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【映画感想文】デッドストリーム

2022年SXSWの観客賞を獲ったアメリカ発のホラー映画。呪われた廃墟に迷惑系ユーチューバーが一泊するのをP.O.Vで。といういかにもなB級ホラー作品ですが、なぜか惹かれて観に行って来ました。『デッドストリーム』の感想です。

はい、結果、惹かれて観に行って良かったです。とにかく、なんと言うんでしょうか。怖いのは怖いんですが、それにも増して、こう、映画を(ていうか、B級映画を)作る幸せに溢れてるんですよね。この映画。上映前に監督脚本を共同でやっているヴァネッサ&ジョゼフ・ウィンター夫妻の挨拶映像みたいのが流れたんですけど、映画の紹介をしていたのが段々とホラー・コントになっていって最後はふたりともモンスターに襲われた(風)になって終わって行くんですけど。もう、これ、これが全てというと言い過ぎかもしれませんが、この挨拶映像から感じる、仲間とわちゃわちゃしながら好きなホラー映画撮れるなんて最高じゃん。という感じが本編にも溢れまくっているんですよ。

で、こうやって書くと、じゃあ、あれか素人のまぐれ当たりかとか、クオリティーが低いだけの物をアマチュアリズムと言ってるだけだろとか思う人いると思うんですけど、僕もB級ホラーなんて腐るほど観てますからね。それだけだったらこんなふうに書きません。仲間とわちゃわちゃだけじゃ終わらない、そのわちゃわちゃに観客である僕らもちゃんと巻き込んで楽しませてくれるだけの”引き”と驚きがあるんです。大体ですね、ホラー映画っていうものの良さのひとつがこの"ただ好きなものを好きな様に撮れるという自由さ(斬新さと主張の強さとも言いますね。)"と参入のハードルの低さだと思うんですよ。で、そういう意味では確かに、『悪魔のいけにえ』とか『死霊のはらわた』もそういう出方をしてきたわけだし。この映画にもそれに通じるものがあると思うんです。

もちろん、迷惑系ユーチューバーみたいな時代のハミ出し者を主人公にして、それを何の罪悪感もなく酷い目に合わせるなんていうのは昔からあるホラー映画の常套手段なわけですが、ここ、ちょっと違うのがこの映画の主人公のショーンてビビりなんですよ。ビビって叫びまくるんです。通常、迷惑系ってイキってるのがムカつくところじゃないですか。(これは僕個人の意見ではなくて、世間一般ではそう思われてんじゃないかなぁということで書きますが、)バカがイキってるのがムカつくわけですよね。で、そのイキリバカを酷い目に合わせるからスッキリするわけです。それがこの映画ではイキらせないでビビらせるんです。そうするとどうなるかというとですね。バカがビビってるのはカワイイんですよ。ね。で、ホラー映画でかつてそういうキャラクターいたな~って思っていたら、『死霊のはらわた』でブルース・キャンベルが演じてた主人公のアッシュ。この人がまさにこれでしょ?怯えて叫んでる姿がとてもチャーミング。この映画の主人公のショーンも正にそれなんです(他にも80年代的なチープなSFXだったり、『死霊のはらわた』では死霊目線のカメラとして使っていたシェイキーカムみたいな臨場感のある映像を、今回は配信用に各所に設置された小型カメラの映像が担ってたり、あとは何といってもビビリのショーンが死霊たちに立ち向かって行くことになるってとこなど、『死霊のはらわた』リスペクトな箇所はいくつもあるんですが、個人的には最もはこれだと思います。)。

で、現代社会を象徴するユーチューバーとかP.O.Vみたいなものと、呪いの家とか『死霊のはらわた』が象徴するかつてのホラー映画的なものが一緒くたになって、それを"ホラー映画大好き"っていう愛で包み焼きにしてるのがこの映画の面白さというか魅了でして、それだけでもB級ホラーとしては成立していると思うんですけど、そこにもうひと隠し味として(これがあるからこの映画は単なるホラーマニアのまぐれ当たりではないと思うんですが。)、80sホラー味のあるクリーチャーの存在というのがあるんです。いやぁ、まぁまぁ楽しんで観てたんですよ。ビビリユーチューバーが叫びまくるのを(ユーチューブの配信画面というのも日常的に馴染みがあるので没入感もありますしね。)。ただここに、デザインのエグさとか、質感とか、照明の当たり具合とか、怖さとか、そういうのが相まったいい塩梅の、そう、これこれ、これだよっていうSFX的クリーチャーが登場するんですけど、このクリーチャーのビジュアルが秀逸で。いわゆるモキュメンタリー・ホラーに登場するような、心霊写真なんかに映り込む感じの幽霊的なビジュアルでも、悪魔的なビジュアルでもないんです。もっと実存感があるというか、『オオカミの家』なんかに通じるような実際の物質としての存在感と、それがメタモルフォーゼしていく禍々しさがあるんです。つまり、ここまでB級ホラーとして、その枠内で展開されていた設定に急に不条理の恐怖が足されたようになるんですよ。これが個人的にむちゃくちゃ良かったんですよね。楽しいだけじゃない、ホラー映画に対する狂気的な執着みたいなものをこれで感じたんです。

あ、あと、もうひとつ重要なこと。この映画、P.O.Vに加えてファウンド・フッテージ物なんですよ。つまり、この映像あとから第三者によって発見されたものなんですよね。では、あの愛すべきショーンはいま…(ぶっちゃけこの設定いるか?!と思ったんですけど、ホラー映画としてちゃんと怖いもの作ろうとしてんだっていう気概と言いますかね。この辺にもホラーへの愛というか教示を感じましたね。)。

というわけで、別にホラー映画好きじゃない人にはオススメしませんが、好きな人は一見の価値はあるんじゃないかなと思います。


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