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【映画感想】ライトハウス
はい、えー、A24らしい不穏感に、更に、視覚、聴覚、触覚などのあらゆる表現で不快感を示してくる不快感映画の最新版『ライトハウス』の感想です。
まず、映画始まってすぐ気づくのはその閉塞感で。画面のアスペクト比がほぼ正方形なので左右に全く逃げ場がない上に、モノクロでベタっと張り付いたような絵は奥行きも感じられない(要するにこれは物語の舞台になる灯台の中にいる閉塞感だと思うんですけど、この閉塞感が灯台の最上部にあるライトをより神々しいものにしているんですよね。僕はまずこれにやられてしまって、カメラが上に向かうとだいぶ救われた気分になりました。)。更に海を渡航する船の警笛と、(あれは何でしょう?)灯台のライトを動かす機械の音でしょうか。日常ではまず聞かない様な不快なノイズが大音量で定期的に鳴っていて、絶海の孤島の灯台守がいかにヤバイ仕事かってことをしょっぱなから思い知らされるんですが、まぁ、楽しいことだろうが不快なことだろうがそれを擬似体感出来るのが映画の面白さなわけで。しかも、個人的にはこの不快感を楽しむというのが出来るタイプというか。自分自身がそういうシチュエーションに置かれたら狂ってしまうだろうなということをギリ狂わない程度に体感出来るのはお得だなと思うんです(つまり、僕にとってはこの手のホラーとかサイコサスペンスなんかはある種のアトラクション的面白さがあるのです。)。で、そういう意味では、主人公の若い灯台守ウィンズロー(ロバート・パティンソン)の精神が病んでいくごとに狭い部屋が汚れていくのとか、嵐や海水などの自然の脅威から唯一隔ててくれていた灯台の宿舎の中に雨や泥が浸食して来て、生活の中から人間らしさが失われていく感じとか、近年観た中では、その汚部屋の不快さにおいて群を抜いていた『屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ』並みに良かったんですが、この映画そういう外的な不快さにプラスして人間の内的な嫌さの描き方が面白いんですよ。
あの、基本的にはその若い灯台守のウィンズローが、隔絶された空間と、そこで一緒に過ごさなきゃいけなくなる老灯台守のウェイク(ウィレム・デフォー)のパワハラにより精神を病んでいくって話なんですけど、これが、どこまでが現実でどこからがウィンズローによる妄想なのかっていうのが分からない様になっていてですね。デヴィッド・リンチ的と言いますか、『イレイザー・ヘッド』とか『マルホランド・ドライブ』を思い出すんですけど、舞台と時代設定に現実感が乏しいので神話っぽくも見えてくるんですね。で、それを観客にこれは自分たちの生活と地続きなものなんだと感じさせるのが部屋の汚れやウェイクのパワハラみたいな"嫌な感覚"で。『神々のたそがれ』とか去年観た『異端の鳥』の様な不快なファンタジー的な感じもあるんです。
あ、だから、そう言ったら『ミステリー・ゾーン』のエグい回ばかり集めたみたいな不穏なホラーだった『スケアリーストーリーズ 怖い本』とか、最近のJホラー(白石晃士監督作)なんかにも近い不気味さがあるんですけど、そういう恐怖とか不穏さなんかを哲学的に読み取って行く様な話になっていくんですよね。つまり、主人公が感じた恐怖を霊現象とかサイコパスとかに代入して一応の答えを提示してスッキリさせるのがホラーだとするなら、この映画はそこの答えを提示してくれないんです。だから、観終わった時の感覚は怖さよりも、その恐怖を感じていた根源のところに何もなかったというか、「あ、そうなんだ…。」っていう突き放された様な感覚だけが残るんです。なんか、こういう本質をズバッと突くことがないような、そういう印象ばかりでよく分かってなかった映画で後々凄い好きになった映画あったなと思ったんですけど、閉塞した空間の中で、嵐が来ることにより主人公たちの狂気と暴力性が露わになり、恐怖や不穏さというよりも哲学的な謎を残す終わり方って『台風クラブ』じゃんと思ったんですよね。特に暴力性のところなんかは、未知なる存在への恐怖(カモメ)、妄想のような性衝動(人魚)、父親への不信感(ウェイクの存在)と、なかなかに『台風クラブ』だなと思ったんですけど、まぁ、どちらも自由を束縛された人間の狂気というのをテーマにした映画なので、そこの本質のところを描けてるってことなのかなと思いました(人間の狂気と暴力性を大人と子供で描き分けると、大人の場合こんなに醜いのかとは思いましたけど。あと、現実世界との境界線を超えるのに大人の場合は酒の力というのは必須なんだなとも。)。
で、なるほど、こうやってモヤモヤしながら観る映画なんだなと思ってたら、エンドロールでズバッと本質を突く情報が出て来まして。これ、実話を元にしてるんですね。つまり、こういう事件があったってことをそれがどういう経緯でどういう精神状態でそこに行き着いたのかというのを想像する映画なんですよ。それを不穏さや妄想多めで想像してみたっていう。現実に起こったこととそれを現実ならざるものにしていることの分量が、なんか、都市伝説的だなと。そういうユーモアがあるというか。そう考えたらめちゃくちゃ腑に落ちて、凄く愛おしい映画になりました。
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