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【映画感想文】トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦

九龍城砦を舞台に新旧香港アクションスターがぶつかり合う『トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦』の感想です。

いやー、楽しい楽しい楽しいと、ほんとに始まってから終わりまでずっと楽しい映画でした。まず、九龍城というのが舞台として完璧じゃないですか(子供の頃、どんな歴史があるかも知らずに、この九龍城と軍艦島は2大憧れの場所でした。)。もちろん、舞台設定としてはこれ以上ないほど魅力的な場所なんですけど、それ故にひとつ間違えたらまったく共感を得られないという恐ろしさもありますよね。それをこの映画は完璧にこなしてる。そこがまず凄いですよ(子供ながらに感じていた九龍城の成り立ちの歴史からくる闇の部分や猥雑さ、そういうものを含んだ迷宮的で夢=SFのような場所。それの具現化を見せてくれてます。)。そして、そこに集う個性的なキャラクター達。それがブルース・リーから始まり綿々と受け継がれる香港アクションの最新版を見せてくれるっていうんですから、それはもうそれだけで最高ではあるんです。

九龍城砦が憧れの場所だったように、70年代後期から80年代の香港映画は10代の僕にとってハリウッド作品とはまたちょっと違った夢を観させてくれるものでした。ジャッキー・チェン映画やMr.Booシリーズから得られる雑然としたポジティブさとエネルギーにハリウッド映画に対する憧れとは少し違う親密さを感じていたんです。しかし、90年代に入るとその熱は平熱となり、97年に香港が中国に変換されると、その熱はハリウッド映画や中国映画に散り散りとなり、片鱗を残しながらも映画館ではほとんど見られなくなってしまいました(ジョン・ウーやウォン・カーウァイなど90年代以降も活躍する監督はいましたが、80年代までのそれとは異なり、シリアスな方向へと変わっていました。)。つまり、香港がイギリスから中国に返還されたことによって、香港映画という独立したブランドが消滅したという印象だったんです。

だから、まさかそれから30年以上が過ぎた2025年に、これほどまでに雑然としてエネルギッシュでポジティブな、正しくあの頃の香港映画以外のナニモノでもない映画を観られるとは思ってもいませんでした。しかも、その熱やマインドはそのままにアップデートするところはして、ちゃんと外向きの開かれた作品になっているんですよね。例えば、アクションと言えば香港映画という時代があったにも関わらず、今回のアクション監督はドニー・イェン作品や『るろうに剣心』などでアクション指導をしている日本人の谷垣健治さんが担当している(音楽も日本人の川井憲次さんですね。)。良いものは良いと、ちゃんと外から受け入れる開かれた感覚があって、それが作品自体のアップデートにもなっているんです。九龍城砦の治安の酷さを描いた、売春宿で働く女性が客の男に殴られて殺されてしまうというシーン。九龍城砦はそういう場所だという老主に対して、普段は全面的に信頼し従っている若者たちが自分たちの考えに従って行動し、暴力を振るった男に復讐をする。これまでの生活や社会状況の中で否応なく従わなくてはならなくなったしきたりみたいなものに対して、若い世代がNOと言う。そういうシーンがちゃんと描かれるんです(しかも、それが少しづつ立場の違う4人の若者が結束するというストーリー上も重要なプロットになっているのが素晴らしいんですよね。)。

つまり、九龍城砦を中心にして、映画のストーリーと香港映画の(新旧スター共演によって描かれる)世代交代とそこから受け継がれるべきもの。そして、香港という街そのものの(80年代にあった九龍城砦が今はもうないという視点で描く)歴史(映画ラストのセリフでこの3つが重なるのも凄くいいんです。)までが絡み合ってアクションというジャンル映画の荒唐無稽な世界を彩っていくんです。とにかくこの乱雑としたエネルギー、地の底から湧き上がってくるカオスなパワー。『ビーキーパー』を観た時も感じたんですが、悪の中の善の心とか、理屈じゃない人と人の繋がりとか、感動的な程のカッコ良さって、もはやジャンル映画じゃないと描けないんじゃないかと思わされるくらいの傑作ではありました。とにかく全面的に面白かったです(自分が、『RRR』が流行った時にいまいち乗り切れなかったのは、かつての香港映画のこの熱量を知ってたからじゃないかなと、この映画を観て思いました。)。


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【映画感想】とまどいと偏見 / カシマエスヒロ
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