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異世界へ召喚された女子高生の話-87-
▼空を駆ける
アルテミス・グレイウッドの登場により、フィッツジェラルド邸は活気に満ち溢れた。
フィリップはその顔を見るや否や、恭しく跪いて挨拶をする。
他の人々も高名な老人と見て、同様に対応しようとしたが、どうもそんな気にはなれなかった。
「おお、なんじゃこれは? 凄い集まりじゃ、実に愉快っ♪」
アルテミスはどこか浮世離れした軽やかさを漂わせていた。
「アルテミスさん、相変わらずマイペースですね…」
藤井玲奈が呆れた様子で話しかける。
「おお、お嬢さん、こちらにおられたか。エドウィンには会いましたかな?……いや、不在だったか? 娘さんがそう言ってたなぁ…」
アルテミスはこの調子で、頼り甲斐がない。
「ま、まあ、近くの席へお掛けくださいな。できれば、ロウェン・アルディンから英雄ケイリー・美咲様を救い出す知恵をお借りしたい。」
ロバート・フィッツジェラルドは議長らしく丁寧に対応する。
「ほほう、ケイリーがロウェンの小童に囚われたのか? これは手立てを示さねば。何が必要かな? 移動の手段か? 囚われの姫の居場所か? ロウェンを討つ武器か?」
アルテミスが興味深げに問いかける。
日が暮れ始めた頃、扉が開き、グレイロック村の村長ベルトランが血相を変えて駆け込んできた。
「はあ、はっ……ケイリー様が危機に見舞われたと聞いたが、それは本当なのかね?!」
「なぜ、あなたがそれを? 誰か知らせが行きましたか?」
ロバートが驚いて尋ねる。
「知らせなんてもんじゃない。大空を飛ぶ不気味な魔物が叫ぶんだよ。『英雄ケイリーの危機だ。ロウェン・アルディンの城へ向かえ!』とあちこちで触れ回っているんです。ご存知ありませんか? 私は婚礼への出席のためこちらに向かったと聞き、まずは確認をと参ったのですが……」
居並ぶ面々の表情を見たベルトランは、その様子から悟った。
「やはり本当なのですね?! 皆さんはロウェンの城へ行かれるのですか?」
「ベルトラン村長、もちろん、そのための会議をしていたところです。その魔物というのは、大鷲の翼に獅子の体、頭は長い銀髪の女性ですか?」
フィリップが喉を鳴らしながら尋ねる。
「そうだ。その姿だ。実に恐ろしい異形の姿だ。」
ベルトランは震えている。
「リリスだ……一体、何を考えているのよ?」
エリナが訝しげに呟く。
しばらくすると、今度はカラドール騎士団の団長サイラスが飛び込んできた。
「こちらにベルトラン村長が向かったと聞いたが、ケイリー殿の件は本当か?!」
「騎士団長様っ?!」
その姿を見て、皆が立ち上がり敬意を示す。
「よいよい、今は緊急事態ゆえ、そんなことは気にせずに話をしてくれ。」
サイラスが制止する。
「騎士団長様、ケイリーの件は本当で、ただ今はロウェンの城へ監禁されています。」
フィリップが説明した。
「伯爵より、ケイリー殿の身の安全の確保に努めよと、指示を受けている。会議中ならば、途中参加になるが失礼する。」
サイラスは手近な席に腰を下ろす。
「リリスめ、楽しんでおるようだな。こうも戦力が増えれば、作戦も立て直さねばなるまい。なあ、フィリップ君よ。」
アルテミスが、満足げにフィリップに問いかける。
初めは捨て身の覚悟だったが、今は心強い力が集結しつつある。
これは、まだ増えそうだ。
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一方、ロウェンの城下も大騒ぎとなっていた。
「奇跡の癒しを持つ美貌の女勇者を、ロウェンは独り占めにする気だよぉーっ! みんなぁ、許しちゃってぇいいのぉーっ?」
翼を持つ獅子の体に、銀髪をなびかせた女の顔をした異形の魔物が叫びながら空を飛び回っている。
城下の人々は不安でたまらない。中には弓矢を放つ者もいたが、獅子の尾で蹴散らされるだけであった。
ロウェンも騒ぐ弟子たちからその報を聞き、城の尖塔から魔術で撃ち落とそうと試みたが、リリスは意に介さず飛び続ける。
一晩中、叫びながら飛び回り、朝霧の中へと消えていった。
その無力さや、異形の言葉から、城下の人々のロウェンに対する不満が噴出してくる。
ーーー朝霧が城下に立ち込め、周囲を覆った。
その中から続々と人々の群れが湧き出してきた。
その中心にはカラドール騎士団があり、サイラス騎士団長が群れを指揮している。
「さあ、ロウェン城へ突撃して、英雄ケイリー殿の救出に向かうぞっ!」
叫ぶや否や、一斉に人の群れが押し寄せる。
ロウェンの城下町は、朝の静けさが一変し、恐怖に慄く。
ーーー逃げ惑う人々。
しかし、それを街に潜ませてあった石の人形ゴーレムが迎え撃つ。
激しい戦闘が、あちらこちらで繰り広げられる。
弟子たちの急報で目覚めたロウェンは、驚いて飛び起きた。
「何がどうなっておる? なぜ急にそのような大軍が?」
焦る気持ちを抑えつつ、冷静に思考を巡らせ、対策を練ろうとする。
地下深くに囚われた美咲は、そんな事態とは知らず、朝比奈九散からもらったシンプルなチュニックを着て、室内でストレッチをしていた。
やはり朝練の習慣で、この時間帯には自動的に目覚めてしまう。
外の様子に気付かぬまま、美咲はこの狭い空間で今日は何をしようかと、ストレッチをしながら思索を巡らせていた。
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