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予期せぬコロナ専門病棟開設の決定!スタッフの胸のうちは?【13】群馬県F病院
この連載は、コロナ専門病棟を開設した10の民間病院の悪戦苦闘を、現場スタッフの声とともに紹介していくものである。記事一覧はコチラ
株式会社ユカリアでは、全国の病院の経営サポートをしており、コロナ禍では民間病院のコロナ専門病棟開設に取り組んできた。
今回は、群馬県F病院のスタッフ3名に、2021年4月にコロナ専門病棟を開設するまで、院内感染者もなく、コロナ患者と接することがなかった中で決定された専門病棟の開設をどう受け止め、業務にあたっていたのか。胸の内を聞いた。
事務課課長 Y.Uさん|前向きに自分の役割を果たす
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「やらなきゃならないよね」。コロナ専門病棟開設の話を聞いた時に、Y.Uさんはただそう思った。反対するスタッフが圧倒的に多かった中で、反対の気持ちは抱かず、前向きな姿勢だった。
一緒に入社した同僚が、「コロナ患者を受け入れる病院では働けない」と退職してしまったのはとても残念でした。もっと一緒に仕事をしたかった方なので、新型コロナが人生を変えてしまうことがあるのだなぁと思うところもありました。
スタッフの一人ひとりのことを思うと、コロナ患者受け入れを決めたのは正解だったのだろうかと、頭をよぎることもありました。でも病院として、受け入れの方針を決めた以上は、成功させるしかありません。
専門病棟開設に関わる事務的な作業を受け持って、準備を進めていきました。
備品や資材の調達、病棟用カメラの設置、患者さんの容態を確認するためのネットワークの構築など。ユカリアの経営サポートマネージャーS.Yさんと共に、専門病棟の準備を着々と進めた。
専門病棟の準備を進めながら、「ここから感染が広がるような事態を起こしてはいけない」という思いがあって、少しだけ緊張していました。
ユカリアさんに、感染対策の考え方やゾーニングの方法をわかりやすく教えてもらって、感染が広がる理由を理解しました。「コロナ専門病棟開設」は、感染症対策の意識をぐっと高めるきっかけになりました。
コロナ専門病棟の準備で、医師やメディカルスタッフ(医師を除く医療従事者の総称)とのコミュニケーションが増えた。Y.Uさんは各部署との連携が活発化していることを感じた。
お互いがどんな考えを持って働いているのかを知り、信頼関係が生まれたように感じます。
2021年6月と2022年3月に、療養病棟で陽性者が出て、院内クラスターが発生したことがありました。
5階から3階にベッドの大移動を行い、医師、メディカルスタッフ、事務課が一つになって、知恵を出し合い、対応したのですが、このような経験は初めてでした。部署を横断して協力できる体制があったからこそ、迅速に対応し、感染を最小限に抑えられました。
専門病棟開設が決まった当初、反対する人が圧倒的に多かった。開設から1年、新型コロナを恐れるスタッフはほとんどいない。
コロナ専門病棟の運用が始まってから、徐々にですが、専門病棟での勤務を希望するスタッフが増えていったようです。現在は、受け入れ要請から病棟への移動まで、非常にスムーズな導線が作れていると感じています。
以前、専門病棟のネットワークの不具合があり、防護服を着用して修理をしたのですが、とにかく暑いんです。着ているだけでも汗だくになってしまう防護服を着たスタッフが、患者さんの対応をしているのかと思うと、頭が下がります。
専門病棟の受け入れ患者数は、とても変動が激しいですが、引き続き地域医療に貢献できる病院として構えていられるよう、私の役割を果たしていきたいと思います。
看護師長 Y.Fさん|自分たちの手で病棟を回す
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コロナ専門病棟を「やらざるを得ない」と決まってから、スタッフの拒否反応は大きかった。院内では一人も感染者が出ておらず、近隣の医療もひっ迫していない状況での提案に、病院全体で9割を超える反対の声が上がっていた。Y.Fさんの気持ちも揺れ、現場も揺れていた。
私も、正直、無茶苦茶な話だなって思いました。コロナ病棟に転換しようとした地域包括ケア病棟は、休床フロアもありましたが、急性期病棟のスタッフが忙しい合間をぬって、なんとか運用していた病棟だったんです。
限られた看護師で配置を工夫して運用に努めていたのに、「なんでこの病棟なんだ」って、腹も立ちました。
病院としては、急性期病棟の規模は保って続けていくと言ってくれたのが救いでした。急性期を縮小したり、最悪閉鎖するのであれば、進退を考えていたと思います。
急性期で頑張ってくれているスタッフの日常が守られるのであれば、私もコロナ専門病棟の運用を頑張れる。多少は頭にきていましたが、なんとか頑張れるかなと、気持ちを切り替えました。
Y.Fさんは、コロナ専門病棟のスタッフとして働くことを決めた。一緒に働こうと手を上げてくれたのは、わずか2名。とても回せそうにない。派遣ナースを入れ、運用することを決めたがー。
以前からスタッフの数が足りなくて、派遣ナースに頼っていました。
人が足りないから派遣ナースを呼ぶけど、派遣ナースに頼ることが、正職員の定着率を阻害する要因にもなっていたんです。派遣ナースと正職員の間には、どうしても溝が生まれてしまう。
