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4年間酒蔵に勤めた若手蔵人が、自身で企画した日本酒を醸しました
皆様初めまして!
宝山酒造で蔵人・営業・広報をしております、吉田瑛人と申します。
日頃から宝山酒造をご愛顧いただき、誠にありがとうございます。
宝山酒造では、『土蔵だより』と呼ばれる広報誌を毎月お得意様に配布しています。2023年4月号に掲載されたの『ひと休み。』は、私が商品企画・酒質設計・製造・ラベルデザインの全てに携わった商品となっております。
通常は、土蔵だよりのみで商品をご紹介を行っているのですが、せっかくなので、ひと休みを企画した経緯などを、このnoteに記そうと思います。
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『ひと休み。』は、2023年3月25日〜4月30日まで間、お得意様向けに先行販売中です。
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企画・コンセプトについて
コンセプトは、
「再醸仕込み」×「熟成」です。
そして、「宝山酒造の従来の清酒の作り、味わいとは異なる製品づくりを目指し、新たな商品ジャンルとして定着させたい」という想いから、商品企画をスタートしました。
お酒の仕込みを始める前に、まず考えることは、自分はどのような香りや味わいのお酒を作りたいのか、決定することでした。
当たり前のことですね。
そしてその後、自分が理想としている味わいにするために、原料や仕込み方法を決定していきます。
米の種類、麹の種類、酵母の種類、仕込み工程、原酒なのか割水をするのか、濾過するのか、生酒なのか火入れをするのかなどなどを事細かく決めていきます。
そして大まかですが、『ひと休み。』では、こんな酒質設計を考えていました。
甘口の日本酒作りに重点を置く。
「甘味」と「酸味」のマッチングを狙う。
常温放置で「熟成」を楽しめる酒質を目指す。
低精米歩合の日本酒の魅力を引き出す。
飲み方を変えることで、風味の違いを感じてもらう。
といった感じです。
下記で、ひとつひとつ触れていきたいと思います。
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室温35℃以上の部屋で麹を管理していきます。
1.甘口の日本酒作りに重点を置く。
まず1つ目、甘口に重点を置いた商品を開発してみたいと思ったきっかけは、「宝山酒造のラインナップには、甘口の商品が少ないこと」と「新潟淡麗のイメージを変えたい」いうことでした。
宝山酒造では定番商品の他にも、季節限定品や甘酒、リキュールといったラインナップがあります。ですが、甘酒やリキュールを除いた日本酒のみでは、辛口の味わいを売りにしている商品が多くあることを実感していました。
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そのため、甘口の商品も充実させることで、お客様の選択の幅が広がり、新たなニーズ獲得に繋げることができるのではないかと考えました。
また、宝山酒造含め新潟県内の酒蔵は、どの商品に対しても「新潟淡麗のイメージ」があり、「辛口」で「キレがある」酒質が特徴的だと言われています。しかし、新潟の酒蔵でもこんなに面白い甘口のお酒が作れるんです!といった、淡麗のイメージとは異なる味わいのPRもしていきたいとの想いから、甘口の日本酒作りにたどり着きました。
2.「甘味」と「酸味」のマッチングを狙う。
2つ目の「甘味」と「酸味」のマッチングでは、単純に4段仕込みと再醸仕込みの掛け合わせによって生まれる風合いを味わってみたい!と思ったことでした。
まず、4段仕込みとは、
醪を仕込む際、一般的な三段仕込みに加えて、さらに四段目を仕込むこと。四段目に追加するのは、蒸米・甘酒・酒粕・酵素などである。甘口の酒を造るために取り入れられる手法。
になります。
4段仕込みを行わず、3段仕込みのままでも甘めのお酒は作ることができます。ですが、より甘味をプラスしたかったり、もろみの段階で発酵が進み、思ってたよりもキレてしまった(=辛味がでてしまった)場合などに用いることができます。
次に「再醸仕込み」とは、
仕込み水の一部を日本酒に置き換えて仕込んだ日本酒。濃醇な甘みととろみのある口当たりが特徴。
になります。
濃醇で複雑な甘味のほか、若干の酸味も生み出せるため、味わいがより奥深くなります。
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すでに甘い香りが立ちこめていました。
勘違いしやすいのですが、再醸仕込みと同様の仕込み方法を行う「貴醸酒」と呼ばれるお酒もあります。
