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令和4年度 読書感想文アンソロジー Web再掲

 主催者様よりお許しがでましたので、令和4度の読書感想文アンソロジーに寄稿しました感想をWeb再掲致します。

https://roostars.booth.pm/items/4339077

DL版は現在でも頒布中です。
気になった方は購入宜しくお願いいたします。

「顔のない天才 文豪とアルケミスト ノベライズ case芥川龍之介」

 「顔のない天才」はDMMのブラウザゲーム「文豪とアルケミスト」の公式ノベライズ作品であり、転生した芥川が「芥川龍之介」として自我を獲得するまでの道程である。物語はとある熱心な読者が、芥川と芥川の作品である「地獄変」に歪んだ愛情や憐憫を抱くことによって、その読者の魂が侵蝕者となり作品を侵すところから始まっていく。侵蝕者となった熱心な読者は物語を改変し、壊し、この世から物語を消してしまう。そしてその浸蝕行為をはっきりと本作の中では「二次創作」と呼び、原作者たる文豪たちに直接語らせ議論させる。
 そのなかで堀辰雄が「二次創作は原作への尊敬が無ければならない」と言い、谷崎潤一郎が「そのうえで、汚すことでしか表現できない愛情がある」と返し、さらに堀が「そんなことをして良いのは著者だけだ」と返すシーンで私は背筋が凍った。何故なら私も作品を愛するがゆえに、自分の思うがままに二次創作をする人間だから。
 侵蝕者となる人物が何度も何度も地獄変を読み込み、書写までして物語を解析しようと試み、最終的に転生した芥川龍之介に対して著者と作品への想いを語るのを見て、私は胸が締め付けられるような思いがした。何故なら私にも繰り返し読み込んで大事に大事にしている作品があって、それを書いた著者に思うところがあるから。
 やがてそれらの気持ちは「自分のこの想いと行動が、もしや侵蝕の原因になるのではないのか」と言う今まで感じたことのなかった気持ちへと変わっていった。一歩踏み間違えれば、自分もそちら側へ行ってしまうのではないかという不安。自分が楽しいと思ってしていることへの疑心。今まで関係のないものだと思っていた存在が、薄氷のすぐ下に潜んでいると知った時のなんとも言えない薄気味悪さ……
 身を焦がす様な思いを抱える作品に出会って、何度も何度も本を開いて、著者に愛というには重すぎる感情を抱く感覚は私自身もよく分かる。でも作品を侵蝕させてまでその思いを告げようとは考えない。読者から著者への想いは、常に一方通行の叶わない片思いだ。生きている相手ならまだしも、亡くなっている相手なら尚更である。谷崎は作中で「芸術はエゴイズムを肯定すること」と言ったけれど、重たい思いを抱える側からするとこのエゴイズムは他人から簡単に肯定されたくはない。
 もしこの感想文を読んでいる方の中に二次創作をされている方がいらっしゃるのならば、ハマっているジャンルに関係なく全力でお勧めをしたい。ゲーム「文豪とアルケミスト」の設定がベースになっているとは言え「芥川龍之介の地獄変をいじくり回している悪い奴がいる」と言い換えれば、ゲーム未プレイの方でもすんなり頭の中に入っていくと思う。巻頭にゲーム内ヴィジュアル付きの登場人物紹介が載っているので、自分でどんな人物か調べる必要も無い(ただし小説の神様こと志賀直哉と館長だけは紹介が無いので、自分で調べる必要がある)。そして読破された方には巻末の書籍紹介まで目を通してほしい。何故ならあれは一種の、他の作品では類を見ない、物語の先にあるカーテンコールだから。
 最後に著者の河端先生に感謝を。このような物語と出会わせてくれて本当にありがとうございました。願わくばこの感想文が、読んだことのない人の琴線に少しでも触れてくれれば幸いです。



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