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【NCPR編】新生児には不要な酸素は制限しなければならない

 NCPRの安定化の流れではまず努力呼吸とチアノーゼの有無を確認することになります。

安定化の流れ

 NCPRでチアノーゼというときは中心性チアノーゼを指します。これは全身の低酸素を反映します。そして、チアノーゼで判断するのは、パルスオキシメータを着けていないか、着けていてもまだ値が表示されていない時です。パルスオキシメータの値が表示されている場合はSpO2値で判断していくことになります。SpO2の目標値は1分60%、3分70%、5分80%、10分90%以上となっています。これについては蘇生に立ち会うときには覚えておいてもらうしかありません。SpO2が目標値を超えてくることと、時間経過と共にSpO2が上昇していくことが、呼吸の適応が進んでいることを示唆する所見になります。
 SpO2が60%、70%というと成人や一般小児ではかなり低い値ですが、新生児では決して低すぎるわけではありません。これにはヘモグロビン(Hb)の違いが影響しています。新生児の赤血球は胎児Hb(HbF)が主体です。胎児赤血球の寿命は60日くらいですので生後1-2か月の間に成人Hb(HbA)を含む通常の赤血球に置き換わっていきます。HbFとHbAの違いを図に示します。

酸素解離曲線(HbA, HbF, Mb) ーFetal hemoglobin, Wikipediaよりー

 成人の動脈血酸素飽和度と静脈血酸素飽和度はそれぞれ100%近くと70%程度です。胎児は臍帯静脈血で80%、右房で70%、上行大動脈で63%、下行大動脈で60%、大静脈で40%と言われています。PO2にすると約20-35mmHgの範囲です。それを記入したものが下の図になります。このときの矢印の長さが組織で放出する酸素の量=酸素運搬能ということになります。

胎児および成人の通常の酸素環境における酸素運搬能

 この図からわかることとして、HbFはPO2が20-35mmHgという低酸素環境でも効率的に酸素を運搬する性能を持っているということです。高濃度酸素環境、低濃度酸素環境でのHbF、HbAの酸素運搬能はそれぞれどうなるでしょうか。これもまた図で示してみます。

高濃度酸素環境(左)と低濃度酸素環境(右)での酸素運搬能の比較

 HbFは高濃度酸素環境、HbAは低酸素濃度環境でそれぞれ酸素運搬能がずいぶんと低いことがわかるかと思います。ですので、出生早期の酸素飽和度が60%であっても、新生児にとっては低すぎるというわけではないのです。あせる必要はありません、ゆっくりと上昇していくことを待つ余裕が児にも蘇生者にもあるのです。
 また、酸素は薬でもありますが毒でもあります。生体にとって高濃度酸素環境では活性酸素の産生量が増加します。活性酸素は主にSuperoxyde dismutase(SOD)で処理されますが、新生児のSOD活性は生後数週間から数か月にかけて急激に上昇し、その後も徐々に増加しながら成人レベルに近づいていきます。

生後のSOD活性の変化

 このように新生児は酸化ストレスに弱いのです。早産児ではさらにSOD活性が低いため酸化ストレスの影響を受けやすい状態です。100%酸素で蘇生をした場合、生体内の活性酸素が発生し、(神経)細胞傷害につながることが示されています。そのため新生児の蘇生では過剰な酸素投与は控えなければならないのです。新生児の医療が予防医学である所以はこういうところにあります。何となく治療をしていてもたいていうまくいくのが新生児ですが、そのときの治療の影響がおもてに現れてくるのは数年~数十年たってからなのです。ですから極力不要なことを避けるようにしなければなりません。新生児期はビリルビンが上昇し、高ビリルビン血症はビリルビン脳症につながりますので治療が行われますが、ビリルビンには実は抗酸化作用があります。生物が陸上に上がり高濃度酸素環境に適応する過程で合目的的に生理的な黄疸が起こるようになったのでしょう。ビリルビンは赤血球の崩壊によって起こりますので、活性酸素による過剰な酸化ストレスは脆弱な胎児赤血球膜が傷害して高ビリルビン血症につながります。ビリルビン一つとってみても、過剰な酸素投与で悪化したり、必要のない光療法を行ってビリルビンをただ下げれば良いというものでもないということです。医療に限らず何事もそうですが、過ぎたるはなお及ばざるがごとし、治療のしすぎもしなさすぎも良くない、バランス感覚が重要です。

 今回はあまり極論的ではなくごく普通の話ばかりでしたが、
【極論かましてよかですか】
 新生児に過剰な酸素投与をしてはならない
 酸素飽和度が低くても緩やかに上昇していれば焦らない。HbFの力を信じよ
 人生中庸が大事。やり過ぎはよくない

 

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