そして一般的には、貴醸酒という単語の方が、断然認知が高いと思います。
そしたらなぜ、貴醸酒という名前を使わないのか疑問に思われるでしょう。
それは、宝山酒造が貴醸酒協会に属していないためです。
貴醸酒という製法は、1974年(昭和49年)に特許として申請され、1978年(昭和53年)に公告されています。そして今現在は、商標を「貴醸酒協会」が管理しています。そのため、協会の会員でない限り、同じ仕込み方法を行っても貴醸酒とは名乗れないので、再醸仕込みという少しわかりにくいような言い方をしなければいけないのです。
以上2つの仕込み方法を掛け合わせることによって、再醸仕込みによる若干の酸味によって、甘味がありつつも、味わいがはっきりとした甘口の日本酒が完成するのではないかと考えていました。
3.常温放置で「熟成」を楽しめる酒質を目指す。
3つ目は、2回火入れを行い、生酒のように冷蔵保存を必要とせず、常温放置で「熟成」を楽しめるような酒質を目指すことでした。
従来の製造方法では上槽後(=もろみを「清酒」と「酒粕」に分ける工程のこと)、2度の火入れという低温殺菌を行い、清酒中に存在する酵母の活動を抑えます。これにより、常温での保管を可能としてきました。
しかし、近年の日本酒市場は「生酒」(=1度も火入れを行わない)や「1回火入れ」など火入れの回数を減らした商品が増えてきたように思っています。それにより、新鮮でフレッシュな風味を損なうことなく味わうことできます。
とはいえ、生酒の管理は難しく、充実した冷蔵設備がなければ、味わいが悪い方向へ変化してしまうリスクもあります。
宝山酒造では現在の設備の関係上、生酒の保管がごく限られた量しか管理できません。
それならば、いっその事、商品を常温で保管ができ、日に日に味わいが変化していく「熟成」を楽しめる商品があっても面白いのではないかと思いました。
そして、日本酒の熟成には大きな可能性があると思っています。
熟成させることによって、新酒のフレッシュさとは全く異なる世界観が生まれます。風味はとても複雑で、ウィスキーのようなスモーキーさ、キャラメルのような香ばしさなども楽しめます。
「熟成」が楽しめる酒質 + 今回のテーマである「甘口の日本酒」と掛け合わせることによって、より濃醇で豊かな味わいを達成できるのではないでしょうか。
4.低精米歩合の日本酒の魅力を引き出す
4つ目は、低精米歩合の日本酒の魅力を引き出すことです。
精米歩合とは、
白米のその玄米に対する重量の割合。
になります。
分かりやすく言うと、
米を削って"残った部分が"どのくらいの割合なのか
を指します。
精米歩合60%=削った米の割合:40%・残っている米の割合:60%
といった感じです。
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30kgの米袋を何袋も持ち上げて洗っていきます。
日本酒は、精米歩合を高く(=多く削る)することで、純米吟醸や大吟醸などの特定名称を得て、商品の付加価値をつけることが一般的です。
それは、酵母の発酵によって華やかな香りをつけため、米外側の胚芽やタンパクなどの取り除き、純粋なデンプンがある米の中心を必要があるからです。
では、米を削れば削るほど美味しいお酒が作れるのか。
個人的にはそうは思っていません。
高精米歩合には高精米歩合、低精米歩合には低精米歩合の良さがあるように思っております。
現に、精米歩合99%(精米歩合100%=玄米:玄米での仕込みは日本酒とは呼べなくなるため、99%が限界)の酒が存在する一方で、精米歩合1%の酒もあります(1%以上削っている商品もあります。)
今後、より多種多様な酒質設計をする必要があるように思っております。
現在の宝山酒造には低精米歩合の商品がほとんどなかったために、商品開発にチャレンジしてみようと思いました。
5.飲み方を変えることで、風味の違いを感じてもらう
最後の5つ目は、飲み方を変えることで、風味の違いを感じてもらうことです。
基本的に日本酒は、冷やして提供する場面が多くあり、すっきりとした味わいを楽しめます。また、冬場などの寒い季節は、お燗をつけることで風味豊かな味わいに変化させることができます。
今回の『ひと休み。』では、再醸仕込みの「甘味」と「熟成」をコンセプトとしています。なので、冷やした時のすっきり感はもちろんのこと、あえて常温で味わうことによって、より一層の豊かな風味を味わうことができます。
日本酒は、他の酒類に比べ、多様な温度帯で楽しむことができます。私からは冷やす or 常温をお勧めしていますが、自分がお気に入りの温度を見つけるのも一つの楽しみになるでしょう。
出来上がった酒は、思い通りの味??
ついに、自分が企画した日本酒が出来上がりました!
結論から言うと…
想像していた味わいと全然違う!!!
