2編集者が以前取材した庭を17年ぶりに訪ねる旅
♯2再会
何年ぶりの一人旅だろう。ひとりで仕事をはじめてからは、旅は誰かと一緒に行くことが多かった。今回は記憶と共に行く。何だか、17年前の自分と旅をしているようだ。
伊豆高原の改札を出て、かつて訪れたペンションのオーナー真知子さんを探す。今日はそのアヴォンリーに行く前に伊豆高原のオープンガーデンを案内してくれるという。お互い17年ぶりとマスクとですれ違う。やっと会えた真知子さんの目元は驚くほど当時と変わらない。
まずはイタリアンでランチをする。
アオリイカと手打ちパスタのジェノベーゼをいただきながら、近況を話し合う。
ここ数年の話になり、私は立て続けに病気になった話をした。すると真知子さんは言った。
「病気というものは、本当は、ないのよ。ただ、知らせているだけなの」
病気ってない。
ストンときた。
体調を崩してわかったこと、よかったことがあったのに、「病気」という言葉を、どこか言い訳に使いだしていたことに気づく。
「メタファー(暗喩)」と言うと教えてもらった。真知子さんは、心身を整えるセラピーのスペシャリスト。自分を取り巻く様々な現象をメタファーと捉え、言葉を与えることで、新しい状況に変えることができるという。
私はエッセイや物語を語り直しだと考えてきた。不条理な現実やいびつな過去を言葉にすることで新しい意味をもたせるイメージを持っていた。セラピーと物語、全く異なるジャンルがオーバーラップする。真知子さんは、かわいい魔法使いになっていた。魔法のおかげか17年分の距離が一気に縮まる。
私達は店を出て、最初の庭へ向かった。車で走ると趣向をこらした家や庭が目に入る。伊豆高原のエリアは、気候に惹かれ移住してきた人も多い。それぞれの夢を具現化したような町並み。
予定していた庭が見学できず急遽近くのヘムズガーデンさんに連絡して訪ねていいか伺う。要予約なのに快く受け入れてくださった。
小道を辿ってバラのアーチを抜けると、ココヤシとリュウゼツランがシンボリックなガーデンが迎えてくれる。
数日天気が続き、バラたちは、ふわっと赤ちゃんの笑顔みたいに、咲きほころんでいた。庭作りのテーマなどを聞きながら、庭を巡る。庭という共通があるだけで、はじめて同士で話が弾む。庭の素晴らしい写真と詳しい紹介は後日にして、アヴォンリーの話をする。
アヴォンリーは、17年間、霧の中で眠っていたように、変わらぬ姿だった。
自然に生えた野の花が咲き乱れているようなナチュラルな趣の庭は、オーナーの花への思いと適切な管理があってこそ、存在している。オーナーの順一さんも私を覚えていてくださった。庭はもういいと言いながら、「庭は生き物。花はかわいい。愛おしいです。花とおしゃべりしながら庭作りしている」と語る。アヴォンリーの37年の歴史は庭とともにあったのだと感じる。
そして今、私はロビーでひとり、この文章を書いている。ここもそろそろ締まる。部屋に二杯目のバーボンを持ち込んで旅文を書きたいと思っている。夜がもっと長かったらいいのにな。
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