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【映画感想】『マリグナント 凶暴な悪夢』

何回か前にPODCASTの『映画雑談』の方で取り上げた『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』、ずっと本シリーズの本編を監督していたジェームズ・ワンが監督しなかったことにちょっと残念だなという思いでいたのですが、なるほど、これを撮ってたからなのかと納得しました。『マリグナント 凶暴な悪夢』の感想です。

というわけで『ソウ』シリーズ、『死霊館』シリーズと今や名ホラー監督の一人となったジェームズ・ワンですが、じつはホラー撮るのひさびさなんですよね。2016年の『死霊館 エンフィールド事件』(傑作!)以来、『インシディアス 最後の鍵』も『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』も制作だけ(『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』はストーリー原案も。)で。この間に監督してるのはDCのスーパーヒーローモノの『アクアマン』だけなんです。で、2015年には大ヒットカーアクション映画の『ワイルド・スピード SKY MISSION』も監督してるので、正直、もう、大作しか撮らないのかななんて思ってたんですが、いやぁ、待たせた分たけだいぶヤバイのぶち込んで来ましたね。

いや、まぁ、そういや、気づいたら誰もいない部屋に繋がれていて、なんの説明もなしに拷問を受け続けるという映画を思いついた男ですから元々ヤバいのはそうなんですが、そういうものをちゃんとレーティングを下げたエンターテイメントに出来るところがある意味ジェームズ・ワンのジェームズ・ワンたる所以だったわけです。そこへ来て今回の『マリグナント』18禁です。12Rでも15Rでもなく18禁。やはり、こういうところにやる気を感じます。

で、えー、まず、オープニングですね。『死霊館』と『インシディアス』ですっかり70年代的オカルトのイメージがついていたので、今回もそういうゴシックな感じで行くのかなと思っていたんですけど、オープニングで掛かる曲がちょっとインダストリアルなロックなんですね。これで、あー、今回はオカルトじゃないんだなと。もっと80年代以降のスプラッターの要素入れて来てるんだなって感じるんですけど、更にそこに映る映像もどこかの研究所で秘密裏に行われてたヤバイ人体実験をビデオカメラで収録したものが流出したような、そういう映像のコラージュなんです。ビデオテープ特有のノイズが入るあの映像でまず思い出すのは Jホラーの代名詞とも言える『リング』ですけど、それと同時に80年代とか90年代のあの頃VHSでレンタルして観てたB級ホラーたち(まぁ、というかテレビなんかでは流せないような作品)なんですよね(『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』とか『死霊のはらわた』とか『死霊のしたたり』とか『戦慄の絆』とか『サスペリア』とか『バスケットケース』とか『ブレインデッド』とか。あと個人的には邦画の『ドグラマグラ』も思い出しました。)。

で、そういう「あー、これはちょっとヤバイもの見せられるかな。」と思っていたら割と前半はいつものジェームズ・ワン的な理性的で根源的な暗いとこ怖いとか心霊現象的な怖さで進んで行くんですけど。でも、観て行くとちょっとずつ「あれ、今のヤバイな。」っていうところが出て来るんです。そこまでする意味ある?っていう。その、ある瞬間だけちょっとずつこっちの予想を超えてくるっていうか、ちょっとずつ理性的じゃなくなるというのがですね。いつもの(ある意味安心して観れる良質ホラー監督の)ジェームズ・ワンぽくなくて怖いんですよ。で、この怖さって、正しくパッケージだけ見てレンタルして来たホラー映画が予想とは違う怖さを示して来た時の「うわ、今ヤバイの見てるな…。」っていうあの感覚なんですよね。だから、観てると「あ、そういえばこの人、目覚めたら拷問室に繋がれていたっていうヤバイ映画作った人だった。」とか、「Jホラー的というか、楳図かずお的陰鬱さを感じる監督だった。」とか、これまでのジェームズ・ワンのやってきたこといろいろ思い出すんですけど、その狂気がある地点でびよーんて飛躍するんです。その時に「あ、この人そういえば『ワイルドスピード』と『アクアマン』も撮ってた人だった。」ってなって、その飛躍の仕方が一番狂気で。うわーって興奮しながらも「でも、これは狂ってるよな。」と。ジェームズ・ワンに「俺の本質はこっちだから。」って改めて宣言されて、あ、いや、そうだよね。すいませんって感じになると言いますかね。

あの、根本にはダリオ・アルジェントとかルチオ・フルチなんかのイタリアン・ホラー的陰鬱さがあって("ジャッロ"というらしいですね。イタリアン・ホラーのこの手のジャンル。僕はこれで知りました。)、それだけでも異常なのに、それに80年代のスプラッター(というか人体改造的恐怖。)も入れて、更にジェームズ・ワンがホラー以外で培ってきたアクションとかエンタメ性(そして、この部分が新たなホラーアイコンを産んでるっていうのも良かったです。かなりエグイキャラクターなんですけど、ジェイソンとかマイケル・マイヤーズなんかに通じるかわいさがあるんです。)みたいのもぶち込んでるからそこがとにかく狂気的で。なんていうか、そういうジェームズ・ワンの狂気と暴力性とホラー愛がこの映画を18禁にしてるんだなと思うと、そりゃ面白くて当然だなと思うんです。


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