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日本語教員試験2024体験記(演習「日本語教師のための入管法」編)

この記事は、「日本語教員試験体験記」の第15回です。
前回までの記事は、noteのマガジンにまとめていますので、合わせてお楽しみ下さい。

日本語教師に求められる「入管法」の知識

日本語教育能力検定試験や日本語教員試験に合格するためには、「入管法」の知識は必須です。検定過去問を見ても各種在留資格の創設の歴史が問われたり、具体的に特定技能制度の内容に踏み込んだ問題などもありました。日本語教師は外国人の日本語学習に関わる職業ですから、「入管法」の知識をもっておくようにというメッセージなのですが、なかなか理解しづらいところもあり、完璧に理解しているとはいえないものです。今回は、自分なりに基礎の基礎から「入管法」についてまとめて、日々の業務に活かす基礎としていきたいと思います。私は弁護士ではありませんので、法律についての正確な解説ができるわけではありませんが、日本語教師として学んだ内容程度ということで、予めご了承ください。また、条文の箇所が面倒な方は、ざっと読み飛ばして先の見出しに進んでください。

「入管法」関連法令と、「法務省告示」について

通称で「入管法」と読んでいるこの法律ですが、正式には「出入国管理及び難民認定法」と表わされています。出入国だけなく、難民の認定にも関わる法律と読めますね。法律の正式名称は大事です。

第1条を見てみましょう。

出入国管理及び難民認定法
(目的)
第一条
出入国管理及び難民認定法は、本邦に入国し、又は本邦から出国する全ての人の出入国及び本邦に在留する全ての外国人の在留の公正な管理を図るとともに、難民の認定手続を整備することを目的とする。

出入国管理及び難民認定法

①日本に入ったり、出たりする外国人の在留の公正な管理を図る
②難民認定手続きを整備する

ここまでは読んだ通りです。そうなんだなという理解でいいでしょう。ところでこれは「法律」なのですが、細かいところの決まりは「政令」であるところの「施行令」や、「省令」であるところの「施行規則」に委任していることが多いです。

出入国管理及び難民認定法施行令

第一条
出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)第二条第五号ロの政令で定める地域は、台湾並びにヨルダン川西岸地区及びガザ地区とする。

出入国管理及び難民認定法施行令

施行令の前文の主語は、「内閣は」となっています。第一条から具体的な規定も入っています。だんだん「別表」などが多くなって、あちこちを参照しながら読まないといけない構造になっていきます。

出入国管理及び難民認定法施行規則
(出入国港)

第一条
出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)第二条第八号に規定する出入国港は、次の各号に掲げるとおりとする。
一 別表第一に掲げる港又は飛行場
二 前号に規定する港又は飛行場以外の港又は飛行場であつて、地方出入国在留管理局長が、特定の船舶又は航空機(以下「船舶等」という。)の乗員及び乗客の出入国のため、臨時に、期間を定めて指定するもの

出入国管理及び難民認定法施行規則

これは「省令」ですから、主語は「法務省」ですね。ここまで、「法律」「政令」「省令」と来ました。ところで、日本語学校には「告示校」と呼ばれる学校がありますが、「告示」とは何でしょうか。

国家行政組織法

第十四条
各省大臣、各委員会及び各庁の長官、その機関の所掌事務について、公示を必要とする場合においては、告示を発することができる。
2各省大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、命令又は示達をするため、所管の諸機関及び職員に対し、訓令又は通達を発することができる。

国家行政組織法

「告示」の主語は「大臣」ですね。「法務省告示校」ということは、「法務大臣が発した告示に基づく学校」という理解でよさそうです。

ここまで来たついでに、日本語学校に関わる「告示基準」も見ておきましょう。

日本語教育機関の告示基準

出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令(平成2年法務省令第16号)の表の法別表第1の4の表の留学の項の下欄に掲げる活動の項下欄第6号の規定に基づき告示をもって定める日本語教育機関の基準について,文部科学省高等教育局及び文化庁に意見を聴いた上で,次のとおり定める。(新たに定める際の基準)

第一条
出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令の留学の在留資格に係る基準の規定に基づき日本語教育機関等を定める件(平成2年法務省告示第145号。以下「留学告示」という。)別表第1の1の表に新たに日本語教育機関を掲げるときは,文部科学大臣の意見を聴いた上,次の各号のいずれにも該当することを確認して掲げるものとする。
(以下省略)

日本語教育機関の告示基準(出入国在留管理庁)

頭がクラクラしてきました。前文に、Webサイトでいうところのハイパーリンクのように、参照先を示した条文が示されています。

出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令(平成2年法務省令第16号)の表の法別表第1の4の表の留学の項の下欄に掲げる活動の項下欄第6号の規定

