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【映画感想文】ノック 終末の訪問者

えー、僕はどちらかといえばシャマラニストと言われるシャマラン監督作品好き派の人間なんですが(全てが良いというわけではないですが、シャマラン的映画の楽しみ方に共感出来る側の人間です。)、その立場から観ても今回の映画はいつものシャマラン映画とは違うなと思いました(それゆえにシャマラン濃度が高いとも言えるのでやっかいなんですけどね。シャマラン映画は。)が、ある意味、いつものシャマラン的作劇法から一歩先に行った作品なんではないかなと思っています。ということでM・ナイト・シャマラン監督最新作『ノック 終末の訪問者』の感想です。

今作(というかシャマラン作品は割と毎作)結構な賛否両論(僕が見た限りでは今回は否の方が多いですかね。)ということなんですが、個人的には凄く良かったんですよね。シャマラン映画にみんなが期待するホラー的展開もどんでん返しもありませんでしたけど、とても優しい映画だと思いました。

ではまず、簡単にストーリーを説明します。ゲイカップルのアンドリューとエリックには東洋系の養女のウェンがいて、仲良し3人家族で休日を山小屋で過ごしているんです。そうすると、そこへ4人の男女がやって来るんですね。彼らは手に斧やハンマーのような形の武器を持っていて、訪問を拒否されるとドアをぶち壊して入って来るんです。で、「君達は選ばれた。君達家族の中の誰かひとりを犠牲として差し出せ。」って言うんです。もちろんアンドリューたちは拒否するんですけど、家族の中の誰かを殺さないと代わりに世界が破滅するって言うんです。しかも、犠牲者を選ぶのは他人ではダメで、その選ばれた犠牲者を残った家族が殺さなくてはダメだって言うんです。さぁ、家族のひとりを殺すか世界全人類を殺すか選びなさいと。あの、これ、当の家族に聞いてるんでね。どっちか選べって言われたらそりゃ家族を取るんですよ。他人の命と家族の命だったら誰だって家族ですよ。で、この映画そこのところはずっとそうなんです(映画とかドラマであるような正義の為に愛するひとを犠牲にみたいな事態にはならないんです。)。だから、設定はいつものシャマラン的でぶっ飛んでるんですけど、そこでする選択というのは凄く現実的なんです。で、そこが揺るがないとしてどうストーリーが進んで行くのかというと、その揺るがない考えをどうやって変えさせるのかってとこなんですよね。

そこで、まず面白かったのは、来訪者である4人がちゃんとした倫理観を持ってるというところ。その倫理的である人たちにも守るべきもの(つまり、アンドリューたち家族に犠牲になってくれというだけの理由)があって、そういう人たちが理不尽なことを言うのが、倫理観の薄いいわゆる悪人に詰められるよりも断然怖いってところなんです。倫理的で社会性もあって話も通じる。こういう人達に考えられないような理不尽なこと言われるって。でも、これ、現代社会では全然あることなんですよね。これだけネットが普及した社会では、例えカルト宗教にハマってるわけじゃなくても、陰謀論とか終末論とか信じてる人はぜんぜんいるわけで。そういう真面目で(ある意味)親切な人が、それを知らずにのほほんと暮らしている人たちに<真実>を教えてあげようとするのはよく聞く話です。で、一方で、マイノリティと言われる人たちが<社会常識>という古い価値観を盾に人生において理不尽な選択を迫られるという話もよく聞くわけで。だから、このありえないような理不尽で壮大な黙示録はいま正にこの現実の世界で起こっていることというわけなんです。で、そういう世界の縮図みたいなのを舞台として、その中で主人公が自分の使命に気付くというのがいつものシャマラン映画なんですけど、今回はそれを逆にやってるような気がするんです。

つまり、やるべきことはもう決まっていて、そういう世界にするには何をどう選択すれば良いのか。そこがブレずに最後まであるから、今回の映画はどんでん返しがないんだと思うんです。だって、主人公家族が下す決断はとてつもなく現実的で個人的なので(割とアンドリューの方がブレずに自分の意思を貫いていてエリックの方が流されてると思われてるようですが、これも逆だと思います。ずっと物事の推移を俯瞰で見てたエリックは最後の最後で自分の思う未来の為の選択をしたんだと思うんです。)。

ということで、いつになく謎が謎のまま放り投げられてる様に見えるのは、観た人に考えて欲しいからで。これまでなんだかんだ世界は楽しいところだと(特に子供に対して)言ってきた(ただ、これも前作の『OLD』くらいからちょっと違う感じになってたと思うんですよね。それが今作のテーマ性に繋がっているんではないでしょうか。)シャマランからの現在を生きる大人たちへのメッセージだと思うんです。黙示録に描かれてたようなことが現実に起こってしまっているこの世界で未来(の子供たち)に対して大人が出来ることは何なのか。それをフラットな視点で見極めて欲しいという。

(と、なかなかシリアスな内容ですが、もちろん今作もシャマラン監督登場します。そして、ウェン役の少女とデイブ・バウティスタがめっちゃかわいい映画です。)


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