逆噴射ピックアップ第三回(20241202)
いつもお世話になっております、復路鵜です。
12月に入りましたね。真冬! カラダニキヲツケテネ!
現在は選考期間中です。次は二次選考までの結果が出る予定。座して待ちます。
とはいえ良作が多いので、これからピックアップしていきます。
前回のピックアップはこちらです。
私が提出した作品はこちらです。
『木々は枝より~』はモリモリ書いているのですが、プロットよりも遥かに枚数が増えていくし、キャラクターたちもどんどん違う話を始めるので、「おいおいこいつは大丈夫なのかい!?」とツッコんでしまいました。
それでは始めます。
1.墨黒屋敷の夜、からくり骨人形の夢
火付盗賊改が拠点に戻り、火事で焼け落ちた長屋の話をしていく怪談。しかし、南蛮人が住むといわれる「黒黒屋敷」はいつまで経っても記憶から離れない。南蛮人は屋敷にて、盗賊改を殺人に誘う。
なるほど新しい! となりました。江戸時代×ゴシック・ホラーという掛け算は見たことがなくて新鮮です。屋敷ですが、誰もが見られる場所にこつ然とそびえ立っている辺り、やはり怪奇かも。
個人的には『BloodBorne』のゲーム(ゴシックな都を舞台に戦いを繰り広げるアクションゲーム)を思い出しました。雰囲気が似ているかもしれません。
文体はどちらかというと、坂口安吾や江戸川乱歩を思い起こします。謎のカンデラを持つ老人……天井から吊り下がる猿……無慈悲に鳴くインコ……そういった、南蛮由来の怪奇とかも今後出るかもしれません。楽しみ。
2.湿地帯から街まで
読み口が非常に面白いので、スラスラと読むことができた作品です。三島由紀夫の『仮面の告白』は浅学ながら未読なのですが、これは面白そうです。
逆噴射では800字制限という枠組みがあるので、長々しい描写は嫌われる傾向がありますが、こちらはあえてショットをロングに組み立てることで、作品世界を作っていっている印象があります。
作品の筋はシンプルで、湿地から生まれたという女の子が成長して、どんどん湿地の絵をプラスアルファして付け加えていくというのですが、これから忌々しい感じになるのか、あるいは別な方向で発展するのか気になります。
読んでいてなぜか『ハムレット』におけるオフィーリアの入水を思い出しますが、どこかで関係してくると嬉しい。
3.麒麟の首
「いったいどうなっているんだ!」と思わず声に出してしまった作品。文章全体にナンセンスさが溢れているのですが、ナンセンスを取り巻いて更に迫力があり、惹きつけられます。
現実世界とはかけ離れた世界の話ですが、だからこそ「麒麟の首」という、フィクションにフィクションを重ね塗りしたような抽象的な存在に現実味が宿り、誰かと語りあいたくなる作品です。
あらすじ……というより、ひたすら描写の強さでピックアップしてしまった作品です。一体ここからどうなるんだ……!?
4.砂脈
ヘッダー画像が強すぎるというか、これで劇伴音楽がついていたら完全にホラー映画、ホラーASMRでした。
「女」の絶妙な気持ち悪さというか、生理的な嫌悪感を刺激してくるところで、作者は読者のツボを心得ていると思います。「これからどんどん悪いことが起こりますよ!」と文中でも示唆されているようで、鳥肌が立ちます!
5.盆栽コンテストバイオテクノロジー部門
我々はまだ盆栽についてあまり知らないことがわかる作品。方向性こそトンチキなものの、文章は真面目な筆致なので読みやすく、面白みが伝わる作品です。でも空を飛ぶイチョウってなに!?
植物におけるバイオテクノロジーは目覚ましい発展を遂げており、ビオランテとかバイオハザードのプラント42みたいなインパクトのあるキャラクターもいたので、今後そういう存在が出てくるかもしれないな……と、納得感を感じられます。でも主人公まで植物とは予想外でしたよ!??
真柏(シンパク)の花言葉は「あなたを守ります」らしいですが、今後伏線として作用してくるかどうか気になるところです。
前に取り上げた『アインシュタイン・ベア』においては動物がバイオ的になりましたが、こちらでは植物が動き回っています。
ポケモンの例えを使うと、ナゾノクサやウツボットは目と鼻がついてうろうろしていますが、実際に視覚や聴覚をどう処理しているか好奇心が刺激されるところです。
今年はバイオ関係に名作が多いですね……!
絶妙に良いところで区切ってあり、続きが気になる作品です!
6.泥とプラチナ
犯罪小説です。二行目から「顔に龍を彫った」半グレが歩いてくるとあり、この時点で読者は、半グレは尋常ではないし、それを相手取るユキオも尋常ではないことを認識します。
作品は映像的であるものの、ところどころ用いられる盗る、自慢、半竹といった用語が劇画を彷彿とさせる、あるいはヤクザ小説を思わせます。
ちなみに半竹で検索したところ、東京の方言で「中途半端。何をやらしてもはんちくだねー」と出てきました。なるほど!
地の文に無駄がなく、キャラクターの性格をズバリと現しており、強みがあります。疵のない作品です。文章にクセがないため読みやすく、身体に入っていきやすい。
また、800字という制限の中でどんでん返しがあるのが面白い。普通はどんでん返しとなると「ああショートショートみたいなもんだな」と思いがちですが、この作品においては、確かに次に続く一歩でありつつも、物語の反転を成り立たせているのが良いところ。
作品に強い存在感があり、タイトルの対比も伏線に感じられて、総合得点が高いです!
7.夜話
逆噴射が主にエンタメ系の作品が多いかと思いきや、こちらはどちらかというと純文学に寄った作品。
作品は老人の独白から始まります。老人は「きみの祖父」について語り始めます。内容が面白く引き込まれます。
老人の独白は、次第に「きみの祖父」の話から老人の話へと入れ替わっていく。混在しながら人物が混ざり合い、どこからかやってきた人々が群像劇のように絡み合いながら展開されていく。登場人物は、「老人」「きみ」「きみの父親」「きみの祖父」「彼の祖母(この場合は老人の祖母ということか?)」と、わりかし多く、それでいて誰もが個性を持たないまま通り過ぎる。
ある一族について語るガルシア・マルケスやプルーストの小説を予感しました。動きは少ない、しかし、純粋に語りだけで読者を引き込む能力があります。
ピックアップしました! 皆様が作品へとスキや感想をお送りくださると、間違いなくそれは作者のエネルギーとなっていきます。そしてパルプ界隈も盛り上がっていくので、ぜひたくさんのスキをお願いいたします!
今回は以上です。
《終わり》