ミクロなマツの木で効率的な熱放射を実現
最近、ずいぶん寒くなってきましたね。とはいえ、科学に季節は関係ありません。
今回紹介するのは、温暖化が進む現代においてとても重要な冷却材料についてです。
一般的に太陽光があたると熱が溜まってしまいます。この熱を効率的に放射して、自然に冷却することができれば、熱い夏だけでなく、不必要に熱くなるのを防ぐことができます。
研究グループはモルフォ蝶の羽に着想を得て、小さなマツの木構造を作ることで、効率的な熱放射材料を作ることに成功しました。
モルフォ蝶の羽の微細構造
モルフォ蝶は青紫色のとても鮮やかな羽をもつ蝶ですね。この鮮やかなメタリックカラーは羽の表面にある微細な構造によって生まれるため、構造色とも呼ばれます。
こちらの画像を見るとわかるように、モルフォ蝶の羽には、ミクロなサイズで木のような構造が無数に生えているような形になっているんです。
これこそが鮮やかな色の秘密なわけですが、今回の研究ではこの特異な光を制御する構造を利用することで、放射冷却という熱の制御に使えないかと考えたようです。
ミクロなマツの木構造
モルフォ蝶の羽の微細構造は、枝の部分の長さがそれぞれランダムになっているようです。下図が自然界に存在するモルフォ蝶の羽に見られる微細構造の模式図です。
一方で、このランダムな長さを均一にそろえることで、熱放射能力を強化することを考えたようです。そして、この構造をシンプルなマツの木構造といっています。
実際に熱放射能力(=熱流束)を計算すると、モルフォ蝶の羽の構造よりもシンプルなマツの木構造の方が、効率的に熱放射を実現する可能性が見えてきました。
そして放射冷却のためには、大気によって吸収される波長域の光に対して高い放射率を持ち、それ以外の波長域の光に対しては高い反射率を持つ必要があるようです。少し難しく感じますが、どうやら光の波長域(色)によって、異なる特徴を用意してやる必要があるみたいです。
そのため、研究グループでは、シンプルなマツの木構造に加えて、その上に薄い反射用フィルムを乗せることを考えました。このフィルムによってさらに、効率的に放射冷却を実現できるようです。
加えて、マツの木構造を基板に対して、垂直に生やすか、寝かせるかによってもこの熱効率が大きく変わることを確認しました。
その結果、シンプルなマツの木構造は垂直に生やすよりも横に寝かせる状態の方が良いことがわかりました。
ちなみにこの研究ではSiCという炭素とシリコンの化合物を使うことを想定してシミュレーションしていますが、他にもhBN, GaAs, InP, α-Fe2O3といった物質も候補として挙げられていました。つまり、材料選定を変えることで、まだまだ新しい発見があるかもしれないということです。
最後に
今回はモルフォ蝶の羽から着想を得て、作り上げたミクロなマツの木構造が効率的な熱放射を実現するという研究について紹介しました。
モルフォ蝶の鮮やかさから得られるものは、特殊な色の特性だけだと思っていましたが、その光に関与して熱放射まで操ってしまうというのは驚きですね。
この論文は主にシミュレーションによる研究なので、今後は実際に素材を作って実用レベルまで進めてほしいですね。加えて、熱放射の分野はあまり詳しくないので、私自身もう少し勉強しなくてはと思いましたね。
参考文献
A biomimicry design for nanoscale radiative cooling applications inspired by Morpho didius butterfy