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祖母の着物[松竹柄の大島紬]

去年の末、祖母の形見の着物をもらってきた。

私はおばあちゃんの着物姿を見た覚えがないけれど、おばあちゃんは着物好きだったらしい。

着物箪笥には、小紋に大島紬、訪問着に黒留袖、成人式に私も着せてもらった振袖など、何でも揃っていた。

お目当ては大島紬。
紺地に松と、竹模様だろうか、繊細に織り込まれている。
光沢があり、シャラシャラした手触り。
お高かったんじゃないかな。

母が言うには、おばあちゃんはずっと大島紬に憧れがあったそう。
だから母の結婚時に持たせてあげて、ついには自分の物も買ったみたい。
母の大島紬より、いくぶん新しい。

八掛と言うのかな?裏地は渋いピンク色。
合いそうな帯も羽織もピンク系。

おばあちゃんはピンクが好きだったんだろうか。
私も好きな色はピンクだ。


なんとなく、トマトジュースのことを思い出す。

確かおばあちゃん家で、トマトジュースをすすめられたのかな。

私が
「トマトジュースは好きじゃないんや。トマトは好きやけど。」
と言うと、おばあちゃんは
「私は毎日飲んどるのに・・・」
とショックを受けていた。

なんだか可愛らしかった。


おばあちゃんは気の強い女性だったと思う。

でも孫娘の私には優しく、甘やかしてくれた。

おばあちゃん家に行くといつも、美味しいものを食べさせてくれたし、お小遣いをくれた。

私が病気で大学を辞めた時、
「体が大事やでな、大学ならまた行けばええ」
と言ってくれて、救われた。

おじいちゃんは、せっかく入った国立大学を辞めるなんてとんでもないと怒っていたけど。



着物を着る機会を得て、今回も前日にしつけ糸を取るところから。

憧れの大島紬を、おばあちゃんは着ることはなかったんだろうか。

でも裾のしつけは取った跡があって、袖のしつけだけ残っていた。


当日、まず先にメイクをする。

いつだったか、
「お化粧しやな、出かけられん。」
とおばあちゃんは言っていた。

そうだ、それは私が死ぬことしか考えられなかった、底の底の時。

おばあちゃんはおばあちゃんを生きている、と思った。

その時、私は私を生きていなかった。

メイクは今も好きじゃない。
でもしていると楽しくなってくるのはなんでかな。

今回は日焼けしないように下地も塗った。

眉はペンシルとパウダーで色を足す。
アイメイクははしょってマスカラだけ。

ハイライトとチークを入れて完了。


髪型は前回の失敗から研究してあって、夜会巻きにした。

一回でうまくいった。

手作りしたピンクの紐結びのヘアコームをさす。


裾よけと半襦袢を着て、いよいよ着物を着付ける。

母の着物よりは丈が短くて着やすい。

おばあちゃんと私は背丈が近かったのか。
小柄だった印象があるけど、私よりは高かったっけ。

YouTubeを見ながら順調に着られた。


そして帯を結ぶ。

この渋いピンクというか、くすんだ薄赤の帯は、使い込まれた感がある。

扇型の縁取りの中に銀糸の花模様があしらわれている。

特に何もしなくても柄の位置がうまく出た。


帯揚げはこの前と同じ物。

帯締めは私が一本300円ほどで購入したリサイクル品の、ピンクの物がぴったり合った。


最後にピンクがかった紫色の羽織を羽織って、思う。

私のおばあちゃんのイメージはこの色だ。

上品な華やかさのある紫。



祖母が亡くなって10年になる。

お葬式の後、私はメンタルのバランスを崩して入院した。

あれから、目覚ましい進歩は遂げていないけれど、いくつか趣味が増えた。
着物もそのうちの一つ。

おばあちゃん、私は結構元気になったよ。




前回はこちらです。




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