最近読んだ本などを(20220930)
残暑! 涼しくなってきたのは本当に良かったのですが、天気悪なのが玉に瑕。でも気温のちょうどいい感じ、一ヶ月ぐらい続いてほしい……!
渡来みずね『塔の諸島の糸織り乙女~転生チートはないけど刺繍魔法でスローライフします!~1』、KADOKAWA、2022
異世界転生! ……に近いジャンルですが、今作は、「もともと異世界の諸島に住んでいた体調不良の少女が、六歳ぐらいの時にフッと前世に目覚める」というパターンでした。異世界からの急な転生と比べて、戸籍や現地の繋がりを持てるところがポイント。あと言語や地理の問題もカバーできます。
読んでいくと、海外文学のティーン向けの小説のような優しい感覚が生じてきます。少女が生活し、友人、そして苦難に出会い、周囲の繋がりに支えられながら成長する……という穏やかで、ホッとする感じ。
キャラとしては女性にモテモテなフリオさんが好みです。外で食事をしていると女性が寄ってくる。わかりやすいほどわかりやすく周囲の人が浮ついてしまう。女難の相がつきそうなほどモテる。読んでいてニッコニコになるほどフリオさんの周りに女性が多い。今後の人間模様……気になります!
主人公のスサーナは、転生時点では六歳ぐらいなので、特に冒険に駆り出されたり魔王を討伐しないまま諸島で生活しています。親戚と初顔合わせしたり、友達ができたりと、日常的なパートがちらほら。たまに非日常に出会い、再び日常に戻り、もう一度非日常に出会うこともあります。成長ってこんな感じだったな、たまに冒険しながら生活してたな……と、年月を感じさせる小説。良いですね。
笑ってしまったのは『些事雑談 揚げなすが食べたい』にて、スサーナが前世でパクついていた揚げなすが食べたくなってよじれているところ。食欲のために行動を起こすのは万国共通、異世界共通。しみじみすると同時にほっこりします。
2巻も買ったので次が楽しみです。
川上稔『境界線上のホライゾン Ⅱ 上・下』電撃文庫、2009
2つ重ねると重たい! ってなる作品。上巻が905ページ、下巻が1153ページなので、全部読むとリミテッドシリーズをイッキ見した心地になります。
Ⅰの概要を大雑把にいうと、地球が軽く滅ぶ→母艦武蔵が創建して日本人らはその中に住み、日本も分割されてる→聖連(国連みたいなの)とかK.P.A.Italia(おおむねイタリア)などに目をつけられるし主人公トーリの初恋の人物が死刑にさせられかける→トーリと仲間たちが色々やってヒロインで初恋の人物を救い出しつつ武蔵は関東を脱出、その際に葵・トーリとヒロインで自動人形のホライゾンがちょっと仲良くなる、という感じでした。
Ⅱの概要は、英国到着前に三征西班牙(スペイン+ポルトガル)が襲撃してくる→襲撃を撃退した武蔵が英国に突入し、忍者の点蔵がイギリス人女性と仲良くなる、魔女のナルゼ、負けたりして悩む→山積みの問題を解決しつつ英国を脱出という流れです。
ちなみに前巻までの概要が取れなくても、Ⅲであらすじが出てきてくれるぞ! ありがたい。
文体はチャキチャキしていて読みやすい。ノリとツッコミが激しいので人物たちが記号的かと思いきや、それぞれ独自の考えや悩みを持って行動しているし、自分の役職とか立場に応じて苦悩するものの、場面転換もまたチャキチャキしていて後に引きずらない。戦闘シーンでも場面転換がチャキチャキ行われるので、さながら映画のような演出になります。
あと、「行く。」とか「行った。」の文章は思わず真似したくなります。単文かつ短文で表現できるのがカッコいい。
キャラたちも展開に合わせてバシバシ動くので読みやすい。エロネタも豊富。でもキャラクターらが各国の人物を含めて五十人以上いるので、たまに迷います。迷ったら人物紹介に戻りましょう。コンビとしては立花・宗茂と誾の二人が好きです。おしどり夫婦!
このシリーズで採用されているシステムも面白くて、日本史や世界史の人物(というより役職に近い)を、人物らが襲名していくシステムです。水戸松平という人物は騎士のネイト・ミトツダイラ(名前がちょっと似てる)が襲名しているし、魔女のナルゼは戦国時代の武将、成瀬・正成にあやかっています。
このシステムで何ができるかというと、世界史と日本史のいいとこ取りができます。世界史のスケールの広さと日本史のミクロ的な精密さが使い分けされており、読者がキャラクターを深掘りすると、結果的に歴史の勉強になるというスゴい着眼点。
ちなみに非業の死や事故を遂げる人物については、自動人形などを割り当てることで、人死にを回避することができます。人命配慮も行き届いている。
Ⅲからは仏国編、いわゆる六護式仏欄西に入りますが、どう展開していくのか楽しみ。なにって、日本史と絡めてるのにまだ織田信長とか秀吉が登場してないんですよね……!
本編の途中でもチャット形式の文章を挿入することで、二重に話を展開させられるようになったこともスゴいことだと思います。
中原道夫『句集 橋』書肆アルス、2022
第十四句集。全ての漢字が旧字体表記になっており、今作も簡単には読めませんが、その分がっつりとした読み甲斐があります。収録された俳句は2015年から2020年までの作品です。
俳句って掌編というか、一句で完全に世界観が異なっているので、小説を読むのとは別な読み方があるんですよね。単語一つおろそかにできないというか、一行一行がそれぞれ別な宇宙なので、ページを分け入っているうちに眼がキマってきます。
それに俳句の場合、おおむね十七音で収める必要があるので、字数制限による緊張感もあります。気に入った俳句をちょっと抜粋。
〈きのこ汁みだらに大きものよそふ〉
〈血統は血統厭ふ冬薔薇〉
〈手毬歌狸食つたの食はないの〉
この方の俳句は毎回絶妙なコース取りをしていて、日常と非日常を上手く行き来しながら、いままで視界に入ってこなかったものを認識させてくれます。他の文章が理解できず、季語を調べてようやく意味が取れたり、周囲の文章を調べてはじめて季語の意味がわかったりと、大忙しです。
他には、
〈二ン月の磯の荒るるを弐階より〉
は句も良いですし、『二ン月』という語幹が良い。俳句だと普段見ない用語が多いんですね。例えば『和妻(日本式手品のこと)』だったり、『食堂(じきだう)』など、日常生活だとちょっと見ない単語がモリモリ登場します。
〈なめくぢり出来損なひにこそ未来〉はなんだか勇気づけられる。季語はなめくじ。確かになめくじはボロボロみたいな見た目をしているものの、未来に向かって進んでいることを思い出します。
〈藤房のまはり九百五十ヘルツ虻〉は科学と文学が急に衝突し、うまく融合した一句。『九百五十ヘルツ』のところで急激に回転して、『虻』で完結するところが面白い。こうした句が200ページにわたって収録されていて面白いのでオススメです。
今回は以上です。
《終わり》
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