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ドキュメンタリー本【ぼくは君たちを憎まないことにした】を読んで
なかなか見かけないタイトルですよね。
作者はフランス人。
原文のタイトルは “Vous n’aurez pas ma haine”
直訳すると「君たちは私の憎しみを受けないだろう」
翻訳者の土居佳代子さん、タイトルから素敵な翻訳だ。
本を読むと、この翻訳・意訳されたタイトルは、著者の想いにピタリと合っているな、と感じる。
知人から教えてもらい、知った本。
内容は、2015年11月13日、パリのバタクラン劇場で起きたテロ。
このテロにより、筆者のアントワーヌ・レリスさんは最愛の妻を失う。
150ページと薄い本なので、あまり書くとネタバレになってしまうが、彼の温かく幸せな日々は急に壊された。
彼、奥さん、幼い幼稚園の子どもの、愛に溢れた3人家族が、前触れもなく父と息子の2人っきりにさせられた。
このテロで、彼だけでなく、愛する人を失った人も多く、FB上には犯人への憎しみや嫌悪、非難の言葉が溢れかえっていたが、彼は違った。
「君たちには、テロで勝ったつもりでいるかもしれない。けれど、君たちには、ぼくたちの憎しみも与えない。それにより、君たちはぼくたちに勝てない。」
このようなメッセージを彼がFBに投稿したことで、彼の悲しみ、愛、勇気、さまざまな想いを受け取った人たちが拡散し、3日で何百万人もの人に広まった。多くの人に知れ渡るようになった。
彼の悲しみや苦しみへの同情、彼の心からの言葉への賞賛、周囲の人たちの手助け、色々とたくさんの人が心を寄せサポートしてくれるけど、とてもありがたいけれど、どんなサポートがあっても、彼と息子の悲しみや喪失感は一生消えることはない。
最愛の妻と2度と触れ合えない。
大好きなお母さんともう2度と会えない。
言葉で言い表すのは難しいけれど、私が感じたのは、
「愛する人を失った人の辛さは、その人にしか分からない。周囲が安易に評価するべきじゃない」こと。
よくある「元気出してね」「前を向いて」「奥さんの分もしっかり生きて」
なんて、他人が易々と口にして良いものじゃない、と思った。
もしできることがあるとすれば、なにも余計なことを言わず、となりに座って、ただただ黙って一緒に沈黙にひたる。一緒に悲しみ、涙する。
彼に、たくさんの人が、「なにかできることがあったら遠慮なく言ってね」とカードを送ってくれたそうだ。
ちがう、そうじゃない。
気遣う気持ちはよく分かるけど、当人にとって、そのメッセージカードを渡すことは、ちがう。
今愛する人と生きている奇跡、愛する人を失う悲しみと苦しみ、「君たちを憎まないことにした。憎しみすら、君たちにはあげない」という筆者の気持ち。
ぎゅぎゅぎゅっと私の胸に突き刺さる作品だった。
よかったら、みなさんにも読んでもらいたいな。