給与さえ高ければ、応募が来るわけではない
これは、私がよく言っている言葉です。もちろん、給与が低いのは論外です。しかし、月給50万円、100万円ならあふれるくらいの応募が来るというわけではありません。
Twitter的な言い方をすれば、
ただ100万円がほしいんじゃない。
働かないで100万円ほしいんだ。
というのが本音でしょう。
つまり、働く内容と給与のバランスです。いくら高給与であっても、労働時間が月300時間では応募は来ません。
確かに、忙しいから人材が欲しいわけですし、本音を言えばアレもコレもソレもやってほしい、というのが企業側の偽らざる本音でしょう。しかし、考えてください。
人事担当のあなたが、転職活動の中で
「うちでは中途採用と新卒採用のほかに、労務も給与計算も評価制度も、広報やPRもやってほしいんだよね…月給20万円で」
と応募企業から言われたら、どうでしょうか。その場では愛想笑いをするかもしれませんが、間違いなく「逆お祈りメール」を送るはずです。にも関わらず、多くの企業では同じようなことを平然と言っていることが散見されます。
「クラウド基盤のアプリを開発したいから、アプリ開発ができて、さらにクラウドに精通していて、ネットワークの理解もほしいし、今後を見据えてTensorflowとかRaspberry Piとか触れたことがある人がいいよね。え、給与?25万円スタートかなぁ」
……採用の成功をお祈りしております。完。
となりますよね。自分に置き換えたとき、そのスキルを持っていたら、果たして自社に、その給与で転職するでしょうか。
昔、同じようなことを言っていた現場担当に、「いやぁ、それだけのスキルを持っている方だと、年収600万円以上はくだらないですねー(笑)」と言ったところ、「あ、やっぱり?」と返答した方がいました。(特定されないため、詳細は変えています)
わかっとるやないかい!
と心のなかでツッコミを入れました。たぶん、その方もなんとなくわかっていたものの、人事担当はITやエンジニアの知見がまったくなく、市場感もわかっていなかったため、本当に欲しい人材を言っていたのでしょう。
そのような人物がほしいのはわかります。しかし、転職は需要と供給の市場論理で成り立っています。本当は企業において、人事が市場と転職動向を理解し、社内調整をすべきです。
給与に見合った労働時間や業務量にすることで、応募数はかなり改善されるはずです。あるいは、入社時の担当領域を狭めるか。
しかしながら、ITやエンジニアを理解している人事は多くありません。そのため、社内調整ができていないケースがほとんどです。
Atcoderの調査によると、約60%のIT人材採用担当がプログラミングの業務経験も知識もない結果でした。
専門職採用は知識が重要な要素を占めます。特にITエンジニアは求人倍率8.67倍(doda調べ/2021年2月)と、他の職種を圧倒している状況です。その中を勝ち抜き、エンジニアを採用するために、市場や動向、エンジニアの心理を理解するしかありません。
給与とは、あくまで求人を見ようとする、応募してもよいと思うスタートラインです。給与だけで入社する方もいなくはないですが、多くの方は現職の給与を上回れば満足で、高い給与を求めているわけではありません。
逆の言い方をすれば、現職の給与を上回れば、いったんは求人を見てくれるということです。そこからは給与以外の戦いになります。私は「働きがい」や「人の良さ」というポイントを訴求すべき、と説明しています。
なぜならば、休日や有給休暇取得率、産休育休取得率、福利厚生といった「働きやすさ」は(20代にとって)前提であり、それだけで入社を決めるわけではないからです。
そのため、働きやすさは数字や文字情報で事実として記載し、全面には「働きがい」や「人の良さ」を押し出しましょうと提案しています。
もし人が来ないから、給与をべらぼうにあげようと考えている企業が、一度立ち止まって考えてください。応募が来ないのは給与が低いのか、それ以外の魅力がないのか(伝わっていないのか)を。
もしかしたら、みなさんが当たり前と思っていることが魅力になる可能性があります。