逆噴射ピックアップその二(20231115)
秋……いや冬! 日本は急に冬となった! 急な寒さは死を呼ぶので、よくお風呂に入ったほうが良いです(混乱)。
さて、今回も逆噴射2023のピックアップ行為をしていこうと思います。
企画元はこちらのマガジンになります。力作が多いので、皆様もぜひ読み進めて頂けると幸いです……!
初回ピックアップはこちらです。
ドラゴンアンドデートドラッグ
豪華な設定で畳み掛けてくる作品。ドラゴンがいたり、たぶん恐竜がいたり、巨大な催淫剤(ヤバい)もありと、開始から強い圧を感じる作品です。登場人物が三人いてそれぞれのキャラクターが立っているのですが、比肩すべきはミンミンです。彼女の行動はで目立つのが、
ドラゴンに追われている途中でこれです。お前夜勤なのかい! とかボスが良心的すぎるとかいろいろツッコんだのですが、私は最近の『呪術廻戦』を思い出しました。その回ではお笑い芸人の人生が顧みられたのですが、わずか19ページに圧縮された一話が面白いので反響を呼び、Twitterで大盛りあがりでした。優れた作品には読者に想像させる余白があり……わずか数ページの登場でも「あの人はどんなキャラか」と読者の想像力を喚起させます。ミンミンには喚起力があります。
でもぶっちゃけ、発情したドラゴンに立ち向かうってことは死が近いということですよ……!
ドラゴンを、誘拐する
こういう仕上げ方があるのかと感心してしまった作品。開始から長丁場でだらだら喋っていくので、「ああこのまま終わるのかなあ」と思っていたのですが、急に車がハンドルを切って想像してなかった道に入っていきました。
人間には良い面と悪い面があるのですが、優れた作品は両方を浮き彫りにさせてくれます。『鬼滅の刃』は鬼になった人間たちを通して人間の悪性を描き、主人公である炭治郎や鬼狩りの人々を通して善性も描いたし、『ニンジャスレイヤー』はそもそも登場するニンジャやネオサイタマがのっぴきならないので、良心的なキャラクターが輝きます。
この作品では良い面を放出するようにしながら、途中で暗転するように悪い面が顔を出してそのまま居座ってしまいました。作者の力量に舌を巻きます。
果たして映像化したら、ここのカメラワークや表情、音楽をどう処理していくのか興味津々です。
また、ここで登場するのは生物というより比喩としてのドラゴンです。タイトルを見たときは「ドラゴン被りじゃん!」と思ってましたが違っていました。いっそう悪質ですね(褒め言葉)。
ライツ・カメラ・アクション!
チュパ作品です。見た限りUMAでもう一本ありますが、UMAでそんなに被ることってあるの!?
かつてハチャメチャで青臭い映画を撮って酷評されていた監督、その監督が己の直感を信じて、京都を占領したチュパカブラを撮影していく話。ゾンビだらけの街に赴いて撮影しようとする『デッドライジング』を思い出しますね。いまは三島由紀夫の『金閣寺』を読んでいるので、そうか……京都……そんなに変貌したのか……と思う次第もあります。ロケーションはロケーションであり、調理の方向であらゆるものが変化します。
登場するのは太秦……嵐山……渡月橋、どれも実在する地名ばかり。チュパカブラは既出でも京都を舞台にするところは新しい。美しい風景、美しい山、美しい建築物、そして家畜の血を吸う生物(人間の血も吸いそう)。これほど土地にとって嫌な存在もなかなかありません。
今回のPOV(一人称視点)では模造刀を使いますが、切れ味たっぷりのパニック映画になりそうです。迫力がある。
【回転機構 -ローリング・ロータリー・メカニスム-】
サイバネが……飯を食う! いまのところそれだけの作品ですが、佳品。他の作品だとゴアがメインだったり、首チョンパとか人間がすごい死に方をする作品が多いので、ホッとさせてくれます。オリジナルの感覚があり、独自の面白さがあります。
出てくる品物はヤサイ、ソバ、あとはハシ(箸)です。食べ物の描写はなくとも、サイバネチックに体を改造した主人公がひたすらヤサイを嚥下し、飲み込んでいく描写が八百文字を繋いでいく様がちょっとおもしろい。登場するお店はラーメン…郎とかそんな名前なのでしょうか。
主人公が人間と機械の間を行ったり来たりしながら、ややおいしそうに、あるいは黙々と食事を進めるところに作品の滋味がある。若干、先客の立ち位置とか会話がツッコミ役としてのポジショントークに入っているきらいはあるものの、『孤独のグルメ』でも、脇役の社長とか食堂のおばさんみたいな人がいないと成り立たないしな……と考えて納得しました。もっと他のものも食べてほしいし、他には何を食べるのだろうと好奇心をそそられました。
トマーラ
トマトです。「この地区のトマトは若くて攻撃性が高いようだ」の文章で、おおよそ印象付けられる小説。攻撃してくるUMAを食べるという、敵にいたら厄介そうな能力を主人公が持っています。ギガ級トマトってなんですか! テラとかいるんですか!?