だから、専門病棟もできるだけ、自分たちだけで頑張りたかったんですけど・・・。反対の声が多すぎて、運用開始までに院内の協力体制を作るのは、難しかったです。
Fさんも急性期病棟が忙しくなると、コロナ専門病棟を派遣ナースに頼らざるを得なかった。たが、派遣ナースだけの運用には限界があった。
F病院の基本的なルールと、コロナ専門病棟のマニュアルを覚えないといけなかったので、派遣ナースも大変だったと思います。コミュニケーションが取りにくい環境で、頑張ってくれている姿も見ていました。
ですが、「自分たちがいる場所は、マニュアルを守らなければ、感染拡大につながる恐れがある」という自覚を、もっと持ってほしかった・・・。
感染対策の危うい場面を目にして、このまま派遣ナースに頼っていてはいけないと思いました。F病院のことを知っているスタッフで回せる体制を作ろうと、私も覚悟を決めるきっかけになりました。
開設から3ヶ月、専門病棟の入院患者がゼロのタイミングで、体制を入れ替えた。専門病棟で働くことを希望する人も増えた。現在は、F病院のスタッフだけで専門病棟は回せている。紆余曲折を振り返って、Y.Fさんはー。
F病院は建物が古く、換気設備も新しいものではありません。そんな場所に、コロナ患者さんを受け入れたら、すぐに病院全体に広がってしまうんじゃないかと考えていました。
6月に療養病棟の入院患者さんの感染をきっかけに、院内クラスターが発生しましたが、15日間で収束させることができました。そのとき、スタッフの感染は、ゼロだったんです。そこから、スタッフの気持ちは変わっていったように感じます。
「感染対策がちゃんとできていたら、心配ないんだ」と。
私も最初は不安でした。「新しい施設じゃないと無理」と、思いがちなのですが、少し認識を変えれば、自分の身も患者さんの身も守れるんだよということを、痛感した経験になりました。
ユカリア経営サポート S.Yさん|再建途中の病院でコロナ専門病棟が運用できるのか
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F病院でコロナ専門病棟を開設するには、どう見積もっても、人手が足りない。スタッフの9割5分が反対している。「そうは言ってもやるしかない」。下を向いた発言をするわけにはいかなかった。
F病院のコロナ専門病棟は、ユカリアの判断で開設を決めたため、病院スタッフの反発も大きくなってしまいました。こんなに反対だらけの中、どうやって病棟スタッフを確保するのか・・・。それが一番悩ましかったですね。
2019年まで派遣ナースに頼っていて、2020年からは病院スタッフだけで回していこうと決め、1年を過ぎたばかり。新しい病棟を作るには、また派遣ナースに頼らざるを得ませんでした。
「人がいないからできないんじゃない。やれることをしっかりやっていこう」
そう伝えながら、私自身も動いて、見せていくしかないかなと感じていました。
S.Yさんは、事務課課長 Y.Uさんと共にコロナ専門病棟開設の準備を進めた。「なんか事務長がんばっているな」という雰囲気作りに取り組んだ。
感染対策委員会に参加したり、防護服を着て患者さんの移送に関わったりしながら、「F病院みんなでやっていこうよ」という雰囲気作りだけはしていこう、と取り組んでいました。
放射線技師や薬剤師が積極的に関わって、力を発揮してくれたのは嬉しかったですね。感染対策委員会の中で、標準予防策や防護服の着脱方法がわかる資料を積極的に作成して、それを基に勉強会が開かれるようになりました。
最初は派遣ナースに頼りきりだった看護師のシフトも、徐々に院内スタッフだけで回していけるようになりました。看護師長が覚悟を決めて、向き合ってくれた成果でした。
少しずつ、院内全体にコロナ専門病棟を運用する雰囲気が醸成されていった。2020年3月に療養病棟で院内クラスターが発生した時、S.Yさんはこれまでと違う空気を感じ取っていた。
もともと、「あの人の仕事だから」「あの病棟のことだから」という縦割りに近い意識があって、横の繋がりが少ない関係性だったんです。その壁をとっぱらうのは簡単ではなくて。
自分たちで課題を見つけ、意味を見つけて取り組んでいくことでしか、変わっていかないことがあります。
院内クラスター発生時は、協力する人、しない人と、分かれてしまってはいたんですが・・・。それでも、以前に比べると協力し合う機会も増え、少し風通しが良くなってきたのではないかと感じています。
2018年の民事再生法申請以降、「一度倒産した病院だから」と、ネガティブな意識が強かった院内が、少しずつ変わっていった。シビアな言葉の中にもS.YさんのF病院への期待があった。
まだまだ再建途中の病院でコロナ専門病棟を開設して、運用できているのはかなりの進歩だと感じています。
今回、思わぬ形で感染症を受け入れる病院になったことが、感染対策強化のきっかけになりました。まだまだ改善が必要なものもありますし、感染対策委員会で決めた取り決めを、院内の隅々まで広めていくという課題があります。
一人ひとりが感染知識を上げられるよう、マニュアル化したり、ICT(情報通信技術)通じた情報の共有をより強化していきたいですね。
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次回は、地域の高齢者医療を支える千葉県G病院が、コロナ専門病棟開設した事例を紹介します。
編集協力/コルクラボギルド(文・栗原京子、編集・頼母木俊輔)/イラスト・こしのりょう