ナノサイズの骨格で酵素の性能を向上させる
私たちの生活の様々なところで使われている酵素ですが、酵素による化学反応を人間が制御するのは簡単なことではなかったりします。
酵素は化学反応を促進させる触媒機能を持った生体分子ですが、環境条件によって容易に損傷してしまうことがあります。
今回紹介する研究では、酵素を有機金属骨格(MOF)と呼ばれるナノレベル骨組み構造にくっつけることで、酵素をより安定させ、有用にする方法を発見しました。
MOFって何?
MOFとはその名の通り有機分子と金属分子が組み合わさってできたナノの世界のジャングルジムのような構造です。ときに分子を骨組みの中に吸収したり放出したりすることができ、近年流行りの素材でもあります。
研究チームは、NH2-MIL-101という有機金属骨格をもとにピロメリット酸という物質で修飾した後、加熱してピロメリット酸を除去することで準NH2-MIL-101(qNM)を作りました。
下の図を見てみるとわかりやすいと思いますが、もともと規則的に並んでいた骨組みの一部を抜いて少し大きな穴の開いた構造を作るということになりますね。
なんだか難しい名前にも聞こえますが、大きな穴が開いたqNMという新材料ができたと思えばOKです。
qNMの実力は?
qNMの能力を調べてみると非常に優れた触媒活性を持ち、過酸化水素の検出にも利用できることがわかりました。また、qNMを他のMOFと比較したところ、特定の反応に最も適していることが分かったようです。
例えば、異なるタイプのMOF材料(MIL-101、NH2-MIL-101、qNM)でペルオキシダーゼ活性を測定してみると、新しく開発されたqNMは他のMOFよりも優れた触媒活性と基質への親和性を示しました。
単純に考えるともともとのNH2-MIL-101から大きな穴を空けただけなのにすごいですね。
また、架橋法を用いてグルコースオキシダーゼ(GOx)をキナ酸修飾qNMに固定化し、弱い相互作用でNH2-MIL-101およびMIL-101表面に固定化したGOxと比較して、模倣マルチ酵素システムの構築を試みました。
その結果、GOx-qNMはGOx-MIL-101と比較して高い固定化効率と触媒活性を示し、qNMの緩やかな構造により物質移動抵抗が低減することがわかりました。このシステムは非常に効率的で、GOxを単独で使うよりもはるかに速く反応を触媒できるようです。
酵素が限られた空間で組織化されているため、基質と触媒の活性部位との相互作用が有利に働き、均質な溶液中に分散した遊離のGOxとqNMに比べ、カスケード反応が約2.67倍促進されることが明らかになりました。
最後に
今回開発されたバイオミメティックな準NH2-MIL-101(qNM)は、酵素固定化のためのプラットフォームとして使用できる新しいタイプの有機金属骨格として使用できます
高効率なペルオキシダーゼ活性を示し、生体触媒カスケードの候補となりえます。
生体模倣材料と天然酵素の組み合わせは、バイオテクノロジーや環境に優しい生体模倣触媒への応用が期待される、多機能で高効率な生体触媒の設計に新たな機会を提供する可能性があります。
参考文献
Enzymatic Cascade Reactions Mediated by Highly Efficient Biomimetic Quasi Metal−Organic Frameworks
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