【まるで植物!?】光に反応して成長する金属
植物の芽や花が陽の光に向かって成長するのは有名な話ですよね。
では、金属が光に向かって成長すると言ったらどうでしょうか?
え!生きているの?と思われる方はまずいないと思いますが、まるで植物のごとく成長する金属が見つかりました。
今回はそんな奇妙な金属の成長についてのお話です。
光に向かって成長する金属
そもそも光に向かって成長するといっても、それは大気中のお話ではありません。金属は水の中で成長するんです。
電解質の入ったビーカーの中に浸した金属片に電気を流すと、表面に金属の膜が成長してきます。これは電池やめっきでよくみられる電解析出という現象ですが、ここに光を当てると非常に興味深い現象が起こるようです。
今回実験で使用されたのはSe-Teというセレンとテルルという金属の合金です。
そんな物質聞いたことないぞ!って方は是非周期表を探してみてください。中盤から下の方にあるあまり目立たない金属です。
この物質に光を当てて電気を流すとなんと光の色によって異なる成長を見せたようです。
まずは写真を見てもらった方がわかりやすいと思います。
ニョキニョキと植物の芽が出たかのように成長している様子がわかりますね。
さらに面白いのが、光の色(波長)に応じて、成長したSe-Teの幅が変化したようです。(上の○○nmというのが波長の違いですね)
小さな波長の光(ここでは緑色)を当てるとその分幅は狭くなり、逆に大きな波長の光(ここでは赤色)を当てると幅が広くなったようです。
まるで植物が太陽光に応じて成長するかのように金属の表面でニョキニョキ出てきた線の幅は光の波長によって変化するのです。
光の当て方で自由自在に形を変えられる
研究グループはさらに面白いことを考え付きました。
それはニョキニョキの成長途中で色を変えたらどうなるんだろう?という実験です。
たしかに興味深い実験ですよね。そして、その結果は想像通りに面白いものでした。
まず初めに小さな波長の緑の光を当ててある程度成長させたのち、大きな波長の赤い光を当てました。すると、ニョキニョキの幅が途中から広くなり、感覚がつぶれたような状態になりました。
なんだかぐちゃっとなったイメージですね。
反対に、初めに大きな波長の赤い光を当たのち、小さな波長の緑の光を当てると、ニョキニョキが途中で細くなり枝分かれしました。まるで植物が途中で茎や枝を伸ばして分岐しているようですね。
この技術は単に見た目が面白いだけでなく、様々な用途に使えます。例えば、表面のナノ構造を制御して人工的に不思議な現象を引き起こすメタサーフェスをはじめとした微細な構造体を光の色だけで変えられるわけです。
本来、大掛かりな装置を使わなければならないところをビーカーの中にLEDを当ててできてしまうというのは革新的です。
また、どうしてこのような現象が起きたのかというのも気になりますよね。
結晶成長についてはそれほど詳細な説明はありませんでしたが、研究グループは電磁場シミュレーションにより、波長の違いによる電場強度分布を計算しました。
光というのは電磁波といって電気と磁気の空間を作り出します。普段、そんなすごい効果を出しているようには思いませんが、実はとってもすごいんです。
この電磁場シミュレーションによるとたしかに先端部分で波長に応じて強度分布の形状が変化していることがわかりました。この電気と磁気の空間が原料となる溶液中のイオンに影響を与えた結果、あのようなニョキニョキしたものが生まれた可能性があります。
最後に
今回は植物のように光を追って成長する不思議な金属の現象について紹介しました。
まるで植物に学んだそんなものづくりが私たちの世界を変えてくれるかもしれませんね。
参考文献
Plastic Morphological Response to Spectral Shifts during Inorganic Phototropic Growth