でした笑
理想と現実は違うものです。
何が予想と違ったかというと、
・「再醸仕込み」によって奥深くコクのある味わいを出したかったが、思っていたよりもあっさり目に仕上がった。
・「再醸仕込み」特有の酸味が薄めだった。
この2点です。
思い当たる要因としては、
再醸仕込みを行った後の温度が思うように上がらなかった。
温度が上がらなかったにも関わらず、もろみ初期の段階でアルコール発酵が盛んに行われてしまった。
この2つが挙げられるかなと思います。
通常、再醸仕込みを行った場合、水の代わりにお酒を入れるのですから、アルコール分が一気に高まります。
そうすると、もろみ中の酵母の発酵作用が弱まるのです。
しかし、今回の仕込みでは低温であまり温度が上がりにくかったのですが、それでも初期の段階でアルコール発酵が盛んに行われました。
そのために、奥深いコクや再醸仕込み特有の酸味がなくなってしまったのかなと分析しています。
結果的に理想的な酒質にはなりませんでした。
しかし、今回出来上がったひと休みは、
・バナナやメロンのようなフルーティーな甘い香り
・再醸仕込み特有の複雑な甘味
・熟成させることでより際立つ豊かな風味
この3つの特徴が特徴的となり、とても個性的な日本酒になってくれました。
上手くいかなかった箇所の原因追求と改善し、今後の造りに活かしていければと思います。
日本酒作りは奥が深いなと、改めて実感しました。
仕込み以外の苦労したこと
素人ながらラベルデザインも制作
ラベルデザインはAdobe Illustratorを使用して作成しました。
デザインに関してはただの素人なので、ソフトの使い方からデザイン構成までとても苦労しました。
今回のテーマの1つが熟成なので、
慌ただしい1日の中でも、自分だけの休み時間を切り取る
と言う意味を込めて、表ラベルをチェキフィルム、裏ラベルをチェキ本体をイメージしたデザインにしました。
また、「レトロ感」×「city pop」の色調や世界観を表現してみたいと思い、チェキフィルムの中のデザインに取り入れました。
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そして、ひと休みの裏ラベルでも記載していますが、おすすめなシチュエーションとして「夜、食後にゆっくりと。」と言うことを、一応ですが推奨しています笑
ですので、部屋から見える夜景とスマートフォンの組み合わせを採用しました。
そして完成したひと休みなのですが、
実は、3種類の商品展開を考えていました笑
展開内容として、
・ノーマルタイプ
・「にごり酒 ver」
・にごり酒に新潟県産越後姫を加えて製造する「いちごにごり ver」(いちごを加えるので品目はリキュールになります。)
です!
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商品発売まで至らなかった理由として、もろみ状態の考慮と酒の陣にひと休みを間に合わせることを優先にしたためです。ですので、にごりとにごりいちごの2種類を断念いたしました。(個人的にはにごりのデザイン配色が気に入っていたので残念でした。)
もしひと休みが人気ならまた機会があれば、この2種類が商品として採用されるかも…?
にいがた酒の陣2023での試験販売
今年は、にいがた酒の陣2023が開催されました!!
ぜひ会場にひと休みも持っていきたい!と杜氏にお願いしたところ、OKをいただいたので、通常商品達と一緒に並べ、先行販売させていただきました!
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酒の陣は2日間行われましたが、4年ぶりの朱鷺メッセでの開催ということで、会場全体がとても盛り上がっていました!!
各蔵本当に多種多様な日本酒や果実酒、リキュールを用意しているので、日本酒好きとしては会場を歩いているだけでも楽しめました(試飲したかった…)。
そんな環境でも、想定以上にひと休みを試飲や購入してくださるお客様が多く、頑張って商品企画した甲斐がありました!!
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自分で撮影しすぎで、自分自身が写っている写真がありませんでした笑
『ひと休み。』の話ではないのですが、今回の酒の陣で1つ残念だった点がありました。
それは、制限時間3時間で交代制となっていることでした。
開催できただけでも嬉しいことですが、お客様の入れ替えの時間が短すぎることもあり、試飲はよく出るけども、商品の購入につながらないことが多々ありました。
また、お客様側も食事で、試飲で、購入で並ぶとなると、とてもじゃないけど時間が少なすぎるような印象を受けました。
来年、通常通りに開催できるならば改善していただけると酒蔵側からしても嬉しく思います。
まとめ
今回、自身で初めて日本酒を醸造してみて一番感じたことは、
自分の理想としている味わいに近づけるのは、"至難の業"だった
これにつきました。
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『ひと休み。』は、2023年3月25日〜4月30日まで間、お得意様向けに先行販売中です。
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日本酒は米や水、麹に酵母などなど様々な要因が重なりあって造られます。
何年も酒を仕込んでいると、たまたま美味しい酒が出来上がることがあるかもしれません。
ですが、その酒蔵の通常商品として安定した酒質にしなければなりません。
再現性がなければ酒造りのプロ、杜氏は務まらないと改めて実感し、宝山酒造含め、各蔵の杜氏や蔵人の技術の高さがわかりました。
今回のひと休みの商品企画から仕込みまで一貫してできたことは、とても自分にとって有意義な時間になりました。
酒造りは決して1人ではできません。
今回この機会をくださった宝山酒造及び協力して下さった杜氏や蔵人、社員の方々に感謝です。
ありがとうございました!