旅とアート:ヴァンスのロザリオ礼拝堂1 本当の設計者は誰?
2023年の「マティス展」、2024年の「マティス 自由なフォルム」展、ともにヴァンスのロザリオ礼拝堂を大きく取り上げています。「マティス展」では4Kで撮影された映像を大きなスクリーンで上映していました。「マティス 自由なフォルム」展では、これを書いている時点ではまだ展覧会開催前なのでどのようになるのかはわかりませんが、礼拝堂が体感できる空間展示がなされるとのこと。楽しみですね。
この礼拝堂は、ニースから車で約30分のところにあるヴァンスという中世の村の旧市街の外れにあります。上の写真は石畳が残る旧市街の展望台から礼拝堂を見たところ。間に谷があり、川が流れています。旧市街から橋を渡って徒歩20分(けっこう坂道)ほどの距離だったかと思います。
礼拝堂の向こう側に「アンリ・マティス通り」という通りがあり、エントランスはそちら側に。まず右隣のミュージアムで礼拝堂の成り立ちやマティスのデッサンなどをしっかり学んでから礼拝堂に入るという順番で観覧します。左隣のクリーム色の壁の塔のある建物が併設された修道院で、取材時は3名の修道女が暮らしていました(数年前は7名だったのですが、パンデミックで減少したそう)。
この動線を考案したのが、ミュージアムの設立やキュレーションに尽力したドミニコ会のマルク・ショヴォー修道士です。彼はリヨン郊外にあるル・コルビュジエが設計したラ・トゥーレット修道院に所属し、同修道院で李禹煥(リ・ウーファン)の展覧会などもキュレーションしている、ドミニコ会のアート担当。修道士であり、美術史家でもあります。
修道士が現代アートをキュレーションする?と少し不思議に思いましたが、「ドミニコ会の歴史は常にアートとともにあります。私もそれを受け継いでいます」とのこと。宗教とアートは成立から近代以前まで密接な関係を築いてきましたが、近代以降、その関係が薄れてきたところを、ドミニコ会のマリー=アラン・クチュリエ神父が「アール・サクレ(聖なる芸術)」を唱え、前述のラ・トゥーレット修道院やロンシャン礼拝堂の設計をル・コルビュジエに依頼したり、この礼拝堂をマティスに一任する後押しをしたりしたそう。ショヴォー修道士は、その後継者といえるのでしょう。
ショヴォー修道士が「このことをきちんと伝えたくてミュージアムを作った」と解説してくれたのが、この礼拝堂の本当の設計者について。日本では現在もル・コルビュジエの師匠であるオーギュスト・ペレが設計したと紹介されていることが多いのですが、実際に設計したのはルイ=ベルトラン・レシギエという若い修道士だったというのです。ミュージアムにはペレの設計図面も展示されていますが、現在の建物とはまったく異なるものでした。おそらくマティスはペレの設計が気に入らず、若いレシギエ修道士と組んで、あれこれ意見しながら自分のイメージ通りの建物を実現したのだろうと推察できます。レシギエ修道士は建築の経験が浅かったため、最終的にペレが設計監修をしたということで、名前が残されたそうです(ありがち)。「レシギエ修道士はとても謙虚で、しかも若くして病没してしまったので写真などの資料が少なく、事実がきちんと伝わっていないのです。あなたもこのことをしっかり書いてくださいね」とショヴォー修道士に念を押されました。
ロザリオ礼拝堂について、もう少し続けて書こうと思います。
「マティス 自由なフォルム」2/14〜5/27 @国立新美術館
行く前、行った後にどうぞ。ミュージアムショップでも販売されています!
『マティスを旅する』(世界文化社)