思い切って新作マンガをジャケ買いしてみる
ある日「学園祭学園」という私が好きなインディーバンドのYouTubeチャンネルで以下の動画が投稿されました。
もともと学園祭学園を御存じない皆様にはかなり不親切な内容(自己紹介なしで唐突に始まる上にYouTubeのお作法に則っていない眺めのトーク動画)でありますので、こちらで簡単に説明しますと
まず、メインボーカルの青木さんとパーカッション担当の阿部さんがそれぞれ、表紙だけで面白そうと思った漫画を購入し、お互いに交換しました。そして動画内では何冊か渡した漫画のうち、「面白かったものだけ」を紹介して、ほかのメンバーからの質問なども受けながら「購入した人の印象」と「読んだ人の感想」とのギャップを楽しむ動画となっています。
これに触発されて私も新作漫画をジャケ買いして、そのオススメ度と評価ポイントを書いてみたいと思います。私は一人ですので、自分で買って自分で読むことになりますが、自分なりに条件を決めて選ぶことにしました。
<条件>
①既刊1巻のみか、出ていても2巻までの作品であること
②あらすじや感想をネットで調べない
③ネットで広告や試し読みを見かけたことがない
④知らない作者(調べずに「あの人ね!」とならない)の作品である
です。
No.1『終末世界の箱入りムスメ』(マッグガーデン)
著者:みああわ
公式紹介文:
人類が滅びるくらいには未来のお話。マイペース甘えたがり少女のムスメさんと、不器用で過保護な人型ロボットの10番さん。一人と一機は今日も廃墟を探検中!
終末世界×擬似家族のほんわか終末ジャーニー
オススメ度:7/10
評価ポイント
・女の子が可愛いだけじゃない緻密な画風
・緩い2人の優しい関係と、見え隠れする哀しく骨太なSF世界観
とにかく絵が綺麗です。風景・機械・人の3種がどれもとても上手なので、今まで発見できなかったことを悔しいと思いました。滅んだ世界で生き残った人類を探すムスメと10番さんの関係性が、実は不安定でいつでも崩れ去ってしまうという現実が切なくも愛しくてとても良いです。まだ1巻なのでどうして世界が滅んだのかがハッキリと判明していませんが、見え隠れする回想などだけでかなり壮大な世界観であることが分かります。先が知りたいと強く思います!
No.2『羊角のマジョロミ』(KADOKAWA)
著者:阿部洋一
公式紹介文:
ある日全人類が眠りに落ち、起きている人間は「僕」と、魔女になって世界を変えた生意気な後輩「澤田」だけになった。
全てが眠りに落ちた退廃的な世界で、2人ぼっちの学園生活が幕を開ける。
オススメ度:8/10
評価ポイント
・流行りの「からかう女子とドギマギ男子」モノかと思いきや突きつけられるブラックファンタジーな世界観
・絵の表現技法として使われる歪み・乱れ
・ナンバリングタイトルとは思えない完結感のあるストーリー
帯にラブコメと銘打っていますが、ラブコメよりもブラックファンタジーの方が強めです。社会と触れ合っていく中で感じる生き辛さみたいなものが表現されていて、なんというか精神に対する「引力」を感じました。もう自分は労働者で大人で、社会のあれやこれやに折り合いをつけているのでなんともないですが、学生時代だったら精神的な影響を受けてもおかしくないような世界観です。紹介文通り退廃的な世界でとても面白いですが、コロナの世の中ではその「引力」に持ってかれてしまうかも知れません。元気な時に読むことをオススメします。ナンバリングが付いていますが、本当に続きがあるのか心配になります。なんというか、「続きのストーリーはあなたの心の中で」と言われても納得してしまうような完成度になっています。もちろんこの先があるのならばぜひ読みたい作品です。
No.3『スペオペ!』(少年画報社)
著者:麻宮騎亜
公式紹介文:
時はいつか見た未来。
所は懐かしき宇宙。
ここには星間物質・エーテルが満ちていた――。
人間が解放された宇宙を「太陽系の運び屋」オペラ・キャットルーンが愛機・フラジャイル号で駆け抜ける!
夢見た世界はここにある。
レトロフューチャーSF、開幕!!
オススメ度:5/10
評価ポイント
・80年代オタクエンタメを思い起こさせるレトロフューチャー!古いサブカルに触れ来なかった人にはむしろ新しいかもしれない。
まずはベテラン作家さんの作品を「知らない作者」の条件に混ぜてしまっていることを謝罪したいです。『サイレントメビウス』などで知られる麻宮先生の9年ぶりの新作という帯のアオリ文でした。「破天荒な女の子の主人公が無茶やって爆発」という展開が1冊で3回くらいあります。太陽系をまたにかけ、元気な時代の日本を想起させるパワフルな作品です。職種にからめとられるサービスシーン、なんかよくわからない装飾の王女、海賊ギルドとの抗争に巻き込まれててんやわんや、「古い」と切り捨ててしまうのは簡単ですが、そこにあるパワーをぜひ楽しんでもらいたいです。現在は2巻まで発売されています。
No.04『宇宙人ムームー』(少年画報社)
著者:宮下裕樹
公式紹介文:
内戦で母星の科学者を全滅させ、バカのみが生き残ってしまった宇宙人のムームーたち。
彼らが遺した高度なテクノロジーを理解するため、文明レベルの低い地球に潜入し、技術の全てが詰め込まれた『家電』を通じて、一から勉強し直そうと試みるが?
潜入先として選ばれた女子大生・桜子の波乱のキャンパスライフ開始!!
オススメ度:9/10
評価ポイント
・猫と学べる家電豆知識
・リアリティのある大学生活と、ぶっ飛んだSF感とキャラクターの混沌が愉快
・漫画らしい書き方とリアルな書き方が調和していてとても素敵な画風
作中冒頭で猫の見た目の宇宙人ムームーが「惑星間航行できる宇宙人が全員 惑星間航行できる宇宙船を作れるわけじゃないムー!!」と激昴します。このセリフにこの作品の根幹的部分があるような気がします。我々も普段使用している家電の仕組みを意外と知りません誇張した言い方をあえてするのなら、文明が滅びたムームーたちは未来の人間なのかもしれません。そんな暗いバックボーンを持つムームーと引っ込み思案な女子大生の桜子とのドタバタコンビ感もとても良いです。人と上手く交流が出来なかった桜子はムームーの「技術の知識を得る」という目的のために色々な問題に巻き込まれて、否応なしに人と関わっていきます。この2人(?)以外にも個性的なキャラクターは多く、群像劇としても楽しめます。
まとめ
ジャケ買い新作マンガの紹介は以上になります。個人的には、選んでる時間も含めてとても楽しかったです。ここまで読んでくださった皆様にも気軽にやってみてほしいです。
マンガのジャケ買いをする場合には書店の規模が大きすぎても小さすぎても大変かもしれません。確かに店舗規模が大きいほうがニッチな出版社の漫画まで網羅しているうえに、在庫も置いてある可能性が高いのでこういった試みをする場合には適しているように思えますが、「掘り出し物を見つけるぞ」という気持ちで探すにはぐるぐると歩き回り、隅から隅まで見回さなければならないので、結構疲れます。小さすぎると単純に大手の最新作しか置いていない場合が多いので、発掘の楽しさは薄れてしまうと思います。
マンガ業界を盛り上げる!ということもほんの少しだけありますが、単純にいつも読んでいる雑誌・いつも読んでいる作者の枠を超えて自分の審美眼で漫画を探すのはとても楽しいのでおススメです。
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