エヌ夫

新生児医療に携わり幾年、50代に突入。現在は田舎でのんびり赤ん坊に囲まれ、周産期のスキ…

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新生児医療に携わり幾年、50代に突入。現在は田舎でのんびり赤ん坊に囲まれ、周産期のスキマ産業をする日々。周産期医療を中心に日々出てくる疑問、日々抜けていく知識を必死に補完するためにまとめてみます。たまにグチ。物語は実際の症例に基づいていますが、脚色を加えたフィクションです。

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  • 「勝手に」極論で語る新生児のトリセツ

    新生児・周産期の医療に20年関わる医師が、一般小児科医でも新生児に詳しくなれ、自信を持って診療できるようになることを目指したExperience-basedな診療のTipsを紹介。これであなたも新生児医療が怖くない!

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勝手に極論で語る新生児のトリセツ はじめに

はじめに  「新生児の管理は難しい」「こんなに小さい子を触るのが怖い」「なんとなく見ているけど本当にこれでいいの?」「赤ちゃんはかわいいけどスタッフが怖い」……  研修医の先生や周産期にどっぷりつかっているわけではない一般小児科医にとって、周産期・新生児の医療は何か特殊で近寄りがたく、何となくうまくいっているけど実際よくわからないままみている、決め事から外れるとすぐに文句言われちゃうけど本当にそれでいいの?、上の先生に聞いても詳しく説明してもらえない、病院が変わるとお作法や

    • 【産科付属児編】出生後早期の母子接触の利点と注意点

       出生後に一連の蘇生処置が済み、安定した状態が維持できるようになったら、そこから先は各施設ごとにどのように進めるかは違います。体重測定が先に来るところもあるかもしれませんし、なるべく早く母子接触を図るところもあるでしょう。現在は早期母子接触(Skin-to-skin contact, STS contact)の利点が強調されていますので、母親に抱っこしてもらう施設の方が多いのではないでしょうか。  生後早期に重要なことの一つに「保温」があります。保温はウォーマで行うか、母親の

      • 【NCPR編】気管挿管の極意、喉頭鏡は指で持て

         NCPRでは気管挿管の場面として6つ挙げられています。①胎便の気管吸引、②人工呼吸がうまくいかないとき、③(長時間の)胸骨圧迫、④アドレナリンの投与経路として、⑤横隔膜ヘルニアやサーファクタントの投与、⑥長時間の人工呼吸です。  ①の胎便の気管吸引は2005年のガイドラインまでは羊水混濁のある児が出生した場合、泣き出す前に胎便の気管吸引を行うように記載されていました。現在の気管吸引の考え方としては、熟練した者がやってもいいですが、やりなさいということではありません。これは胎

        • 【NCPR編】1次性無呼吸には刺激、2次性無呼吸には人工呼吸

           NCPRの教科書に1次性無呼吸と2次性無呼吸の図があります。1次性無呼吸と2次性無呼吸とその間にあえぎ呼吸があり、心拍と血圧の変化が載っている図です。この図はもともとアカゲザルの胎仔の臍帯を結紮した際の反応が基になっています(下図)。  臍帯結紮から数分アシデミアに伴う呼吸が見られ、その後無呼吸になります。この段階が1次性無呼吸で、交感神経の活性化により徐脈ではありますが、血圧は上昇します。この段階であれば、刺激により容易に呼吸は回復します。その後あえぎ呼吸と呼ばれる短く

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        勝手に極論で語る新生児のトリセツ はじめに

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        • 「勝手に」極論で語る新生児のトリセツ
          18本

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          【NCPR編】重症新生児仮死のHIEの評価は主観的。迷うくらいなら低体温療法を行う方がいい

           新生児仮死は非常に広い概念です。ちょっと具合の悪い子から心停止かそれに近い状態まで含んでいます。出生時に自発呼吸がなく、人工呼吸ですぐに自発呼吸が出現し元気になったような子も多々いますが、人工呼吸を行って自発呼吸が出たとしても、筋緊張の回復に時間がかかったり、しばらく元気が無かったり、あるいは易刺激的で過敏な子の場合には色々心配になるかと思います。新生児仮死や分娩ストレスの大きかった児では、低酸素性虚血性脳症(HIE)の程度の評価を行う必要があります。2020年までのガイド

