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【NCPR編】蘇生の初期処置:呼吸刺激は泣かせることを目的にしてはいけない

 蘇生の初期処置とルーチンケアの内容はほぼ同じです。つまり、最初に行う処置に大きな変わりはありませんので、どのような分娩であっても流れるように必要な処置を行っていけるはずです。NCPRに熟練したいと思えば生まれた後に行う処置は条件反射で行えるまで数をこなすのが一番の近道です。蘇生の初期処置とルーチンケアの唯一の違いは「必要な児に」呼吸を促すための刺激を行うことです。何でもかんでも刺激すればいいというものではありません。

蘇生の初期処置とルーチンケア

 ルーチンケアは①保温、②気道開通、③皮膚乾燥、④更なる評価です。蘇生の初期処置は①保温、②体位保持、③気道開通、④皮膚乾燥と刺激です。明示されていませんが、⑤更なる評価も待っています。それは蘇生の初期処置後に行う「呼吸と心拍の評価」が該当します。体位保持と明記されているのは筋緊張が弱い場合に気道確保の体制をとることを意識してもらう目的があります。ルーチンケアでも体位保持できているかは観察しておいた方がいいでしょう。気道確保体位を保持することの意義は気道開通ですので、ルーチンケアの気道開通と初期処置の体位保持・気道開通は同義と思っていただいて構いません。基本的にはどちらの場合でも記載されている順番に行うのでよいですが、ウォーマに移動したあとは最優先されるべきは気道開通です。口の中がゴロゴロいっているのに一生懸命羊水を拭き上げている人を見かけますが、そういう場合にはまず吸引です。生後に行う処置の内容は決まりきっていても、その順序は児の状態で臨機応変に行わなければなりません。
 さて、蘇生の初期処置では無呼吸または弱い呼吸の時には呼吸を促すための刺激を行います。刺激で大事なことは、不要な刺激をしないことと啼泣させることを目的に刺激を行わないことです。2025年のガイドラインは、ILCOR担当の先生が呼吸刺激のことを積極的に推奨するようなことを公言しており、おそらく2020年版と記載内容が変わると思われますが、推奨が変わっても新生児の呼吸生理が変わるわけではありませんので、新生児の生理学に基づいた解説をしていきます。最初に新生児の呼吸刺激に関して誤解をしている人もいるかもしれませんので、それを解いておこうと思います。昔は生まれて泣かない赤ん坊を泣かせるために、水につけたり、逆さにしてバシバシ背中をたたいたり荒っぽいことをして何とか蘇生しようとしていました。もちろん今はこんなことはしませんが、これは呼吸を始めるために激しく痛い刺激を行わなければならない、という誤った考え方に基づいた手法でした。新生児で実際に呼吸を促す刺激は痛み刺激ではなく「皮膚への触覚刺激」なのです。ということは、羊水をタオルで拭き上げることも呼吸を促す刺激となっていますので、出生後にすでに呼吸を促す刺激をしているわけです。その上で呼吸が始まらない場合に更なる刺激を行うのですから、執拗に刺激を続けても仕方がないのです。無呼吸であれば早々に人工呼吸を行うべきです。多くの場合、数回バッグ換気をするだけで「私にはもう人工呼吸しなくていい」と言わんばかりに呼吸を始めてくれます。一方、自発呼吸はあるけれども不規則で弱い場合には刺激を行い、大きな呼吸を促すことは有効です。ただし、自発呼吸を促し安定させることが目的であって、啼泣を誘発することが目的ではありません。なぜなら、新生児は啼泣後に無呼吸を起こすことがあるためです。特に、分娩ストレスが強く具合が悪く生まれた児では過換気による呼吸抑制の反応が強く出やすい状態ですので、泣きだしたと安心してしまうと気がついた時には静かで呼吸を止めてしまっていたというようなことがあります。これは新生児の呼吸がPaCO2で調節されていることと、脳血管の自動調節能が仮死児では落ちており、過換気による脳血管収縮の影響が出やすいことによります。ですから、優しく必要最小限の刺激を心がける必要があります。そして前の章の繰り返しですが、蘇生中は時から目を離さないことがとても大事です。

【極論かましてよかですか】
 新生児の呼吸刺激は触覚刺激である
 泣かせるような激しい刺激をしてはならない。刺激で呼吸が始まらなければ即人工呼吸

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