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俺とクラゲとバス - 手のひらサイズの物語
現代人は働き過ぎと常々思う。
俺は普通のサラリーマンだ。定時に帰れることばかりじゃないけど、それなりに趣味にも時間を使えているし日々の生活に不満はない。つまり精神状態を疑うような状況ではないということだ。
だけど、だけどさ。
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営業帰りのバス、窓側に陣取った俺の隣に座ったそいつが、人間サイズのクラゲみたいなかたちをしていることに対して、ツッコミを入れられなかった自分には結構動揺した。
いや他に動揺するとこあるよ、あるけど、誰もリアクション取らないし、そいつは車内をちらちら見ながらなんか嬉しそうにしちゃってるし、ああうたた寝でもしてんのかな俺、夢でも見てんのかなってなるじゃん、なるよな?
「あ」
停留所で止まったバスの扉が開いたところで、そいつが、顔? 頭? を上げ、入り口へ向ける。そのまま足だか手だかのうち数本を使って器用に立ち上がると、手すりに捕まる足の悪そうなおばあちゃんの腕を絡め取った。
「おばあさん、席どうぞ」
おばあちゃんはそいつに促されて俺の隣に嬉しそうに座る。なんなら他の乗客も微笑ましそうに見ている。なんなの、やっぱり夢なの、それとも俺がおかしいの?
「ありがとうね、クラゲさん」
「どういたしまして」
それとも、自覚がないだけで、やっぱり俺も働き過ぎなのか。
つり革に掴まるクラゲの腕は、ぷるんと瑞々しい水色だった。
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絵 はしもとあやね ( @enayacomic )
文 ねきの( @nekino_e )
イラストレーター×文筆家の物語ユニット
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