          【NCPR編】重症新生児仮死のHIEの評価は主観的。迷うくらいなら低体温療法を行う方がいい

          【NCPR編】蘇生は自己膨張式バッグで十分だが、限界を知っておこう

           以前の記事で正期産児の蘇生にCPAPが不要であることを述べました。正期産児の蘇生では自己膨張式バッグがあればほぼ事足ります。そうは言ってもどうしても自己膨張式バッグでは難しいことがある点は抑えておくのが良いでしょう。  自己膨張式バッグの最大のメリットは場所を選ばずに使えることです。流量膨張式バッグやTピース蘇生装置と異なり、配管が不要ですので自宅でも屋外でも助産院でも病院でもどこでも人工呼吸を行うことができます。また、膨らむのを待つ必要がないため、人工呼吸を始めようと思っ

          【NCPR編】蘇生は自己膨張式バッグで十分だが、限界を知っておこう

          【NCPR編】新生児には不要な酸素は制限しなければならない

           NCPRの安定化の流れではまず努力呼吸とチアノーゼの有無を確認することになります。  NCPRでチアノーゼというときは中心性チアノーゼを指します。これは全身の低酸素を反映します。そして、チアノーゼで判断するのは、パルスオキシメータを着けていないか、着けていてもまだ値が表示されていない時です。パルスオキシメータの値が表示されている場合はSpO2値で判断していくことになります。SpO2の目標値は1分60%、3分70%、5分80%、10分90%以上となっています。これについては

          【NCPR編】新生児には不要な酸素は制限しなければならない

          【NCPR編】救命の流れ:無呼吸即人工呼吸。心拍確認の必要なし

           蘇生の初期処置の後は呼吸と心拍を確認して人工呼吸の適応を判断します。自発呼吸なしまたは100回/分未満の徐脈の場合は人工呼吸を行います。自発呼吸があり、100回/分以上の心拍がある場合は安定化の流れに入ります。  人工呼吸は生後60秒以内に開始しなければなりませんので、時間との闘いです。それでは呼吸と心拍を実際に確認する場合それぞれどうやって評価するのでしょうか。呼吸は児を見て判断します。心拍は聴診あるいは臍帯動脈の付け根の触診で評価します。呼吸と心拍のどちらが先に評価で

          【NCPR編】救命の流れ:無呼吸即人工呼吸。心拍確認の必要なし

          【NCPR編】蘇生の初期処置:呼吸刺激は泣かせることを目的にしてはいけない

           蘇生の初期処置とルーチンケアの内容はほぼ同じです。つまり、最初に行う処置に大きな変わりはありませんので、どのような分娩であっても流れるように必要な処置を行っていけるはずです。NCPRに熟練したいと思えば生まれた後に行う処置は条件反射で行えるまで数をこなすのが一番の近道です。蘇生の初期処置とルーチンケアの唯一の違いは「必要な児に」呼吸を促すための刺激を行うことです。何でもかんでも刺激すればいいというものではありません。  ルーチンケアは①保温、②気道開通、③皮膚乾燥、④更な

          【NCPR編】蘇生の初期処置:呼吸刺激は泣かせることを目的にしてはいけない

          【NCPR編】出生直後のチェックポイント:生まれたらまず赤ん坊を見よ

           NCPRでは「赤ちゃんが生まれたら3つのことを確認」となっています。出生直後のチェックポイントは①早産児、②弱い呼吸・啼泣、③筋緊張低下の3つです。それによりルーチンケアとなるか、蘇生の初期処置に入るかが決まります。  3つのチェックポイントはいずれも生まれた赤ん坊を見て評価します。えっ、週数は見るものじゃない、って?いえいえ、そんなことはありません。あらかじめ聞いていた推定週数でもよいでしょうが、熟練者は生まれた児の実際の週数も"見て"いるのです。たとえば40週と聞いて

