかった……。
空は晴れて、静かな境内は鳥のさえずりや木々の葉がそよぐ音が良く聞こえる。
空気が澄んでいた。
「恋みくじ」という可愛らしい名前のおみくじを引き(とりあえず悪い結果ではなかった)“あかぎ姫の縁結び”という栞にもなる可愛らしいお守りを選ぶ。
やはり、森茉莉の本に挟もうか。
東京喫茶あなたこなた
出張版
【Aux Merveilleux de Fred】
(神楽坂)
ここからはカフェ巡りの時間である。
私は神社の鳥居を出て、街の景色へと歩を進めた。
見慣れない景色ながら大きな神社が見守る街らしく日中もどこか静かで、鈴の鳴るような声で鳥の囀る音が響いた。
街道のいたる所にフランスという美しい異国の面影は潜んでいた。
個人経営のビストロや洋書を取り扱っている書店を抜けて、東京メトロ神楽坂駅の入口から目と鼻の先に目的地はあった。
店内を覗ける大きな窓硝子越しには豪奢な貴婦人のネックレスめいたシャンデリアが見えていて、その下にはクロワッサンやクラミック(ブリオッシュ、の方が聞き馴染みはあるだろうか)大きなメレンゲクッキーとパンの説明書きが並べられていた。
グレータイルの外壁入口ドアと窓の上には店名が上品な筆記体で綴られたシェードがかぶさり、入口付近にはここの看板商品・メルヴェイユを模したフラッグが提げてある。
黒縁に硝子のドアをそっと開き、一時のビザの要らない小旅行へと出かける。
店員さんと目が合うなり、黙ってお辞儀した。
カウンターでパンを並べレジを打っている店員さんが、軒並みフランスの方たちで英語も怪しい自分は言葉が通じるか怪しいので“ここは万国共通の挨拶だ…”と踏み切った。
だが、間もなく日本人のウェイターさんが飛んできて、
「一名様ですね。2階のお好きな席へどうぞ」
と螺旋階段の方を見る。
文化の違いを比べるように書いてしまうようで申し訳ないが、日本のカフェであれば2階席まで案内されて椅子を引いて頂く事も多い。
日本のサービスというのはカフェひとつとっても至れり尽くせりでフランスに限らず海外はカフェでも“自分で席を確保し、注文の際はボタンを押すと注文を取りにきます”…というのがデフォルトだそうで。
後々注文する時に起こった事だが、手をあげてウェイターさんを呼んだ時に、
「ボタンを押すのよ」
…とジェスチャーされ、その通りにしたら一階から別の方が来るまで待つ事となった。
単に文化の違いのお話で、そもそも欧州では手のひらをあげてウェイターさんを呼ぶのはタブー、というのをどこかで見た事がある。
もしかしたらこのカフェはこの先フランス旅行する時には予行演習になるかも知れない。
さて、二階席はやはり若い子(おそらく、大学生あたりの女子たち)とこの辺りに住んでいるのだろうご夫婦が先客として座っていて大きなメレンゲや淡雪のような美しいケーキを食べていた。
注文を済ませて、改めて店内を見渡す。
金色の縁に大理石の丸いテーブルにハイブランドのピンヒールのようなスタッズのついた黒革の一人掛けソファがあって、壁側にもシャンデリア風の壁掛けランプと下にはピンクの薔薇が客席の数だけ活けられていた。
私の正面ではパンを仕込んでいる店員さん(…も、恐らくフランスの方だろう)がいて向かって左側には豪華なシャンデリアが覗くバルコニーがあった。
今回注文したのは、クロワッサンとメルベイユドリンクのチョコレート。まず、クロワッサンを口に運んだ。
とにかくバターの風味というのが際立っていて、生地もパリパリで美味だった。
メルベイユドリンクはその名の通りここの看板菓子であるメルヴェイユというメレンゲとクリームのお菓子(北フランスとベルギーにルーツがあるらしい)をドリンクの上によそったもので、美しいフリルのようなクリームに匙をつけて食べてみると中に軽やかな砕いたメレンゲが入っていた。
クロワッサンにクリームを匙でよそって食すと、びっくりする程よく合うのだ。
今回も今回とて、
(コーヒーか紅茶、一緒に頼めばよかった……)
とチェイサーを用意しなかった事を若干悔やみつつ(紅茶も美味しそうなものが多い)パリへの憧れを改めて抱いたドリンクとクロワッサンを堪能した。
家族へのお土産のパンを購入し、帰路へと着く。
今年は、どんな景色や香りが待っているだろうか…希望を胸にメトロの階段を下りた。
執筆 むぎすけ様
挿絵 麻菜様
投稿 笹木スカーレット柊顯
©DIGITAL butter/EUREKA project