21『投資ロマンス詐欺』に引っかかり、約500万借金した四十路の末路@現在進行形-怪しげな弁護士事務所と対話する-
タイトルに語弊があることは先に伝えておく。
あくまで、電話を受ける前の所感である。
そして私事をひとつ。
この際、血迷って新しいパソコンをマックにしてみた。
もう500万も借金していたら、その先いくらしても同じだろうという、諦めの境地に到達することができた。
初めてなのでいささか使いにくい。
それゆえ、いつもよりも誤字脱字の多さは勘弁願いたい。
とりあえず消費者センターで相談を済ませたら、一気に疲れたのもあるが、それ以上に空腹を覚えてしまった。かなしいかな、食費を削れたら多少の節約にはなるのだけれど、(しかしそんなことをしたところで、借金の前では焼け石に水でしかない) 生きている限りお腹が空いてしまう。正直、状況としては相当切羽詰まっているはずなのに、お腹が空くという事実がかなしい。
海が見渡せるレストランで食事をしたが、さっぱり味が判らない。抹茶のゼリーとかお願いしてみたが、ほんとうに味がしないのだ。コロナに感染した時、ぼくは味覚と嗅覚をやられたが、そのとき並みに味がしなかった。脳内は、瞬時に膨れた借金でやられていたのだろう。
とりあえず帰宅し、その日はそのまま寝ることにした。
最近は寝る時間が増えている。寝ている時間は何も考えなくていいからだ。
ようやく規則正しい生活を取り戻していたのに、あまりにもこの現実は苛烈だ。
やるせなさや悔しさしかない。
そして翌日の昼。
インターネットで見つけた、ロマンス詐欺で取られた仮想通貨を取り戻すことを専門としている某弁護士事務所と電話にて話をすることとなった。
もはや誰が味方で、誰が詐欺師で、誰が敵なのか、その判別ができなくなっている。
受話器の向こう側の男性の方は、親切そうな声音ではあった。少なくとも詐欺師とは思えない感じだった。
「お電話失礼致します。たまぞうさんでしょうか」
「はい」
「まず詳細な経緯(先日警察署に提出した書類をそのまま送っていた)と、こちらが求めたコインチェックのスクリーンショット、早々に送っていただき、ありがとうございました」
こんな感じで、対応は穏やかだった。
しかしぼくは、ネット上の出会い、今後はもう信じないと消費者センターで決めていたので、いろいろ丁重な言葉を投げかけられても断るつもりだった。
ところが、相手の反応はこちらが想像していたものとは少し様子が違った。急いで話したいと事前にいわれていたので、一気に「お金取り戻します」という感じの仮契約までもっていくのではないかと思われていたが……。
「こちらは非常に急を要する案件かとは思われます。しかし、お申し込みいただいて、確実に取り返せるのかどうかは、正直なところ、やってみないと判らないという感じです。たまぞうさんはおそらく借金されてお金を工面していますので、返済が始まってますよね?」
「はい」
「それでしたら、私共としましては、まずそれを止めるよう、助言いたします。もしいまここで着手金を頂いて、たまぞうさんの経済状況がさらに悪化するというのは、やはりお勧めできません。それでも構わないということでしたら、お引き受けは致しますが、着手金に対して取り戻せる金額が少ないという可能性もゼロではありません」
聞けば聞くほど、考えていたよりも、ずいぶん良心的な会社のように思えてくる。もっともそう思わせておいて、着手金だけむしり取る可能性もゼロではないけれど、電話の主は、ぼくにしてみたらずいぶんと誠実だった。
「たまぞうさんのマイナスになる可能性がゼロではない以上、弊社としてはお引き受けは難しいです。まずは月々の支払いを止める、あるいは借金を清算する、そこでもう一度考えてみるという方がいいように思います」
「そうですか……」
詐欺に逢いお金を取られ、さらに弁護士にもむしり取られる事例が報告される中、相手は自分の利益を放棄してでも考えるよう諭してくれたのは、個人的には前向きに受け容れたいと思った。
悪徳商法の可能性がありながら、そういうところからも心配されるレベルだと認識せざるを得なかった。
「暗号通貨詐欺はスピードも大切ですが、たまぞうさんはまず、経済基盤を整えてください。そのなかでどうしても取り返したいということでしたら、再精査して、確実に返金が見込める場合はお受けいたします。
あいにく弊事務所は、暗号資産詐欺にあったお金を取り返すことを専門にしている会社です。そのため、個人再生、自己破産、任意整理などはお受けしておりません。
お力になれず心苦しいですが、まずは月々の支払いを止め、経済基盤の安定を優先した方がいいというのが、当社の見解です」
ここまで言われて、それでも「取り返してください、お願いします」とは言えなかった。
「……わかりました。ありがとうございます」
と答えて、電話を切るのが関の山だった。
これが相手の戦術なのであれば仕方ないが、ぼくは比較的、良心的な会社に恵まれたのではないかと思えた。まだむしり取られなかったのは、ギリギリ幸運なのかもしれない。
そうなると、次は法律相談である。
善は急げというが、この日から一週間以上、時間が空くことになってしまった。
ひとつは自分に、法テラスに電話する勇気が湧かなかったこと。
もうひとつはうつ状態の悪化で、この日を境に寝込むことが増えたからである。
なんとか今日も寝込みながら生きながらえた。
明日も生きていますように。
生きていたら続きます。