社会の常識から外れたことも「自分らしさ」と認められますか?
「自分らしさは大事だ」ということは、近年盛んに言われています。多くの方が「自分らしさは大事にしよう」と思いつつ、社会の常識的に良いとされていない自分らしさについては、排除しようとするのではないでしょうか。そこに新たな視点をくれるのが、日本ラグビーフットボール協会理事であり、コーチのコーチとして活躍される中竹竜二さんのお考えです。
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自分らしさを認めることが
一番強い!?
まず「自分らしさ」を見つけるというのは、「心から笑顔になれることを探す」ということです。この意識があれば、自分らしさを見つけて伸ばすことができると思うのです。
「自分らしさ」というのは、まわりの制約を受けずに肩の力が抜けていて、ベストパフォーマンスが出しやすい状態のことです。
逆に、まわりの目を気にして背伸びをしたり、縮こまったりしていれば、それは無駄なエネルギーを使っているわけですから、ベストパフォーマンスなどを望むべくもありません。
ここで、私が「型破りなキャプテンとともに学んだ1年」について、お伝えします。「自分らしさとは?」ということを念頭に置き、読んでみてください。
型破りなキャプテンとともに学んだ1年
私が早稲田の監督に就任して3年目のこと。チームの大きな方針となるその年のスローガンは、「ダイナミック・チャレンジ」でした。
前年度、早稲田は優勝しました。しかし、今度はメンバーが違います。前年度のチームのあり方を見直した私は、新たな挑戦をしない限り、その年の優勝はあり得ないと考えていました。
そこで、「大胆な破壊と創造をしよう!」との思いを込めたスローガンを掲げました。豊田という選手をキャプテンに起用したのもその一環です。
豊田は、1年生からレギュラーとして活躍してきた、とても優秀な選手でした。その一方で、世間が期待する理想のリーダー像とは対極にあると言っても過言ではない選手でもありました。わがままでチームの和を乱すし、勝手なプレーや発言、その行動などで周囲の怒りを買うタイプだったのです。
世間が考えるリーダー像と対極にあるリーダーの誕生
私が彼をキャプテンに推したとき、メディアやOB、ファンからは一斉に、「豊田で大丈夫なのか?」という声が上がりました。しかし、私が掲げたスローガンにはぴったりの選手であり、キャプテンは豊田しかいないと私は考えていました。
もし、保守的なキャプテンを選んだら、そのキャプテンがチャレンジグな戦術を考えて実行しようと言っても、ほかのメンバーが本気にならないだろうと私は思いました。
そういう意味で、豊田の人格はスローガンにぴったりだし、選手たちに「今年は本気でダイナミック・チャレンジをするんだ」という方針を浸透させる効果も期待できました。ですから、まわりが何と言おうと、私の信念が揺らぐことはありませんでした。
豊田には次のように伝えました。
「外野の声を気にすることはないよ。何を言われても『豊田らしくあれ!』だ。キャプテンらしくなんてことは考えなくていい。豊田らしさを貫けば今年は勝てる!」
豊田も私の信念を充分に理解し、既存の枠にとらわれない主将になると誓ってくれたのです。
春のシーズンの最後、フランスの学生代表との交流試合。あろうことか彼は相手選手の頭をスパイクで蹴って、キャプテンながらレッドカードで退場という失態を演じました。相手が審判に見えないところで反則を重ねていて、腹に据えかねたという事情があったにせよ、キャプテンは本来、熱を帯びて一触即発という空気をたしなめる役割を担うものです。それを自ら導火線となったのですから、本当にあり得ないことです。当然大問題になりましたが、私はキャプテンを代えませんでした。
「確かに蹴ったのは悪い。きちんと謝罪と反省はすべきだ。でも、このままキャプテンでいてほしい。そしてこの逆風の中、最後には優勝という形に持っていこう。スタイルも変えるな。おとなしくなるな。お前はお前らしくだよ」
豊田は反省しつつも、彼らしさは失いませんでした。その後も練習試合でレフリーや相手チームの選手に暴言を吐くことがありました。一般的にはキャプテンらしくはありませんでしたが、チームは絶好調で無敗が続いたのです。
スローガンが目的化し、迷走し始めたチーム。
そしてキャプテンの成長!?
ところが、秋のシーズンが始まり、全国大学選手権の予選でもある「関東大学ラグビー対抗戦」で、早稲田は帝京大学に手痛い負けを喫しました。
行き過ぎたダイナミック・チャレンジが、その負けの主たる原因でした。勝利というゴールのためのスローガンにもかかわらず、スローガンが目的化し、ゴールを見失ってしまったのでしょう。
次に活かせばいいのだと、私はすぐに気持ちを切り換えられたのですが、選手たちのショックはそう簡単にはぬぐえませんでした。
なんとあの豊田がチームメイトに、「何か悩みはないか?」、「みんなで話し合おう」と、今まで暴言を吐き続けていた姿からすれば180度の「大変身」をして、なんだか気味が悪いくらいでした。
手痛い1敗を喫して自らの責任を感じた豊田は、自分らしさを捨て、世間がイメージするようなキャプテンらしく振る舞おうとしたのです。もしかしたら、素直な彼の性格が無意識的にそうさせたのかもしれません。
リーダーらしさを身につけ、世間の評価が上がった!
