【映画感想文】悪魔と夜ふかし
1977年、ハロウィンの日の深夜に放送されたテレビ番組で悪魔憑きの少女を紹介したところ放送事故クラスの大惨事に…というビデオが発見されたよというファウンドフッテージ系モキュメンタリー・ホラー『悪魔と夜ふかし』の感想です。
えー、ということでオーストラリアのホラーです。僕は1970年生まれなので、ちょうどこの頃のオカルト・ブームの熱さを知っているんですけど、確かに日本でもユリ・ゲラーが来日してスプーン曲げたり、ノストラダムスの1999年世界滅亡説があったり、UFO特集がやたらあったり、お昼のワイドショー内で心霊系再現ドラマをやる『あなたの知らない世界』があったりね(冝保愛子さんの心霊番組はこれよりもうちょっとあと、80年代に入ってからでしたね。)。まだ、ホラー映画をひとりで観に行ける年齢でもなかった僕には、オカルトといえばテレビだったんですよね(あとは、楳図かずお先生や日野日出志先生なんかのホラー漫画ですね。)。
で、正しく11PMなんかの深夜番組でもこの手の特集をやっていたので、当時放送された番組の中にほんとうに悪魔が登場した回があって、その封印されたテープを再構成して映画として公開しますというのは(現状、これまでに一度も出て来てないのだからないことだとは分かっていながらも)、全くありえなくはないよね!っていう。なんていいますか、「うわっ、おもろ!」の中の3%くらいは本気で信じたいっていう気持ちのアガり方があって、この時点で映画の企画としては勝ちですよね。絶対観たいものそんなの。
だから、あとは映画内のディテールをどこまでほんとっぽくやれてるかってことなんですけど。まず、この映画ってドキュメンタリーともモキュメンタリーとも銘打ってないんですよね。だからといって完全にフィクションとしてホラー映画然として撮ってるわけでもなくて。これって、ホラーのサブジャンルとしてのモキュメンタリーとかP.O.Vとかファウンド・フッテージみたいのがだいぶ浸透してきたから出来てることだと思うんですけど。つまり、P.O.Vとかファウンドフッテージとかってなった場合に、あ、フィクションなのねというのがまずあって、そこを折り込んだ上で、実際にあったことだと思いながら観るというリテラシーが出来てきているんですよね。で、そこをベースにそこからどんな場所へ連れてってくれるのかっていうのがこの手の映画の見方であり、面白さだと思うんです。
でですね、これは、1977年の深夜に放送されたテレビ番組に本物の悪魔が映っているビデオがあってそれを公開しますと(ファンドフッテージですね。)。で、それをそのまま公開するのではなくて、テープの封印を解いて検証するドキュメンタリー(モキュメンタリーってことですけどね。)として作られた映画ってことになっているんですけど、このレイヤーが何層かになっているというのが面白さのひとつだと思うんですよ。封印されてたテープが見つかったっていうファウンド・フッテージの上にそれを検証するドキュメンタリーという層が乗ると、そのひとつ下の階層がほんとっぽくなるというか。映画=作りものっていうのをホラーというジャンルではなく検証ドキュメンタリーとすることで、その中で扱っているモノは本物だという"テイ"で観て下さいというお約束になるわけじゃないですか。しかも、その元になるものが、そもそも胡散臭さには定評のあるテレビという媒体で扱われてたモノ(更に70年代という今からすると何でもありだった時代)というのも、逆説的に「ほんとかもしれない!」っていう0.1%くらいのリアリティに繋がってると思うんです。で、この"信頼出来ない語り手”であるテレビという媒体の特性を活かしまくって作られたホラーなのか何なのかもよく分からない映像作品最近観たなと思っていたんですけど、2022年の年末にテレビ東京で放送された『このテープもってないですか?』が正しくこれでしたよね。
実際、『このテープもってないですか?』と『悪魔と夜ふかし』は構造的に、一昔前に流行したものを今の視点で見返すとか、それぞれの番組が放送されていた時代の風俗に擦り合わせることでリアリティを担保してるとかよく似てるんですけど、ただ、圧倒的に違うのは、受動的に見せられてしまうテレビと、能動的に観に行くことになる映画っていう媒体の違いだと思うんです。ここはだから、本来は誰がどう観るのか分からないので、常識の範囲内のものしか流せないはずのテレビの(こういったものを放送するにはある意味)弱点とも言える部分を逆手に取って、何の説明もなく突然狂気を垂れ流しにした『このテープもってないですか?』の方にホラーな映像を見せるという意味では利があるんですけど、『悪魔と夜ふかし』の場合は、そこを検証ドキュメンタリーという形にして、番組が悪魔憑きの少女を紹介するというちょっとぶっ飛んだ内容(しかし、70年代のリテラシーならあり得るかもなと思えるギリのライン)に至る経緯を描いたんですね。ここは賛否別れるとは思うんですけど、個人的にはキャラクターのバックボーンとか分かって感情移入出来るし映画としては有りだったと思うんですよね(司会のデヴィッド・ダストマルチャン演じるジャック・デルロイに興味も湧きましたし。)。ただ(これも個人的にですけど)、CM中のスタジオのワタワタを描くところはもっとリアルでも良かったんじゃないかなと思います。司会のジャックとプロデューサーの会話は音声だけで残ってたとか。もっとリアルに描けてた方が好みだったかなと。
で、どちらも最終的にはジャンルとか物語とかいろんな構造を超えてカオス化していくんですけど、発見されたビデオ内にある呪いが視聴者側である現在のスタジオに浸食してくるという理由は分からないけど恐怖がこちらに向かってくるという頭のおかしくなるような怖さが頂点に達したところで放り投げられたように終わる『このテープもってないですか?』に比べて、こちらは自分たちで作った設定もストーリーも世界そのものも無視して、地獄に異世界転生してしまったような、それ自体が70sサイケ・ドラッグ・B級ムービーと化していて、それはそれで割と好みではありました。