          【NCPR編】出生直後のチェックポイント:生まれたらまず赤ん坊を見よ

          【NCPR編】安定化の流れ:正期産児の蘇生にCPAPは不要、人工呼吸ができれば良い

           NCPRには大きく分けて二つの流れがあります。生後60秒以内に人工呼吸を開始しなければならない「救命の流れ」と、自発呼吸があり徐脈のない状態で呼吸補助(CPAPや酸素投与)の必要性を判断する「安定化の流れ」です。救命の流れは1秒でも早く”有効な”人工呼吸を行い、肺を膨らませることに全力を注がなければならない時間勝負の世界です。一方、安定化の流れでは出生時の生理的な呼吸の適応過程に乗っているかどうかを観察しながら、必要であれば呼吸補助を行うことになります。児は呼吸もしており徐

          【NCPR編】安定化の流れ:正期産児の蘇生にCPAPは不要、人工呼吸ができれば良い

          【NCPR編】新生児蘇生法の本質は人工呼吸

           新生児蘇生法(NCPR)ガイドラインは5年ごとに改訂されており、新生児医療に関わる方は新生児蘇生法講習会を受講したこともあると思います。NCPR編では新生児の蘇生で重要な点やBeyond the NCPR的な新生児蘇生の際のコツについて教科書に書いてあることもないことも含めてやっていきましょう。  人の一生の中で最も危険で死亡率の高いのが出生の時です。子宮内の羊水の海で育まれた生命体が、一気に陸上の生命体にならなければいけないという、本来長い年月をかけて起こってきた生命の進

          【NCPR編】新生児蘇生法の本質は人工呼吸

          【正期産児編】肺高血圧と遷延性肺高血圧は全くの別物

           遷延性肺高血圧(PPHN)は重症新生児仮死、重症MAS、先天性横隔膜ヘルニアなどに合併する、重度の肺高血圧(PH)が持続する状態です。この状態になると、主肺動脈の血流のほとんどが動脈管を介して下行大動脈に流れてしまい、肺血流が少ないことで肺胞でのガス交換が行われにくく低酸素血症となります。また、ストレス刺激、啼泣、体動等で肺血管抵抗は増加しますので、ただでさえ少ない肺血流がさらに減少し酸素飽和度が低下してしまいます。一旦肺血流が減少してしまうと、その後肺血流が回復しても元々

          【正期産児編】肺高血圧と遷延性肺高血圧は全くの別物

          【正期産児編】適正な輸液量はNaが教えてくれる

           皆さんは入院した新生児の初期輸液量をどのように設定していますでしょうか。私は10%グルコース溶液を60mL/kg/dayという施設で研修しました。文献を辿ってみたものの、この60mL/kg/dayという設定がどこから来たのか、その大本にたどり着くことはまだできていませんが、1日ごとに60-80-100-120-120mL/kg/dayという文献や60-75-90-105-120-135-150mL/kg/dayという文献、50-60mL/kg/dayから開始する、という文献

          【正期産児編】適正な輸液量はNaが教えてくれる

          【正期産児編】一過性多呼吸からの二次性RDSはないと思え

           今回は新生児一過性多呼吸(TTN)についてのお話です。TTNは肺水吸収遅延による呼吸障害とされています。まずは出生時に起こる肺の状態の変化について確認してみましょう。  肺水の排出・吸収には大きく分けて2つの重要な機序、そしてその中で3つの重要な要素があります。まず一つ目の機序は圧迫排出による肺水の除去です。肺は胎内では水に浸っているスポンジのような状態です(図1左)。スポンジを手で絞ることで中の水が絞り出されます(図1右)。狭い産道を通過する時、このスポンジのように水浸し

          【正期産児編】一過性多呼吸からの二次性RDSはないと思え

          【正期産児編】胎便吸引症候群には二つのヤマがある

           胎便吸引症候群(MAS)は読んで字のごとく、胎便を(肺に)吸引したことによる呼吸障害のことです。以前、呼吸障害で入院した正期産児のプレゼンで研修医の先生が臨床経過の最後に「胎便吸引症候群と思います!」と締めくくってくれたのですが、「羊水混濁は?」と聞くと「ありません!!」と自信を持って答えてくれたことがありました。出てない胎便を勝手に吸わせてしまってはいけません。  さて、胎児徐脈など胎児期に低酸素状態になると、まず交感神経が活性化し優位になります。そうすると、カテコラミン

          【正期産児編】胎便吸引症候群には二つのヤマがある