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26『投資ロマンス詐欺』に引っかかり、約500万借金した四十路の末路@現在進行形-法テラスに向かう・III-

(承前)

 目の前にいる弁護士は、ぼくからすれば、すごく穏やかな方ではあるのだけど、内に秘めたるエネルギーというか、そういうものは非常に強く感じられた。助けようとしているからこそ、なのか、単純にいろいろ教唆して抜け道を案内しようとしているのかはしれないが、しかしぼくは前者であろうと信じることにした。

「連帯保証人にも、保証人にも、自己破産をしていただければ、たまぞうさんの借金は全て帳消しになります。これが一番身軽になれる方法です。だけど、たまぞうさんの希望は個人再生。家を残したいからという気持ちも理解はできます」

「たくさん騙されて、家まで取られたら、ぼく、それこそ何のために生きているのか判らないです。自己破産の方が借金は帳消しなので、楽なのは判りますが、感情がついていきません」

 そうなのだ。
 感情が追いつかないのだ。
 ぼくが果たして、Aと名乗る韓国人(おそらく偽名だけど。韓国名なんざ、もう耳にもしたくない!!!!!)に何をしたというのだ。確かに投資で増やして、早く奨学金は返したいと思った。そこは認める。でもだからといって、その額を遥かに超える負債を抱えさせられるほど、ぼくは悪事を働いたのだろうか。

 ……まあ、詐欺師には関係ないよね。
 ゆくゆくはイ・テソンの画像もここに公開したい。

「しかし、もしいますぐの手続きをしたい、と希望されると、たまぞうさんは自己破産しか選択はできません」

 ……。
 この答えは予測していた。
 個人再生の絶対条件は、継続的に安定した収入があることなのだ。

 いまのぼくは、傷病手当金を受給しながら休職をしている。
 この傷病手当金は「継続的かつ、安定した収入」には認定されないとのこと。
 理由は最長1年半しか受給できない時限付きの給付だからだ。

 頭では理解していても、やはり感情は追いつかない。
 ぼくは、ほんとうに頭を抱えた。
 詐欺師のせいで家までとられる????

 だとしたら、これまでのぼくの人生って、何???

 本気でそう思った。
 ああ、ラクにはなる。
 だけど家を手放さないといけない。
 これは決定事項のようだ。

「……自己破産したら、すぐに家を出ていかないといけないものなのでしょうか?」
 自己破産するにしても、当然そのためのお金はかかるし、家を出るとなると当然引越し費用もかかる。そして残念ながら、いまのローンの返済額と同額で、近隣で物件を探すのは至難の業で、引っ越すなら他の区も検討しないといけなくなる。

「ケースにもよりますが、競売にかけられて、それが決まってからになります。半年から1年近くは、いまのところに住むことができると思います。ただ、所有権が家を買った人に移ってしまったら、その瞬間に出ていかないといけません」

 やはり3ヶ月くらいか……。

「しかしたまぞうさんは、家は手放したくはないんですよね? 借金が少し残ってでも、家を残したいということですよね?」

 はい。
 圧縮された借金は、もう、高い授業料と思うことにする。
 家は残したい。生活保護受給者からここまで頑張ってきたのに、家を手放すなんて、それだけは……我儘と言われるのは百も承知だが耐えられないし、そんなことになればほんとうに死ぬと思う。

「それでしたら、八月(たまぞうは会社の規定で今年の8月までは傷病手当を受給しながら休職ができる)に復職か、次の転職先を決めて、しばらく働いてからでしたら、個人再生の申請はできるかと思います。復職にしろ、転職にしろ、仕事を継続していると、継続した収入があると認定されます」

 なるほど。
 働ける状態になるのを、虎視眈々と待つわけですな。
 ありがたかったのは、「いますぐ復職して数ヶ月すれば、個人再生できますよ」といわれなかったことだ。これをいわれたら、正直、精神的にまだ辛い。なかなか法律スレスレのことをおっしゃる穏和な弁護士だが、根はきっと優しいのだと思う。正直なところ、何かを頼むのならこの方がいいなと、感じたくらいなのだ。

 しかし、これはこれで問題が発生してしまう。
 そう。月々の支払いである。
 銀行系のローンが毎月五万、その他のカードでもろもろ……。
 来月には一括返済80万の予定も迫っている。
 ほんとうに、これは乗り切れる気がしない。

 しばし訪れた沈黙。
 ところが、目の前の弁護士は、ぼくの想像の遥か斜め上の提案をしてきた。
 正直これは、ぼくは驚いた。
 しかし、少しだけ、道が拓けたような気もしたのだ。

 書くと少し長くなるので、次回に続く。
 もちろん、生きていたら……。
 船旅に出ようかな、ぼく……。


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