しかし…
この豊田の変貌が招いたもの、それはチームの不調でした。キャプテンらしい振る舞いは、彼から持ち前の闘志を奪い、そのプレーまで変えてしまいました。皮肉なことに、メディアやOB、ファンからの豊田への評価は上がったのですが……。
その後は、その年弱いと言われ続けた明治大学を相手に再び負けを喫し、ついに崖っぷちに立たされました。残すは「全国大学選手権」。これはトーナメント戦で、一度負けたらそのシーズンは終わりというものです。
「中竹さん、僕らしさって何ですか?」
私は豊田のこの言葉を待っていました。「自分らしさとは何か」、その重要性に自ら気づいてほしかったのです。私は彼に自らを「振り返る」ように促しました。
「確かに春や夏のシーズン、僕はひどいキャプテンだった。暴言は吐くし、退場にもなった。でも、チームはほとんど負け知らずで勢いがあった。一方、今の僕はいいキャプテンになろうとしていますが僕らしくはない。そして、チームもどんどん弱くなっている……」
豊田は気づきました。自らの自由奔放なめちゃくちゃぶりがチームの強さを支えていたということに。最初に優勝までのシナリオを描いていた通り、彼が彼であることこそが、チームのダイナミック・チャレンジの象徴だったのです。
彼の顔がパッと明るく変わりました。翌日から何事もなかったように、「暴れん坊のキャプテン」に逆戻りです。これが豊田らしいところでもありました。みんな面食らっていましたが、それでもチームは再び活気を取り戻し始めたのです。暴言を吐き、反則すらするキャプテンを支え、チームをまとめる役割、サインを出す役割など、そもそもキャプテンが担う役割を、ほかの得意な選手が豊田から奪い取りーーーという自律的なチームとして動き出したのです。
この年、対抗戦で2敗を喫しながら、全国大学選手権で優勝するという前代未聞の快挙を成し遂げました。
●●らしく振る舞うことの方がラク!?
シーズンが終わったのち、突然リーダーらしく振る舞うようになった理由を本人に聞いたところ、帝京戦での敗戦後、歴代のキャプテンに電話で話を聞いたり、リーダーシップの本を読んだりして、学んだことを一つひとつ実践したと言うのです。
人は自信をなくしたり、スランプに陥ったりしたときに、自分の役割、その役職らしさに頼ることが多い。そのほうが失敗したときに、「リーダーらしくやった」という、ある意味で納得できる逃げが打てるからです。
つまり、そのほうが「ラク」なのです。逆に言えば、逆境のときに自分らしさを貫くのは本当に大変です。うまくいかなかったときに、それはすべて自分の責任になるのだから。
中竹さんが考えるリーダーの定義は、コチラの記事でも紹介しています。
ーー中略
この話の結論は、「自分らしさに、よいも悪いもない」ということです。
「自分らしく生きる」
このことを本当の意味で、イメージできていますか?
実は、親自身が「こうあるべき」という重い”鎧”を着た状態でいることが多いのではないかと思います。会社の役職に見合ったあるべき姿だとか、いいお母さんだとか、そんな鎧で身を守ってはいないでしょうか。
怖いけど、そんな鎧は脱ぎ捨てないといけない。
「自分らしくいることのほうが強いんだ」
ということを知ってほしいと思います。そして、そんな姿を自らが手本となってお子さんに見せてあげてほしい。それが一番の教育になると私は思います。
そのためには、わが子に「教える」のではなく、わが子とともに自らも「学ぶ」ことではないでしょうか。ぜひ、親子でともに学び、ともに成長してください。
―『どんな個性も活かすスポーツ ラグビーに学ぶ オフ・ザ・フィールドの子育て』より抜粋・編集
◆『オフ・ザ・フィールドの子育て』の紹介◆
本書では、「多様性」というキーワードに着目し、それを独自に育んできたラグビーに学ぶことで、子どもたちに多様性を身につけてもらえる、子育てをよりよくできるのではないかと考えました。
教えてくれるのは、「コーチのコーチ」をしてきた“教え方のプロ"である中竹竜二氏。
さらに、花まる学習会を主宰する高濱正伸先生から、著者の考えに対して、
「子育て」や「学び」の観点から、適宜コメントを入れていただきました。
また、巻末にはお二人の対談を掲載し、ラグビーに学ぶことの意義についてご紹介しています。
改めて「ワンチーム」という言葉の意味や、ラグビーが大事にしてきた「オフ・ザ・フィールド」という考え方を知ることで、わが子の個性をどのように活かしたらよいかを考えるきっかけとし、わが子が実際に輝ける場所を親子で一緒に見つけてほしいと思います。
“サンドウィッチマン推薦! "
ラグビーがなかったら、いまの俺たちはいなかったと思う。
「中竹さん、ラグビーから学んだことは、今に活きています! 」
―中竹竜二( Nakatake Ryuji )
株式会社チームボックス代表取締役
日本ラグビーフットボール協会理事
1973年福岡県生まれ。早稲田大学卒業、レスター大学大学院修了。三菱総合研究所を経て、早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任し、自律支援型の指導法で大学選手権二連覇を果たす。2010年、日本ラグビーフットボール協会「コーチのコーチ」、指導者を指導する立場であるコーチングディレクターに就任。2012年より3期にわたりU20日本代表ヘッドコーチを経て、2016年には日本代表ヘッドコーチ代行も兼務。2014年、企業のリーダー育成トレーニングを行う株式会社チームボックス設立。2018年、コーチの学びの場を創出し促進するための団体、スポーツコーチングJapanを設立、代表理事を務める。
ほかに、一般社団法人日本ウィルチェアーラグビー連盟 副理事長 など。
著書に『新版リーダーシップからフォロワーシップへ カリスマリーダー不要の組織づくりとは』(CCCメディアハウス)など多数。
2020年、初の育児書『どんな個性も活きるスポーツ・ラグビーに学ぶ オフ・ザ・フィールドの子育て』を執筆。