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【映画感想文】ヴァチカンのエクソシスト

えー、悪魔が登場する映画と言えば、『エクソシスト』から『コンスタンティン』(または『エンゼル・ハート』とか、または『コクソン』とか)まで幅広くいろいろありますが、そのメインストリームに位置するであろう最新悪魔祓い映画『ヴァチカンのエクソシスト』の感想です。

まずは何と言っても実話ベースですよね。主演のラッセル・クロウが演じているのは実在の祓魔師(ふつまし):エクソシストで、ローマ教皇直々に任命された主席祓魔師:チーフ・エクソシスト(つまり、ものすごくエリートで誰もが認める実力派ってことです。)のガブリエーレ・アモルト神父なんです。で、そのアモルト神父が自らのエクソシスト遍歴を語った『エクソシストは語る』という本があるんですけど、それが原作ということもあり、悪魔祓いの仕方なんかはじつにリアルに描かれるんですね。これ、なんでリアルだなと思ったかというとですね。2011年に公開されたアンソニー・ホプキンス主演の『ザ・ライト』って映画があるんですけど、これも実話を元にした悪魔祓いの話で。この映画で描かれる祓い方とほとんど同じなんです(見比べると面白いです。)。

で、『ザ・ライト』の方はそのリアルさっていうのを映画の主軸に置いているので(要するに1973年公開のウィリアム・フリードキン監督『エクソシスト』とは違う方向性で悪魔祓いを描こうってことだと思うんですよ。こういう気概はとても好きです。)リアリティは感じるんですが、いかんせん地味なんです。そして、圧倒的に悪魔のキャラが弱い(まぁ、リアルに描くってそういうことなんですよ。『ヴァチカンのエクソシスト』でもネタにされてるように、悪魔に憑かれたひとの首が一回転したり緑のゲロ吐いたりはしないわけです。このパターンで怖かったのは、悪魔憑きかどうかを裁判で争った実話を映画化した『エミリー・ローズ』ですよね。最終的に悪魔が存在するのかが分からないままというのが怖い映画でした。)。だから、『ザ・ライト』に対する不満があるとすればそこだったんですけど、今回の『ヴァチカンのエクソシスト』、そこら辺めちゃくちゃ絶妙にやってると思うんですよね。

まず、冒頭、アモルト神父が悪魔に憑かれたという青年の悪魔祓いをしに行くんですけど、これも映画なんかでは見たことのある、悪魔を煽って他のもの(今回は豚)に憑依させて、それを封印するというやり方を見せられるんです。冒頭の掴みとしてはバッチリで、テンポもいいし、これこれこういうのが観たかったのよっていうのを見せてくれるんですが、以外とあっさりしてるし、憑依した豚を撃ち殺すことで悪魔そのものを退治したことになるのか?っていう、ちょっとした疑問は残るんですが、まぁ、その流れでタイトルが出てテンションが上がったまま次のシーンに行くのでさほど気にはならないんです(こういうリアリティラインの作品なのねっていう線引きとしてのシーンなのかなって感じで。)。そしたら次のシーンで、教会のお偉いさんたちにアモルト神父が尋問されてるんです。どうやら先ほどのシーンの悪魔祓いはヴァチカンの許可なしに行ってたらしく(悪魔祓いにはヴァチカンの許可が必要なんです。)、そのことに対してお叱りを受けてるんですが、そこでアモルト神父が、さっきのシーンで行われてたことは悪魔祓いではないと言うんです。なぜなら、悪魔憑きとされていた青年は単なる精神疾患で自分が悪魔に憑かれていると思い込んでいただけだと。それをもう悪魔は祓われましたよという芝居を打つことで気持ちを浄化してやっただけだと。だから悪魔祓いをしたわけではないと。実際に悪魔憑きだと呼ばれて行ってもその98%は精神疾患によるものだと。更に文句があるなら自分の直属の上司のローマ教皇に文句言えと言うんですよ。ね、この序盤の流れだけでもエンタメ(エクソシスト映画でありそうな悪魔祓いシーン)とリアリティ(それが芝居だった。そして、その後の組織的やり取り)の両方を見せておいて、更にアモルト神父のアウトローなキャラクター性と、「じゃあ、残りの2%は?!」っていうこの後のストーリーに期待を持たせる展開まで行くわけですよ。見てて気持ちいい。これはもしかしてテンション上げて観ていいやつなんじゃ?ってなるんですよ。

で、その後は、その"残りの2%"っていうリアリティを担保しながら、身体の大きなアモルト神父(ラッセル・クロウ)がスクーターで移動するみたいな愛すべきシーンとエクソシスト映画的悪魔表現の2本柱で突き進んで行くんですけど、もう、ラストバトル辺りになるとですね、ちゃんと対話しようとしてる悪魔に対して話聞かないで適当にいなそうとしてるアモルト神父の方がヤバイやつに思えてきて、悪魔のヴィランとしての魅力が上がっていってですね(つまり、アモルト神父の方が悪魔よりも一枚上手ってことなんですけど。しかも、ヴァチカンの悪事が今回のそもそもの悪魔憑きの原因になっているので、ヴァチカン→アモルト神父→悪魔っていうホラーではなかなかない重層的な構造になっていくんですよね。悪魔ってちゃんと対話してくれるし、哲学的だし、やられるときはちゃんとやられてくれて最高のヴィランだなと。)。それに対して"神のご加護を"とか"信じる者は救われる"とかじゃない、頼まれたら仕事としてきっちりこなすよ的なアモルト神父のスタンスが、これまた気持ち良くて(アクションとドラマのバランスがなんか見たことある感じだなと思ってたんですけど、プロレスっぽいと思っていたんですけど、この映画のプロデューサーのIt's Katzさんが日本のプロレス好きらしく。その辺関係あるんでしょうか。)。これ、面白いけど実話ベースだって言ってるものをここまでゲスエンタメ(いうなれば『闇金ウシジマくん』的なゲスさをエンタメ化したものです。)にしていいんだろうかって思ってたら、きっちりヴァチカンから怒られてるってことでそこも含めて最高でした。





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【映画感想】とまどいと偏見 / カシマエスヒロ
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