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欧州: 脱炭素とエネルギー税制改革
EUグリーンディール&Fit for 55下の取組で唯一結論が出ていないエネルギー税指令(ETD)改定。現在のEU加盟各国における税率は化石燃料優遇となっており、それを脱炭素の取組にAlignさせる目的だが、加盟国の税制に触れる機微な問題のため、加盟国全会一致が求められ、いまだ合意に至っていない。その概要をサクッと整理した。
記事要約
EU加盟各国における税制(エネルギー税も含め)は、国家主権の下加盟各国の判断で設定される。
しかし、あまりに税率・価格が異なると、EUのエネルギー単一市場形成の阻害となるということで、少なくとも最低税率だけは設定したのがエネルギー税指令/Energy Taxation Directive (ETD)。EU加盟各国は、ETDで定められた最低税率以上の率でエネルギー税を設定する。
現在のEU加盟各国における税率は化石燃料優遇となっているので、それを改定するという話だが、現在スタック中。EUの脱炭素に対する本気度を示すためにも、クローズしてほしい法案。
1. そもそもの背景
そもそもEU加盟各国における税制(エネルギー税も含め)は、国家主権の下加盟各国の判断で設定される。車両、飛行機、海運で使用される各種燃料、暖房燃料、電力代等に関して加盟国間であまりに税率・価格が異なると、EUのエネルギー単一市場形成の阻害となるということで、少なくとも最低税率だけは設定しよう、と言ってできたのが2003年に制定(2004年適用開始)された現行のエネルギー税指令/Energy Taxation Directive (ETD)。EU加盟各国は、ETDで定められた最低税率以上の率でエネルギー税を設定する事となった。
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(出典:欧州委員会影響調査報告書, p.13)
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(出典:欧州委員会影響調査報告書, p.13)
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(出典:欧州委員会影響調査報告書, p.13)
ただ、現行最低税率は、各エネルギー源の環境負荷やカーボンフットプリントに紐づいていない上、例外規定を使って特定燃料に対する税率は引き下げることも可能。
その結果、現在のEU加盟各国における税率は化石燃料優遇となっている。それがわかるのが下記のグラフ。ことが下記の図からわかる。石炭に対する税率は天然ガスより低く、バイオ燃料や電力に対する税率は化石燃料よりも高くなってしまっている。
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(出典:ECA報告書, p. 16)
セクター別の税率平均を見ても、国際貨物の0 EURから道路交通の50EUR/MWhと大きなギャップができている。
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(出典:ECA報告書, p. 15)
ということで、EUグリーンディール&Fit for 55の文脈で改正が必要、という話になった。ちなみに2011年にもETD改定の動きがあったがその時は改定するには至らず。
2. ETD改定案概要
2021年7月、欧州委員会がETD改正案を発表。EU加盟国の税制に触れる内容のため、通常立法手続き/コデシとは異なり、EU加盟国全員一致/Unanimity&欧州議会はあくまで諮問のみというConsultation手続きに則って政策議論が行われた。なお、2024年3月時点でいまだ議論は決着しておらず。
欧州委員会提案を表にしたのが以下の図。短期的税率変更と長期的変更(2035年)のTwo phaseアプローチで、化石燃料に対する最低税率の大幅増を提案している。下記の図を見るとわかるが、石炭&天然ガス向けに対する最低税率の増加率が半端ない。ビジネス観点からはエネルギーコスト増による企業の競争力減、個人の観点からは暖房コスト(欧州はガス暖房が主)増となるので、その機微度合いがうかがえる。
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(出典:ECA報告書, p. 37)
もう少し詳しく見ると、欧州委員会案では、各種燃料に対する税率をエネルギー熱量/ gigajoulesベースで決めるアプローチ、交通用燃料、暖房用燃料、電力用燃料で異なる税率提案となっている。念のためその詳細をいかに張り付けておく。これをまとめたのが上述ECA報告書から抜き出した図となっている。
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(出典:欧州委員会影響調査報告書, p.32)
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(出典:欧州委員会影響調査報告書, p.33)
2024年3月時点で、EUグリーンディール/Fit for 55下の法案の中で唯一決着がついていない法案となっている。環境と経済間のバランスをどうとるか、エネルギー危機や経済停滞などが大きな懸念となり、全会一致に至っていないのが現状。
3. コメント
税金などカネの流れを見るとEUの脱炭素本気度がわかる。EUグリーンディール&Fit for 55下では様々な施策が打ち出されたわけだが、その多くは、加盟国に対する目標値設定要求だったり(例:再エネ指令改定)、業界に対する脱炭素化要求だったり(例:ガソリン・ディーゼル車両新車販売禁止、ETS改定など)するが、やはり税金とかまさに聖域踏み込む話になると欧州の政治家たちも足踏みし出す。
業界に身を置く私からすれば、EUの本気度を示すという意味でも、ETD改定は成し遂げてもらいたいところ。2030年気候変動目標に対して406 billion EUR/年足らないというデータがある上、EU財政ルール上積極的財政施策による脱炭素後押しも難しい中、税制にも手を付けないとなると、正直EUポリシーメーカらは二枚舌と言われても仕方がない。
※2030年気候変動目標に対して406 billion EUR/年足らないという研究概要
※EU緊縮財政ルール概要
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