ナノスケールの凹凸を光で観察する微分干渉顕微鏡とは
光を使ってナノスケールのものを観察するというのは不可能とされてきました。
そもそも私たちの目に見える可視光が数百ナノメートルであるため、数ナノメートルの物を可視光を使ってみるなんて言うのは夢のようなお話です。
しかし、そんな不可能を可能にする方法を考えるのも研究者のすごいところです。
ということで、今回はナノスケールの凹凸を光を使って観察できるようになった微分干渉顕微鏡について紹介したいと思います。
微分干渉顕微鏡とは
微分とか干渉とか言われるとなんだか難しそうですよね。
確かに顕微鏡の中身は結構複雑で簡単ではありませんが、そんなに恐れることはありません。これまで見てきた位相差顕微鏡と偏光顕微鏡をさらにパワーアップさせたものだと思えばOKです。
少しおさらいですが、位相差顕微鏡は直接光と回折光が検出器に届くタイミングの違い(位相差)を利用して明暗のコントラストを付ける手法、偏光顕微鏡は複屈折性を持つ特別な物質に対して分裂した偏光の届くタイミングの違いを利用した手法でした。
どちらも2つの異なる経路をたどった光の届くタイミングの違いを利用して干渉させて像を作っているというのが特徴でした。実はこの微分干渉顕微鏡も考え方は同じなんです。
それでは、微分干渉顕微鏡について一緒に見ていきましょう。
微分干渉顕微鏡の原理
微分干渉顕微鏡では、偏光顕微鏡と同じようにポラライザーと呼ばれる偏光板を使って、照射光を直線偏光にしてやります。ここまでは問題ないですよね。
次が特徴的なんですが、ウォラストンプリズムと呼ばれる道具によって直線偏光を直交する2種類の偏光に分けてやります。これが微分干渉顕微鏡の肝なんですね。
偏光顕微鏡では複屈折性のあるサンプル内で偏光が分裂していましたが、微分干渉顕微鏡ではサンプルにあてる前に分裂させてやります。
単に分裂させると光が発散してしまうので、コンデンサレンズを使って2つの偏光の向きをそろえてサンプルにまっすぐ当たるように調整します。
すると、2つの光はすぐ隣の異なる経路を通ることになります。目には見えないレベルの近さなんですが、確かに異なる位置に当たっているんです。これが段差や凹凸に強い理由になります。もう少し説明を続けましょう。
2つの光はサンプルを取って上部のレンズで向きを変えられ、2つ目のウォラストンプリズムによって合成されます。そして、アナライザーによって振動方向を整えられて検出器へたどり着きます。
さて、いったいこの光の旅路でいったい何がわかるのでしょうか?これまで登場してきた位相差顕微鏡や偏光顕微鏡と比べて良くなるのでしょうか?
ここで2つの光がサンプルのエリアを通るときに注目します。
仮に、サンプルがないところやサンプルが原子数個レベル(1 nm以下)で平坦で同じ厚さのところを2つの光が取っていたとすると、特別情報はありません。なぜなら、物質も厚さも同じであれば、2つの光がたどった経路は物理的には同じとみなせるからです。
一方、サンプルの端や段差、凹凸があるところに当たったとしましょう。すると2つの光は異なる厚さのサンプルを取ったことになるので、位相がズレる(タイミングがずれる)わけですね。
すると、再びアナライザーで出会うときに干渉します。その干渉効果をコントラストとして描画してくれるわけですね。
偏光顕微鏡では、サンプル自体に複屈折を起こす特徴がなければなりませんでしたが、微分干渉顕微鏡では顕微鏡自体が偏光を分離してくれているので、どんなサンプルでも適用可能です。
さらに、この光の干渉というのは非常にセンシティブであるため、垂直方向の凹凸に関してであれば、その分解能は数ナノメートルとも言われています。
光の限界を大きく超えた顕微鏡として、生物分野から半導体分野まで大変重宝されているようです。
最後に
ちなみに、名前がいかついですが、開発者の名前を取ってノマルスキー顕微鏡とも言われます。こっちの方が何だか親しみやすい名前なので、よく使われます。