
27『投資ロマンス詐欺』に引っかかり、約500万借金した四十路の末路@現在進行形-法テラスに向かう・④-
しばし沈黙ののち、目の前の弁護士は予想外の話をしてきた。
「もしたまぞうさんが、ほんとうに自己破産なり、任意整理をするつもりであるのであれば、カード会社への代金の支払いを拒否するのも一案だと思います」
「支払い拒否?」
そんなことができるんですか。
「代金引き落としの前に、銀行預金から引き落とせない額を残しておけばいいのです。極端な話、銀行口座を0円にしてもいいです。そしてその状態が3ヶ月続くのであれば、ブラックリストに乗ります。たまぞうさんは自己破産か個人再生を検討されています。ですから、遅かれ早かれ、この信用情報には傷がつくんです。それでしたら早めに支払いを諦め、自己破産か個人再生に流れを作っていく方がいいと思います」
「そんな、2、3ヶ月も引き落としを拒否して、大丈夫でしょうか?」
ここにきて、一気に気が小さくなるぼく。
いままで残高不足で引き落とし不可になったことはない。
「大丈夫です。半年くらいはそれで時間を稼げます。自己破産や個人再生を考えていらっしゃるのであれば、結局、信用情報に履歴が残るという結末は一緒なわけです。それでしたら、カード会社には支払わず、その代わりに手元に少しでもお金をたくさん置いておくようにしてください」
「手元に現金……ですか……」
そういわれるも、いまいちピンとこないのが正直な実感だった。
「自己破産するにしても、個人再生するにしても、必要になるのがお金です。しかも事務所によって結構幅があります。そして生活防衛の意味もあります。一番強いのは現金です。弁護士費用も、法テラスなら分割の対応ができますが、基本は一括払いが原則です。ですので、支払いを止める代わりに、たまぞうさんは手もとにお金を置いておいて欲しいのです。そうすれば、いざ自己破産、個人再生するときでも、動きやすいかと思います」
なるほど。
それは確かに一理ある。実際問題、お金がなくて自己破産します、個人再生しますといったところで、絶対に必要になるのは弁護士費用だ。それは置いておかないとまずい。
ただそれをする度胸があるのか否か、それが問題ではある。
ほとんどの人間はやったことがないだろうし、経験者の声を聞こうにも、経験者はそんなこと、他人にはいわないだろうし……。
「必要な費用は、事務所などにもよりますが、20万から50万ていどです。どうかこの額は手もとに残すようにしてください。これがないと、あとあと返済していただくことになりますので」
正直、自己破産を選べたら、自分の人生はかなり楽になるだろうなと思った。ただ、騙されて、せっかく購入した家を手放さないといけない、この一点だけはどうしても悔しい。何事も迅速に進ませるに越したことはない。しかし、ギリギリにきても「ここだけは譲れない」みたいな矜持も必要だと思う。一歩目からその矜持を捨ててしまうのは、やはり自分の心の整理がつかない。
そうなるとやはり個人再生が一番現実的になるだろう。
圧縮されて残る借金は、授業料として返していくしかない。それでも負債800万に比べれば、精神的にはかなり楽だ。それで家が残るなら、その授業料は受け止めたい。
しかしこちらを選ぶとなると、復職か転職が絶対に必要となる。
ぼくはいまの職場に対しては、正直なところ、人間に対してあまりいい印象がない。社会人人生で初めてのことである。これ、知人にもかなりレアだといわれる。いままで人間関係がらみの悩みが一番にこないことに衝撃を受けられてしまう。しかし今回は良くも悪くも人間関係がらみで、うつ病になり、休職をしているので、会社に認められた期間はめいっぱい休むつもりをしている。
そこに今回の爆弾が投下である。
休めるどころの騒ぎではない。
つまりぼくのゴールが、「とにかく全部チャラにしたい」なら、「いますぐ自己破産」を選択すればいい。休職中なのだから、平日でも身動きが取れやすいし、こちらが現実的かもしれない。
しかし、ぼくのゴールが「家を残して清算したい」となると、会社が認めた期間の八月までは何ひとつ身動きが取れない状況である。まず安定した収入があることを証明しないといけないし、おそらくいまの職場なら「カウンセリングが日中しかないんです」とかなんとか適当に言い繕えば通るだろうけど、平日に何回か弁護士と接見する必要がある。(4回くらいといわれた。仕事後の18時以降とかでも対応しているところはあり、それは事務所によるともアドバイスを受けた)
ならいっそ、シフト制の職場に転職をするか……。
そのことを徐々に考え、形にしていかないといけない。
いったい何のための休職なのだろうか。
ほんとうにぼくは何をしているのだろう。
ちなみに自己破産も、個人再生も、してしまえば「お金支払え」の督促はすぐに止まるとのこと。しかし住宅ローンについてだけは、個人再生の場合は事前に相談をした方がいいとのアドバイスを受けた。
そして要する時間は……一年程度とのこと。
一年…。生きてるのかしら。
しかしぼくの場合は、いずれにしても奨学金の保証人に頭を下げねばならない。おそらく連鎖で仲良く個人再生か自己破産だろう。それに保証人が「私が自己破産であなたが個人再生というのは納得できない」といわれれば……しのごの言ってはいられない。そうなったときはどうしよう。
つまり、いま、ここで行き詰まり、手詰まりである。
宝くじでも当たらない限り、手詰まりのままだろう。
その可能性はゼロに等しい。
しかし弁護士さんに最後にいわれたのは、「被害届はやはり出した方がいいと思う」とのこと。そして「犯人と接点が保てるのであれば、保っておいた方がいい」とのこと。
いずれにしても、被害届があって、初めて誰かを捕まえるために動き始めるわけで、これから起こる未来の犯罪の抑止力にもなる。そして犯人と何かしら接点を持てるのであれば、持っておく方がボロが出てくるかもしれない、そこに一縷の望みを賭けてもいいのではないかともいわれた。
いろいろ手詰まりな中、ぼくに残された道、いまできることは、どうやら、被害届の提出しかないようだ。
以下、次回。
生きていたら。そして進展があれば。
そろそろ進展が止まりそうです。