タイ生活 mini小説 「タイから届ける一票 ~在外選挙が導く新たな一歩~」

「タイから届ける一票」

健太は20歳の大学生だ。能登半島出身の健太は、今年初めに発生した震災で被害に遭い、未だ不便な生活を送っていた。そんな中、父親の仕事の都合でこの春からタイのバンコクに住むことになった。日本を離れるのは寂しかったが、新しい生活に胸を躍らせていた。

バンコクでの生活が始まって数ヶ月が経った頃、日本では選挙の話題で持ちきりだった。ニュースでは連日選挙特集が組まれ、友達とのLINEのメッセージやSNSでも選挙の話題で持ちきりだった。健太は、震災からの復興や地域の未来を決める大切な選挙だと感じ、自分も投票に参加したいと強く思うようになっていた。しかし、タイにいる自分にそんなことができるのだろうか?

そんな時、在外選挙制度のことを知った。海外に住む日本人も投票できるシステムがあるらしい。健太は早速、在タイ日本国大使館のホームページで手続きを調べた。

在外選挙に参加するには、まず在外選挙人名簿への登録が必要だ。健太は「在外選挙人名簿登録申請書」をダウンロードし、必要事項を記入。記入した申請書と、日本国パスポートを持って、在タイ日本国大使館へ直接足を運んだ。

数週間後、在外選挙人名簿への登録が完了したとの通知が届いた。健太は安堵のため息をついた。そして、選挙の告示後、投票用紙と説明資料が送られてきた。健太は在外公館投票を選択し、指定された期間内に在タイ日本国大使館へ再び出向くことにした。

投票日当日、健太は在タイ日本国大使館へ向かった。投票所には多くの在タイ日本人が列を作っていた。その列の中で、健太はなんとネットで見たことのある、タイで活躍している日本人アイドルの姿を見つけた。勇気を出して声をかけると、アイドルは快く応じてくれた。

「私も能登半島出身の友達が被災して、大変な思いをしているので、今回の選挙には思い入れがあるんです」と話すアイドルに、健太は共感を覚えた。別れ際、アイドルは健太に向けて言った。「私たち世代の声が政治を動かすと思う。だから、しっかり投票しようね!」

その言葉を胸に、健太は生まれて初めて投票用紙に候補者名を記入し、投票箱に投函した。日本から遠く離れたこの地から、自分の一票を故郷の未来に託す。その思いに健太の胸は熱くなるのを感じた。

投票を終えた健太が在タイ日本国大使館の外に出ると、バンコクの喧騒が耳に飛び込んできた。見慣れた光景だが、今日はいつもと違って見える。まるで世界が広がったかのような感覚だった。

大使館の前で、先ほど会ったアイドルと再会した。健太は笑顔で投票を終えたことを伝え、お礼を言った。アイドルは力強く頷いた。

帰り道、健太は考えた。この経験は、自分だけのものではない。世界中で、同じように在外投票をする人たちがいる。海外での日本人一人ひとりは小さな存在かもしれないが、みんなの思いが集まれば、大きな力になる。

そして、健太自身も変わった。自分にもできることがある。そのことに気づけたのは、この在外投票の経験のおかげだった。

数日後、開票速報のニュースを見た健太は、自分が投票した候補者の名前を見つけ、小さくガッツポーズをした。健太の一票は、確かに候補者に届いたのだ。海を越えて、タイから届けたあの一票。それは健太の中で、かけがえのない経験となった。

健太はバンコクの空を見上げた。雲一つない青空が広がっている。この空の下、世界中のどこにいても、日本人らしく生きていける。そう感じた健太は、歩みを速めた。新しい一歩を踏み出す、そんな予感に胸を膨らませながら。

健太のタイでの新しい人生の一ページが、まさに幕を開けたのだった。

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