出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令の留学の在留資格に係る基準の規定に基づき日本語教育機関等を定める件

しつこく食い下がっていきましょう。

出入国管理及び難民認定法

(入国審査官の審査)
第七条
入国審査官は、前条第二項の申請があつたときは、当該外国人が次の各号(第二十六条第一項の規定により再入国の許可を受けている者又は第六十一条の二の十二第一項の規定により交付を受けた難民旅行証明書を所持している者については、第一号及び第四号)に掲げる上陸のための条件に適合しているかどうかを審査しなければならない。
(中略)
二 申請に係る本邦において行おうとする活動が虚偽のものでなく、別表第一の下欄に掲げる活動(二の表の高度専門職の項の下欄第二号に掲げる活動を除き、五の表の下欄に掲げる活動については、法務大臣があらかじめ告示をもつて定める活動に限る。)又は別表第二の下欄に掲げる身分若しくは地位(永住者の項の下欄に掲げる地位を除き、定住者の項の下欄に掲げる地位については、法務大臣があらかじめ告示をもつて定めるものに限る。)を有する者としての活動のいずれかに該当し、かつ、別表第一の二の表及び四の表の下欄に掲げる活動を行おうとする者については我が国の産業及び国民生活に与える影響その他の事情を勘案して法務省令で定める基準に適合すること(別表第一の二の表の特定技能の項の下欄第一号に掲げる活動を行おうとする外国人については、一号特定技能外国人支援計画が第二条の五第六項及び第七項の規定に適合するものであることを含む。)。

出入国管理及び難民認定法

迷子になりそうです。出入国及び難民認定法の第七条第一項では「入国審査官は、申請があったときは、上陸のための条件に適合しているかを審査しなければならない。」となっていて、同項第二号の中には「法務大臣があらかじめ告示」と「法務省令で定める基準」という表現が見られるので、「省令」の源がここにあることを確認できました。

もうちょっと頑張ります。

出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令

出入国管理及び難民認定法(昭和二十六年政令第三百十九号)第七条の規定に基づき、出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令を次のように定める。
出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)第七条第一項第二号の基準は、法第六条第二項の申請を行った者(以下「申請人」という。)が本邦において行おうとする次の表の上欄に掲げる活動に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げるとおりとする。

出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令

完全に迷子になりましたので、一旦整理。
法律→省令→告示という流れで、日本語学校の基準が定められているという雰囲気だけは掴みました。「告示」の前文では「文部科学省高等教育局及び文化庁に意見を聴いた上」定めたとらり、第一条で、「新たに日本語教育機関を掲げるときは,文部科学大臣の意見を聴いた上」で掲げると書いてあります。法務省と文科省が入り乱れているのが読み取れます。

留学生のアルバイト28時間ルールの根拠条文

おそらく読者の方は、いい感じに読み飛ばしてくださって、この見出しまでたどり着かれたことでしょう。今回の記事の核心は「留学生のアルバイト(資格外活動)の28時間ルール」の根拠規定です。

出入国管理及び難民認定法施行規則
第十九条

5 法第十九条第二項の規定により条件を付して新たに許可する活動の内容は、次の各号のいずれかによるものとする。
一 一週について二十八時間以内(留学の在留資格をもつて在留する者については、在籍する教育機関が学則で定める長期休業期間にあるときは、一日について八時間以内)の収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和二十三年法律第百二十二号)第二条第一項に規定する風俗営業、同条第六項に規定する店舗型性風俗特殊営業若しくは同条第十一項に規定する特定遊興飲食店営業が営まれている営業所において行うもの又は同条第七項に規定する無店舗型性風俗特殊営業、同条第八項に規定する映像送信型性風俗特殊営業、同条第九項に規定する店舗型電話異性紹介営業若しくは同条第十項に規定する無店舗型電話異性紹介営業に従事するものを除き、留学の在留資格をもつて在留する者については教育機関に在籍している間に行うものに限る。)

出入国管理及び難民認定法施行規則

要するに、「留学生は一週間において28時間までのアルバイトができる」ということです。ある日を基準に、前一週間に渡っても、先一週間渡っても28時間以内ではいけないということだそうです。「少ししかオーバーしてないから大丈夫、センセイ」という言い訳は通用しません。入管は日本語学校の定期検査で、どのように実体把握をして、維持・改善に努めているかをチェックしてきますから、日本語学校の教職員は留学生のアルバイトについては特にピリピリしています。