そして面白いのは、トマトの凶悪性と美味しさが共存していること。滋養強壮でありつつも人を襲って食べるので(かじった分の容積はどこに行くんですか?)、読者は危険生物の小説を読んでいるのか、冒険グルメの小説を読んでいるのかわからなくなります。『トマーラ』を読むことで、「俺は……何を読んでいるんだ……?」と迷路に迷い込んだ気分を覚えます。
作品には「トマトは危険だが食べることもできる」という空気が存在しています。「ゴジラが実在する」「NYにはスパイダーマンという独特な服を着たヒーローが蜘蛛の巣を発射して人々を助けている」というフィクション独特の空気を発生させ、かつ、持続させられる文章というのはなかなか見られません。その空気を出せるのは見事で、作者の筆力を感じます。
そして主人公の飄々とした話しぶりと、ツッコミ役としての少女の振る舞い、危険なトマトによって文章に説得力が生まれています。
どうやらこの世界には救済騎士団とかトマト教団とかが存在するらしいのですが、私はゾンビ世界で勝手にゾンビを信仰するヤバい集団を想像しました。正解がどうなっているかは続きを読んで確かめないといけません。面白かったです。
ギガデス
「なんだこれは……」が第一印象でしたし、いまも抜けません。
ペストマスクをつけた偉丈夫……警官たち……そしてSATの群れ。彼が睨みつけているのは東京を超えた太平洋です。急に舞台が海になる。
そして同時刻、空母「ぶっころ」から出撃した戦闘機が、謎の存在とエンカウントを果たす……という小説なのですが、ハイテンションなサウンドじみた文章で展開されるので、思わず二度見してしまいます。
用語の使い方も面白く、空母「ぶっころ」のネーミングで笑ってしまいました。ヘリ「どんどこ」とか戦車「ざぶとん」とか存在してそうな世界線。この落差、たまんねえなあ!
結局のところ、颱風の原因は判明せずに、八百字制限の中では登場人物紹介に終わってしまっている感のある作品でもありますが、キャラクターは十分に立っているし、巨大な存在に対抗する航空自衛隊もリアルさのある存在。ぜひこのキャラクターたちを動かして、強いストーリーを組み立ててほしい作品。
あとちょっと、バナーもなんかお手製でフワッとした柔らかい感じがあって、「なんかギガって感じじゃないなあ」と笑ってしまいました。
今回は以上です。
また次回もピックアップしていきたいと思います。次回ピックアップは来週ぐらいにできると良いな、と思っています! また、読んだ本とかが積み上がってきたので、そちらの感想も投下していきたいです……!
おまけ
私が今回の大賞に応募した作品です。どちらもちょっと読み応えがあるので、お暇な時にぜひどうぞ!
現代日本から土蔵を通してファンタジー世界へと潜っていく作品。
聴覚を丸ごとメディアに明け渡した「俺」が、メディアより現出した自分のアバター(黒)に誘われて、アバターの根源(白)を探しに行く作品。
《終わり》