【映画感想文】ツイスターズ
夏風邪をこじらせて声帯をぶっ壊してしまいしばらく声が出せない状態だということは、PODCAST映画雑談のXではお知らせしましたが、声が出せないだけで観ることは出来ますので(しかし、この時期というのは生業としているライブハウスの仕事も忙しくなるわ、今年から保育園から幼稚園に変わり夏休みというものが出現した娘の相手もしなきゃだわ、今年亡くなった父親の初盆はあるわで通常よりも私生活が忙しくなかなか数は観れてないのですが。)、こちらで書いておこうかなと。まずは夏=台風ということで、『ジュラシック・ワールド』の制作陣が作った台風アトラクション・ディザスター・ムービー『ツイスターズ』の感想です。
えー、で、今作、1996年に公開された『ツイスター』の続編で、当時観てるはずなんですが、これが全く(牛が竜巻に巻かれて飛んでったなということくらいしか)覚えてない(しかし、なんとなく面白かったという記憶が…。「ああ、面白かった」で詳細は忘れてしまうというのはこの手の映画の良いところでもあると思うんです。)。ので、まぁ、前作観てなくても全然大丈夫(というか、特に前作と関連のあるキャラクターなんかは出て来てないと思います。)ではないかなと思います。というか、竜巻vs人類という前提で言えば、ほぼ同じ話と言っても過言ではないのかも。
なので、前作とここが違うとか前作はこう描いてたなどということは吹っ飛ばしまして、今作のみの印象で言えば、アトラクション映画として最高に面白かったです(映画のアトラクション化がこういうことであれば、これはこれで良いのではないかと。今回は牛は飛んでませんが。)。『ジュラシック・ワールド』の制作陣ということで、簡単に言えば恐竜を竜巻に置き換えているわけですが、これ、やっぱりホラーだと思うんですよ(スピルバーグが関わってるものは大概ホラー要素あると思うんですけど、今回もアンブリンのロゴが出たところで「ああ、そういう映画ね。」と納得するところがありました。)。例えば、心霊モノやスラッシャーモノの幽霊とか殺人鬼を、『ジョーズ』でサメに置き換えましたけど。これって、幽霊や殺人鬼と違い人間の思考外にいるものということですよね(幽霊ももともと人間なので)。ここが怖かったと思うんです(幽霊は大概恨みや怨念というふうに利害関係がはっきりしてますよね。殺人鬼も同じだと思うんですけど、これが無差別殺人やサイコパスになると怖さが増していくわけです。)。で、それを今度は恐竜という(現在は)実在しないものにしました。そうすると、なに考えてるのか分からない度のタガが外れて恐怖というよりは脅威。生物として圧倒的なものを体験するというアトラクション性が上がると思うんです。で、今回はその恐竜よりも更に何考えてるか分からない、というか、もう、絶対に何も考えてるわけがない存在としての竜巻なわけで。つまり、敵役になんの思想も思考も利害関係もない。恐竜にはかろうじてあった生物としての共感性もないわけです。竜巻って単なる現象なので。
で、こうなってくると、映画的に見てもはやキャラクターとしては存在してないというか。恐竜の時まではあった畏怖の念さえなくて、ただ逃げるしかないというか。それに立ち向かおうなんていうのは完全に人間側の都合で。更にこの映画の場合、街が破壊されるクラスの巨大竜巻が2~3日の間にバンバン発生するんですよ。これが地球滅亡とかでないのが更にアトラクション化を加速させてると思うんですよ。限定された土地のみにあり得ないことが起こるので。それを目指して科学者やユーチューバーが集まって来てますしね。最早、この土地に住んでる人達はディズニーランドのキャストさんのように見えてくるわけです(だって、そもそも住めないですから。あんなにのべつまくなし巨大台風来てたら。)。だから、あれを思い出したんですよ。ジョーダン・ピール監督の『NOPE』の”ジュピターズ・クレーム”ていう「UFOが来るよ」っていうのを売りにしてたテーマパーク(ここも最高に楽しそうなんですけどね。)。『NOPE』の場合は、そういう、まったく思考とか自意識みたいなものがないと思ってたものがアレッ?ってなっていくのが怖いんですよね。で、そういうのがまったくないのが『ツイスターズ』です。
ただ、そこは今回監督したのが『ミナリ』を撮ったリー・アイザック・チョン監督(そういえば、『ミナリ』の主人公を演じたスティーブ・ユァンは、『NOPE』の”ジュピターズ・クレーム”の経営者ジュープでもありますね。これは、『ツイスターズ』=『NOPE』説あり得るかもしれません…。)だけあって、竜巻に何にもないのなら人間ドラマぶち込んだれってことで、この手のジャンル映画にはちょっとないくらい人間ドラマもりもりです。嫌な奴だと思ってたやつらがじつはいい奴でみたいな(しかも、その理由が社会的な自由さと不自由さだったりしてなかなか深いんですが。)とこの延長で描かれてるんだと思うんですけど、ここまでやったら中途半端な恋愛要素はいらなかったんじゃないかと思うんですよね(これがあることによって80年代のハリウッドっぽさが出てしまって古い感じしちゃうんですよね。)。こういうところもリー監督っぽくないドラマをあえてやってるのかなという感じがするんですよ。だって、リー監督『ミナリ』で台風のシーン描いてますもんね。家族がアメリカに引っ越して来てトレーラーハウスに住んでるところに台風が来るシーン。たぶん、あれがリー監督のリアルな台風の描写で。そう考えると、こっちはジャンル映画として楽しめるギリギリのところまで手を尽くしてるのかなってふうには見えて来るんですよね。そういう意味でエンタメとしていろいろやってくれてることでなんだか歪にはなっているんだけど、まぁ、そこも含めて楽しかったなと思うんです(特に夏に観るには最高です。)。