見出し画像

新入社員は何を学んでいるか?~オンボーディングの要点~

 
 株式会社エスノグラファーの神谷俊です。

 すっかり春ですね。もう2週間もすれば、新入社員がやってきます。オンボーディングの計画を熱心に進めている。そういう企業も多いのではないでしょうか。

 今回の記事は「新入社員を巧く組織に馴染ませたい」と考えている人事ご担当者や現場の育成担当に向けてオンボーディングをテーマに書いて見ます。数分で読める記事ですので、どうぞ最後までお付き合いください。

オンボーディングは、
なぜ必要か?

 オンボーディングは何のために行うのでしょうか。

「慣れさせるため」「離職を抑制するため」「意欲を刺激するため」とか、様々な意見があると思います。いずれにしても、それらは全て業績を伸ばすために実施されるものであることを確認しておきましょう。

 新入社員を1名採用するために、企業は多くのコストをかけています。採用スタッフの人件費、プロモーション費用、就活中の交通費や宿泊費、会場費用等々、採用コストだけでも相当な金銭負担をしている。かつて何社か顧客企業の採用コストを試算したことがあります。1名あたり少なくとも90万円、多ければ200万円ほどの採用コストがかかっていました。

 ここに入社後の育成コストが加算されます。仕事を覚えてから会社に貢献するまでにかかるコストや人件費です。仕事を覚えるまでに時間がかかるという企業ほど、新入社員に初期投資される金額は多くなります。

 これらのコストを抑え、早期に投資した分を回収し、リターンを最大化させるために、オンボーディングは必要です。

 いまいちイメージがつかないという方は、賃金カーブと貢献曲線を用いてこれらをイメージすると分かりやすいと思います。下記図を参照ください(職能給を前提としたイメージ図です)。縦軸は、「賃金レベル」と「貢献レベル」。横軸は「年齢」です。日本企業ではまだ一般的な年功賃金の考え方で作成しています。年齢が増すほど、職務遂行能力があがり、企業への貢献レベルが上がっていくという考え方です。年齢があがれば、貢献レベルもあがり、賃金レベルも上がっていきます。

 「貢献曲線」と書かれた破線は、社員が組織に対して貢献している程度を表しています。「賃金カーブ」は、社員が組織からもらっている金銭的報酬の程度です。

画像1

 この図を踏まえて説明すると、オンボーディングを実施するねらいは、「貢献曲線A」を「貢献曲線A’」まで引き上げることです。

 入社初期段階では、新人は企業に対する貢献が低い状態にあります。「給与>貢献レベル」の状態であり、企業側は新人に投資をしている状態です。この投資をなるべく少なくして(A→A’)、社員の貢献レベルを早期に最大化させ、「給与<貢献レベル」の状態(B)をより早く、長く、大きくしていくことがオンボーディングの目的です。

オンボーディングで
何を学ばせるべきか?

 では、具体的に何を学ばせることで、新入社員は組織に適応していくべきでしょうか。新入社員が、組織に適応するプロセスは組織社会化論という領域で研究されています。今回は、そこで提示されている知見をヒントに、何を学ばせるべきかを提示していきます。

 まず、見て欲しいのは下記のチャート図です。

 こちらは、尾形(2008)で提示されている組織社会化プロセスにおける学習内容を、編集して再整理したものです。学習対象別に、ミクロ(個人)、メゾ(チームや職場)、マクロ(組織全体や環境)の3つの範囲で整理しています。

画像2

 これを踏まえてお伝えしたいことは、ほとんどの学習内容が観察を要するものであるということ。それも、メゾやマクロなど集団単位の観察学習が求められるという点です。

 例えば「政治」や「文化」などは、他の社員が何をどのような文脈で語っているのかを実際に見聞きしなければ理解することができないでしょう。人事担当者が「うちの会社は愛他精神を大切にしています」と語るよりも、「部長が若手社員の仕事を手伝っている光景」を目の当たりにするほうが圧倒的に学習効果は高いはずです。

 関連する研究にMiller & Jabin (1991)があります。新人の学習戦略について彼らは、新人が周囲の観察(Observing)全体監視(Surveillance)第三者の存在(Third Parties)等の重要性を提示しています。新人は、他者との間接的な相互作用から学んでいると言えます。

 「オンボーディング=新人教育」と捉えてしまうと、どうしても「誰かが何かを直接的に教える」という活動を前提に、計画を作成してしまいがちです。研修やレクチャー、1on1などは確かに重要です。しかしながら、それだけに終始してしまってはオンボーディングの効果を充分に高めることはできないかもしれません。

 新入社員にたいして、自社を学んでもらうような光景に出会わせること。そのなかでさりげなく観察させたり、代理経験を提供していくこと。こういった学習環境や学習機会を与えていくことも重要なのでしょう。

参考文献:


尾形真実哉(2008)「若年就業者の組織社会化プロセスの包括的検討」『甲南経営研究』第 48 巻第4号 , 11-68.

Miller, V. D. and Jablin, F. M. (1991), “Information seeking during organizational entry: influences, tactics and a model of the process,” Academy of Management Review, Vol.16, No. 1, pp. 92-120.

Twitterはこちら
Facebookはこちら


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?