在留カードの裏や、パスポートには「資格課外活動許可」のスタンプやシールが貼られています。「風俗営業を除く」という表記がありますが、条文を見ると納得できますね。とにかく勉強に来た留学生は、風俗営業はやったらあかんということこが事細かに記述されています。

日本語学校での実務

アルバイトとして留学生を雇用している事業者に視点を移します。事業者側も法令を守るのは当然のことですから、条文に書いてあった「学校が学則で定める長期休暇」がいつからいつまでなのかの確認を学校に求めてきます。

私の勤務校では、校長名義で文書を作成して、「当校の長期休暇は、以下の通りです。事業者各位におかれましても法令順守のための周知を徹底してください。」という趣旨です。学生は「アルバイトの紙、センセイ」と読んでいますが、実務的には「長期休暇周知文書」と読んでいます。

これ、A4のビジネス文書で、捺印も省略して交付するのですが、事業者は「名宛人」の記述を要求してくることがあります。こちらの手間からすれば、Webページに書いてるからそれを見て下さいで済ませたいのですが、各社それぞれ手続きがあるので、要望に答えなければなりません。学生名簿データからWordで「差し込み印刷」する方法、スプレッドシートからvlookupで名前を引っ張り、マクロで連続印刷する方法、いっそ手書きで名前を書き込む方法など、担当者のITスキルの見せ所でしょう。100人の学生がいれば100通の文書ですから、印刷もミスがないように気を使うところです。私は、FileMakerというデータベースソフトでカスタムAppを作っていて、日本語学校の情報処理システムからボタン一発でPDF出力という体制なので今でこそ苦ではありませんが、開校当初はいろいろと苦労があったなぁとなぁと懐かしく思います。

また、卒業した学生が、進学先の専門学校でもらった「アルバイトの紙(長期休暇」を紛失したから、「センセイ、作ってください」と私に頼んで来たことがありました。他人の名前では文書を勝手に作ってはいけないのだよと指導します。文書の要素には、文書名義、名宛人、日付、タイトル、内容というものがありますが、文書名義は最も大切な要素です。弁護士、司法書士、行政書士でも、委任なく文書を作成できません。文書偽造となってしまいます。

「文書名義」についての小噺

警察、検察、裁判所はとにかく「本人名義の文書」を信用しません。自分で作れるから客観性がないということでしょうね。以前私が外国人(勤務校に在籍する学生の、恋人関係ある外部外国人)にあるから傷害の被害を食らったとき、業務中であったことや、校内で聞き取りした被疑者の恋人に対するDV事案についての調査報告書を示しましたが、見事なこと大阪府警も大阪地検も無視しました。大阪地裁の公判廷で被害者意見陳述をしましたが、被告人が犯行に至る経緯として事実を述べようとしたら、イケメンの裁判官が、「証人、その内容はこの公判廷においては不適なので、証言原稿の段落を2段飛ばして、その先から読み上げてください。」と指示してきました。どんな書類や証拠も、お上が必要と思わなければ採用されないのが司法の現実かと勉強したものです。

一方、出入国在留管理庁(通称「入管」)は、対称的です。申請書、添付種類の他、事情を申述させるために「理由書」を書いてくださいという指示が多くあります。申請者の文書名義で書いて申し述べた内容を採用してくれるのですから、ある意味警察、検察、裁判所よりも話が分かる感じがします。私の感覚ですが、とりあえず事情は説明させるが、「最終的には法務大臣の権限で決めるから、これでいいのだ」ということなのかもしれません。

「認定日本語教育機関」になったらどうなるのか

ここまでの話は、「法務省告示校たる日本語学校」の話です。新しくできた法律「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律」に基づく「認定日本語教育機関」については全く別の話になってくるでしょう。

私の勤務校に限らず、認定日本語教育機関を目指す日本語学校の担当者の方の話を聞くと、「新しい学校を一からつくる感覚だ」という感想をこぼしていました。根拠となる法令が代わると、現場に落ちてくる作業もまたいろいろと変わっていくのかな、と、今考えても仕方ないのですが、いずれくる面倒な仕事に備えて、現在の仕事を整理しておかなければと思っています。

まとめ

日本語教員試験に向けた学習と、現在の仕事の整理と、条文を読むトレーニングを同時に行いました。自分に課した「演習」ですね。今後も日本語教育に関する問題や課題を、自分に対して「行動中心アプローチ」で問題設定して、あれこれ情報をあつめながら、「答案」を作っていきたいと思います。本日は2024年12月2日(月曜日)です。日本語教員試験の結果発表まで20日を切りました。落ちても、受かっても、演習は続けていく所存です。


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