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【短編小説】『雪の音色に包まれて』3
⇒【第2話:あなたの瞳の片隅に】からの続き
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【第3話:役目を託して】
僕の人生で20回目の冬がやって来た。
雪音さんは今年も
初雪に合わせて僕を迎えてくれた。
僕は雪音さんに
大学での愛冬とのやり取りを話した。
初めて雪音さんのことを話したとき、
愛冬が不服そうな顔をしたことも。
雪音さんは”雪の妖精”じゃないかと
冗談を言い合ったことも。
氷月
「…ということがあって。」
「愛冬の態度に困惑したんだ。」
雪音
『あらあら、それは…大変だったね。』
雪音さんは笑顔で僕の話を聞きながら、
ふと、今まで僕が見たことのない表情を見せた。
まるで何かに安心したような、
何かの役目を果たしたような、ほっとした表情だった。
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雪音
『実はね…私…こっちへ来るのは今年で最後なの…。』
氷月
「え?!どうして?!」
雪音
『…家の都合で、遠い国へ引っ越すことになったの。』
氷月
「そんな…お別れなんて嫌だよ!」
雪音
『私だって寂しいよ…。』
『大丈夫、氷月くんはもう孤独じゃないから。』
氷月
「大丈夫じゃないよ!」
「僕はずっと雪音さんに救われてきた!」
「雪音さんがいなくなったら…。」
雪音
『ありがとう…それは嬉しいけど…。』
『成長したあなたなら見えるはずよ。』
氷月
「…僕に…何が見えるっていうの…?」
雪音
『周りに目を向けてみて?』
『氷月くんを想う人は身近にいるかもしれないよ?』
氷月
「……?!」
このときの僕は、あまりのショックで
雪音さんの言葉が耳に入ってこなかった。
人にはそれぞれの人生があるし、
いつかお別れが来る。
僕は冬を重ねるたびに
それを受け入れてきたつもりだった。
それでも、いざそのときが来ると
平静でいられるはずがなかった。
僕は大学には何とか通ったが、
『元気でいてね』という雪音さんとの約束を守れず、
落ち込んで過ごしていた。
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愛冬
『氷月、どうしたの?最近、元気ないよ?』
氷月
「雪音さんが…遠い国へ引っ越すって。」
愛冬
『そっか…。』
いつもの愛冬なら、
雪音さんの話になると頬を膨らませたり、
不服そうな顔をするところ。
そんな彼女が、
今回だけはとても悲しそうな顔をした。
氷月
「大丈夫だよ。」
「いつまでも雪音さんに甘えてられないし。」
僕は愛冬を心配させないよう強がって見せた。
愛冬
『無理してない?』
氷月
「してないよ、雪音さんと約束したんだ。」
「”元気でいる”って。」
愛冬
(本当に大丈夫…?)
(目を離したら”やらかして”しまいそう。)
(ショックで冬の川へ飛び込んだり…?)
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愛冬
『…私になら…。』
氷月
「?」
愛冬
『弱音吐いたっていいんだよ?』
氷月
「…ありがとう。大丈夫だから。」
愛冬
『…そう…辛くなったら言ってよ?』
氷月
「…うん。」
愛冬
(あぁもう……私じゃ…。)
(どうやっても雪音さんの代わりになれない…。)
(私じゃ…氷月の心の支えになれないの…?)
このときの僕には、
愛冬のそんな苦悩に気づけるはずもなかった。
⇒【第4話(最終話):愛しき冬が氷を解かす】へ続く
【本作のPV】
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