結局、茶碗とか箸とかにこだわるようになるのかもしれない
英傑大戦のトップランカーの配信を観ていたら、曜変天目茶碗は最近新しいのが見つかったらしいというような話をしていた。曜変天目茶碗はゲーム中では戦器として出てくるアイテムで、三国志大戦でいう再起の法に士気玉が付いたやつだ。戦器は他に天羽々斬や七支刀などがあり、たとえば天羽々斬は素戔嗚尊が八岐大蛇を退治した際の武器ということになっているなど歴史上の武器や名品が選ばれている。曜変天目茶碗も実在の茶器で国宝となっている。
南宋の時代に中国で作られたが、その妖しげな文様が中国本国では忌避され破壊されたため、日本に現存する3点(いずれも国宝指定)しか残っていないと言われている。おそらく平清盛の日宋貿易を通じて日本に入ってきたものが残っているもので、信長も愛用していたと言われている。
この文様をどうやって作ったのかが謎で、再現する試みがいろいろと続けられてきた。今年の2月18日に一定の成果があったという記事が出ていたので、ランカーが話していたのはこの件かもしれない。
静嘉堂文庫美術館には1点稲葉天目と呼ばれる、家光から春日局に下賜され、明治期には岩崎小彌太が所有していたとされるものが所蔵されているらしいが、常設展示はされていないらしい。
ちょうど最近自分で作った食事をもっとちゃんとした食器に盛ったほうがいいのでないかと思っていたこともあり、丸井今井に手頃な焼き物や塗り物を買いに行った。もちろんそんな高額なものではないが。
六花亭のおこわやみそ汁、豚肉を茹でただけのものや稲庭うどんもきちんとした器に盛るとやはりそれなりの風格が出る。箸は金沢で買った輪島塗の箸。
昔は何とか焼きやらなんたら塗りみたいなものにこだわるジジイはワケが分からなかったが、結局人間こういうところに行き着くのかもしれないという感じがする。
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ウィリアム・モリスというマルクス主義者がいる。アーツ・アンド・クラフツ運動の主導者で、日本でも柳宗悦の民藝運動に影響を与えた思想家で、ファンだという人も多いだろう。茶器だとかアンティークだとかという話になるとほぼ必ず登場してくると思うのだが、彼がなぜアーツ・アンド・クラフツ運動を始めたのかということに関してはあまり知られていない。
一般的には産業革命後に工場で大量生産される画一的な製品が蔓延することに対するアンチテーゼとして、一点ものや職人技の光る工芸品を重視するようになったという枠組みで理解され、それももちろん誤りではないのだが、より根本的には「革命が成就し、理想社会が到来した暁に、人間はなにをすればいいのだろうか?」という問題があった。彼はマルクス主義者で革命に向けて活動していたわけだが、他のマルクス主義者と異なり「いまは革命という大義や目標があるからいいけど、これが完成してしまったら人間は何を目標に生きていけばいいんだ?」ということに頭を悩ませていたのである。
これを読むと19世紀社会主義運動という過去の笑い話みたいだが、実際「目標や理想としていたものを失った人間の悲哀」ということは現代社会でもそこら中にはびこっている。激務に追われていた人が、プロジェクトの終了と同時にバーンアウトに陥ったり、会社では重役だった人が定年を迎えて認知症になったりとか、大なり小なり生きる物語の喪失とそれに伴う絶望ということは当然にある。最近では、アーリー・リタイアメントを実現したのに退屈に耐えかねてまた勤め人に戻ったというような話もある。
そして今深刻な労働市場の革命が成就しつつあり、人間の仕事はなくなっていく。いや、人間自体がやることは無限にあるわけだが、一般大衆が「仕事」として認識しているような雇用や職業、仕事はAIやロボット化に伴ってどんどん消滅していくであろう。というかもう実質的には消滅しているのがほとんどだ。それを認めたくない認知的不協和のストレスから、仕事に対する妙な精神論が横行したり、パワハラやいじめが発生する。これが、モリスの懸念した「革命が成就して人間のやることがなくなったらどうなってしまうのか」という問題である。
それを防ぐにはどうすればいいのか?という問題への解答が、アーツ・アンド・クラフツ運動であり民藝運動であったわけだ。つまり、理想や大義ではなく日常の身の回りの何ということのないものを重視し、その来歴や由来などの物語を楽しむということである。モリスの製品は結局高価な奢侈品になったとして批判されることも多いが、別に高価なものにこだわる必要はなく、自分の状況に応じたものを見つければ良く、そのプロセス自体がまた重要なのだ。
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