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ミシンを踏んで、踊って終わろう
カトマンズは早寝早起きの街だから、なんだか朝から騒がしい。寺院が立ち並ぶ車が入れない一画を、私はゆっくりと過ぎ行く。鳩が一斉に飛び立つ。菩提樹の下では男がひとり、足踏みミシンを踏んでいた。繕いものか、縫いものか。それが彼の仕事である。
夕方、私は同じ一画を通り過ぎる。ミシンを踏んでいた男が、同じ場所でひとり踊っている。ラジカセからは音楽が流れ、傍らには太鼓を叩く男がいる。両手を天にかざし、得も言われぬ満面の笑みを浮かべ、菩提樹の下でステップを踏み、無心に踊っているのだった。
道行く人々は意に介さず、過ぎ行くのみである。踊りたいから踊っている。男からは自然なる発露が横溢している。
これが街の日常であり、数百年、数千年さかのぼっても同じ風景があったのだ。何という幸福、何という祝福。
朝起きてミシンを踏み、夕方になると踊る。私はしばし見とれてその場を去る。
ありがとう。
そう心で呟きながら。